結晶に翅

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また同じ夢だった。目に焼き付くような群青の空と海、真っ白な三日月の浜の上に立ち、鳴りやまない豪奢な鐘の音の中で、ハイクはあの掠れた声を聞いていた。
「探しに行かねばならぬ。償わねばならぬ」
太陽は真上、爛れるような熱さを持つ日差しが冷たい潮風と混ざり、まだらになってハイクの全身を強く煽る。ハイクは叫んだ。
「おまえは誰だ」
「我らは」
透明な影がハイクの目の前に立ちのぼった。暴風が吹き荒れ、だというのに、影は超然としてぐらつく気配すら感じさせない。
「我らは嵐。我らは咆哮。我らは」
ぶわり、圧倒的な質量を持つ風の塊が、ハイクを空へと押し上げた。風圧で息が止まる。ハイクは両目を大きく見開いた。たった一瞬で、影はハイクの目と鼻の先にまで迫っていた。
「我らは、おまえだ」

     *

ごとりと額に鈍い衝撃と痛みが来て、ぐ、と変な声が出た。机に開きっぱなしだった古代文字の研究書に額をぶつけたせいだ。
ハイクは低く呻いて上半身を起こし、額を抑えながらもう片方の手で腰を擦った。無理な体勢で眠ってしまったせいか、節々が出来損ないの機械人形のように軋んでいる。昨夜から蟻の巣の自室で読書に没頭するうち、そのままうたた寝していたらしい。
壁の時計を見ると、まだ十の刻だ。ハイクはみしみしと音が出そうな腰を擦ったまま、“北西域の言語域の変遷”の頁を閉じた。ハイクの寝覚めを察して、大鷲の気配がのっそりと浮きあがってくる。大鷲は、黄色の左目を一度だけ瞬かせ、ハイクを覗き込んだ。
「あの夢だったな?」
ハイクは立ち上がりながら「ああ」と返した。喉と舌が乾燥して、声がざらつく。
「そうか、おまえも見てたんだよな……痛てて、全然寝た気がしねえ」
「最近、ずっとそんな調子だな。寝直すか?」
「いや、いい。目が覚めた」
本棚の影に置かれた水桶の元に向かう。熱い湯が飲みたいと思ったのだ。右手に桶をぶら下げたまま部屋を出ようとすると、しかし、まさにノブに手を掛けようとした扉から軽やかなノックの音が響いて、ハイクは思わずその場でぴたりと静止した。なぜか大鷲まで止まっている。驚いたらしい。
陰気な地下室への訪問客は非常に少ない。ここのことを知っているのは、アリアとフィデリオ、それから少数の同業者くらいだ。大鷲が「今日はあの子どもが来る日だったか」と、首をかしげた。
「アリアは五日前に来たばっかりだろ」
「それもそうか」
大鷲が爽やかな声で鳴いた。普段より半音ほど音が低い、残念がっているようだ。再び二回ノックされる。ハイクはドアに近づき、鍵を開けた。
扉を開くと、そこには一人の若い女性が立っていた。ゆるく波打つ栗色の髪を結わえて青のリボンでとめ、髪の色に合わせた小綺麗な茶色のワンピースを着ている。このあたりでならどこでも見かける、ごく普通の町娘の装いだ。だが、地上ですれ違うならともかく、彼女のような人間がトレジャーハンター個人のねぐらに直接足を運ぶことなどそうそうない。
「ハイク・ルドラという人はあなた?」
彼女はほほ笑んで、ハイクを見上げた。両手を前で重ね、ゆったりと落ち着いている。少なからずこちらのことを知っている素振りだ。
「そうだけど、あんたは?」
「まあ、ごめんなさい。私はクリス。あなたに仕事を依頼したいのだけれど」
「依頼? ハンターの?」
クリスは頷いた。どこでここのことを聞いて来たのだろう。疑問はますます膨らんだが、それらを表に出さないようにして、ハイクはなるべくすまなそうな顔をつくって笑った。あいにくと、うっかりこの手の指名を受けて嫌というほど働かされてきたばかりだ。脳裏にちらつく小隊長殿の笑顔を追い払う。
「来て貰ったのに悪いが、そういう依頼なら街の仲介所に持って行った方がいい。ほかの街ならともかく、ここは王都だ。俺よりも腕のいい連中は山ほどいる」
「もちろん行ってきたわ。でも、依頼書を貼っておいて貰っても、ぜんぜん受けてくれる人がいなかったんだもの。困っていたら、酒場に居たハンターさん達が『あいつならやってくれるだろう』って、ここを紹介してくれたの」
体よく押し付けられたわけだ。どうやらクリスは余程無茶な依頼を出したらしい。
「なるほどな。それであんたは素直にここまで来たと」
「ええ。受けた依頼が未遂だったことがない腕利きなんでしょう? その人達が言っていたわ」
「できない依頼を受けないだけだ。あんた、そいつらに騙されているとは考えなかったのか」
「みんなとっても陽気で親切な人達だったもの。疑うなんて失礼よ」
フィデリオといいクリスといい、どうしてこうハイクの周りには素直で聞き分けのいい人間が集まってくるのだろう。自分がそうだからだ、と思うことにする。
だが、だからこそ安請け合いはできない。期待に半端に応えるのは本意ではない。ハイクは愛想笑いを取り払い、渋面を隠さずに言った。
「悪いが、断る。王都の仲介所で受け手が見つからない依頼なんて、よっぽど割に合わないか、死ぬ危険が高いかのどっちかだからな」
かなり直接的な断りを入れたつもりだったが、それでもクリスは諦めようとしなかった。ぐっと距離を詰められ、思わず半歩後ずさる。後から思えば、この時にはすでにハイクの負けは決まっていたのだろう。
「ねえ、お願い。もうここが最後なのよ。父の為なの、せめて話だけでも聞いて」
ハイクはクリスの目を冷たく見下ろした。ほとんど睨んだと言っていい。しかし、クリスは怯まず、澄んだヘーゼルで一心にハイクを見上げてくる。彼女にとってはハイクが頼みの綱なのだろう。そこに嘘も偽りもない。
数秒睨み合い、ハイクはついに、玄関先でクリスを追い返すための口上を探すのを諦めた。
「分かった。入ってくれ」
扉を広く開けると、それだけでクリスの表情がぱっと明るくなった。
「ありがとう」
クリスを中に招き入れ、扉を閉めたところで、大鷲が氷を叩いたような声でしみじみと呟いた。腰の銃がわずかに震える。笑ったのだろう。
「昔に比べて、おまえはずいぶんと人を好くようになったな」
返事の代わりに指先で強く銃を叩いた。いたい、と抗議されたが無視した。

骨董品の青い椅子にクリスを座らせ、湯を沸かして紅茶を淹れているあいだ、彼女はきょろきょろと興味深そうに部屋を眺めていた。ハンターの部屋など見たこともないのだろう。また本の数が増えたので、棚からあぶれた分は床に積み上げているが、最低限の物しかない地味な部屋だ。カップに茶を注ぐハイクの背に、クリスの朗らかな声がかかった。
「よかった、思ったよりもきちんとした部屋ね。紅茶も出してくれるし。話を聞いた時は、どんな軟派な人かと思ったけど」
一体どんな前評判を聞かされてきたのだろう。ハイクは「そりゃあどうも」と熱々の紅茶のカップを渡し、机と合わせて使っている木のスツールに腰掛けた。椅子に足を揃えて落ち着いているクリスの服は、灯りの下で改めて見てみると、王都でも有名な仕立て屋による上物だ。ハイクはクリスに対する認識を街娘から物腰の柔らかいお嬢様に改めた。
「で、誰から聞いたんだ。ここのこと」
「マキナさんとレオさんよ。大親友なんでしょう?」
あの二人か。ハイクは出かかった溜め息をすんでのところで飲み下し、紅茶をすすった。確かに彼らなら、ハイクの住み家も知っているだろう。大親友かはともかく、マキナには昔世話になったし、レオと三人で飲んだ回数も多い。
「友達じゃなかったの?」
「いや、そうだけど、あいつらは色んな物を大袈裟に言いすぎるからな。おまけに」
「おまけに?」
「美人が大好き」
ふつりと笑うと、クリスも可笑しそうにくすくすと笑った。クリスが紅茶を飲んで落ち着いたところで、ハイクは本題を切り出した。
「じゃあ、始めてくれ。依頼を受けるかどうかは話を聞いてから決める。それでいいよな」
「ええ、もちろんよ」
頷いて、クリスは手提げ袋の中から四角くて硬そうな包みを取り出した。本だろうか、と思っていると、出てきたのは小ぶりなカンバスだった。描かれているのは一羽の蝶だ。黒い輪郭で、形のいい羽には鮮やかな黄、緑、青でグラデーションがかかり、それがステンドグラスのように朝露の草の中できらめいている。ほお、と口から賞賛の声が漏れた。
「これは、これは。いい腕だな」
「ふふ、そうでしょう? 私の父が描いた絵よ」
クリスは誇らしげだった。
「今はもう病気で筆を置いてしまったけれど、昔はいくつも立派な賞を取っていたんだから。この絵はちょうど、私が生まれた頃に描いた作品なの。だから、そうね、だいたい二十年くらい前の物になるわ」
とてもそうは思えないほどの鮮やかさだった。大事に保管されてきたのだろう。仕事柄、美術品のたぐいに触れる機会は多いが、これは間違いなく本物だった。一人の人間が、それまで費やしてきたすべての時間と経験を筆先に濃縮させ、全身全霊でカンバスに閉じこめた、魂の一瞬だ。
「売りに出していたら、きっと大きなお屋敷が買えるくらいの値が付いたでしょうね。だけど、父は結局それをしなかったの」
「特別な思い入れでもあったのか」
「ええ。正確には、絵じゃなくて蝶の方にね。ある時から、父はこの蝶に魅入られてしまったの」
だんだんと、ハイクにも話の流れが掴めてきた。たしかにこれでは、依頼の受け手もいないだろう。
「その蝶はどこで見つけたんだ?」
「胡蝶の庭園という遺跡よ」
クリスが挙げたのは、ハンターが仕事場とする探索地というよりは、一般向けの、一種の観光地として名の知れた屋敷の名前だった。その昔、黄昏の時代が始まった時期に造られたと言われる白亜の屋敷と、広大な庭園。今でもその廃墟には花々が咲き乱れ、色とりどりの蝶が、風の中を貴婦人のように優雅に舞っているという。黄昏の迫る大陸に残された、数少ない楽園。庭園の名と共に、誰もが連想するのがその言葉だった。そこは正しく地上の天国のようであると。
「父は元々蝶や花を絵の題材にするのが好きで、その日も庭園に足を運んでいたらしいの。それで、いつものようにぶらぶらと辺りを散策していたら、ふうっと目の前をこの蝶が通り過ぎて行ったんですって。遊ぶように父の周りをひらひら飛び回って、追いかける間もなくどこかに消えてしまったの。一目で虜になったそうよ。それで、王都に戻ってから寝食も忘れてこの絵を完成させて、父はぴたりと蝶の絵を描かなくなった。この蝶があまりに美しすぎて、他の蝶が描けなくなってしまったというの。そのあとも父は何度も庭園に行っていたけれど、結局同じ蝶を見つけることはできなかった。ようやく分かったのは、アゲハ蝶の仲間らしいってことくらい。病気で寝たきりになった今でも言っているわ、あの子より綺麗なものを、私は生涯見たことが無いって」
クリスはそこで話を区切って、程よい温度になった紅茶を一口飲んだ。すっきりとしたハーブティーだ。狭い部屋に漂う爽快な香りの中で、ハイクは静かに思案した。
「要するに、あんたが俺に探してきて欲しいのは、金銀財宝じゃなくて、二十年前から行方不明の幻の蝶ってことかい」
「ええ、そうなの」
確かにそんな蝶ともなれば、高値で取引されるのはまず間違いない。だからこそハンターに目を付けたのだろう。クリスはまた一口紅茶を飲んだ。気に入って貰えたらしい。
「前に、父の独り言を聞いてしまったの。叶うならまたあの子に会いたかったって、初恋をしてる男の子みたいに言うのよ。母が死んでから、そんな顔をすることはなかったのに。……父はもう長くはないわ。だから私、どうしても、最後にあの虹色の蝶を見せてあげたいの」
昔と違って、今ではあの庭園の側でも魔獣の報告例が上がっている。クリス一人で行くのは困難だろう。観光地としての最盛期も昔の話で、今ではそれなりに腕の立つ冒険家やギルド員が、物見遊山にちらほらと訪れる程度だという。
断ろうと内心では思うのに、体は反対に動く。病気の父と娘の話には弱いのだ。ハイクはスツールから立ち上がった。クリスに背を向け、机側の壁に貼ってある世界地図に近づく。王でさえ果てを知らないと言われるほどに広大なこの國は、地図にも不明瞭な箇所が多かった。けれど最近はようやく、数多の冒険者や騎士達のたゆまぬ調査のおかげで、少しずつその輪郭が描かれつつある。ハイクは地図の上にピン止めしておいたいくつかの覚書を脇に避け、人差し指で地図の中心点を示した。この位置に生えている大樹が、この世界のへそだ。
「いいか、クリス。“世界樹カメーロパルダリス”がここ。で、胡蝶の庭園ってのはここだ。ここまでは分かるだろ」
話しながら、指を五センチほど左に動かした。この地図で言う所の五センチは、飛行船でおよそ一日分の距離に当たる。ちなみに、王都アッキピテルから世界樹までは、最速の飛行船でも丸二日はかかる。
「今は乾季だから、天候が崩れることは滅多にない。足の心配はいらないだろう。飛行船を下りてから庭園まで、少し歩くことになる。魔獣が出るとしたらここだな。戦えとは言わないが、いちおうそれなりに備えておいてくれ。ワンピースはなし」
「待って。じゃあ、依頼を受けてくれるの?」
クリスは驚いて椅子から立ち上がった。ハイクは紅茶を机に置いて、頷いた。
「見つけられると確約はできない。でも、蝶探しには付き合うよ。あんた、けっこう金払いが良さそうだしな」
ハイクはにやりと笑った。どれだけ素手で幻を掴むような話でも、相手は実体のある一匹の蝶だ。ざっと考えただけで、打てる手はいくつかある。
「見てのとおり、俺は貧乏人なんでね。貰える依頼は貰っとくのさ。準備にはどのくらいかかる?」
「一日あれば十分よ」
クリスの切り替えは早かった。上出来だ。ハイクは頷いて、頭の中で行程を計算した。
「じゃあ、出発は明日の朝だな。七の刻に北門で待ち合わせにしよう。始発の飛行船に乗れば、次の日の昼には庭園に着く」
「分かったわ。それとこれ、ハンターさんへの報酬ってどのくらいか分からなくて、もしかしたら少ないかもしれないけれど」
クリスがおずおずと差し出してきた革袋には、ハイクが一月に稼ぐ額の、優に倍以上の金貨がみっちりと詰め込まれていた。芸術家というのはそんなに儲かるものなのだろうか。ハイクも音楽家に転職した方がいいのかもしれない。ハイクは苦笑して、革袋をクリスに押し返してやった。
「覚えとけ、クリス。こういうのは普通後払いだ。それとハンターと金の交渉をする時は、出す金貨は五枚から始めて、多くても十枚までだぞ。あとはハーブを……センブリなんかが一かけらあれば完璧だな」
「なぜ?」
「決まってるだろう。十枚目を出した時に、隠し持ってたセンブリを口に入れるんだ。そうすると、ほら、苦くて涙が出て来るだろ。で、あとは適当に『これ以上は弟のパンが買えなくなってしまうわ』とか言ってやればいい。ハンターってのは純情で涙もろいからな」
「そんな人を騙すようなこと! ああでも、そうよね、必要なことよね。私が世間知らずなだけで」
一人でぶつぶつと呟き始めたクリスに思わず吹き出す。クリスはきょとんとしていたが、ようやくからかわれたと気付いたらしい。「もう!」と腕を小突かれる。
いたい、とハイクが言うと、ざまあみろとでも言うように銃がかたかたと震えた。

     *

胡蝶の庭園は評判どおりの美しさだった。花畑に下り、満開のジャコウの花を楽しむ人々をちらほら見かけるほかに、観光客は誰も居ないようだ。甘いそよ風が心地いい。
穏やかなものだった。空は綿毛のような白雲に覆われている。
「子どもの頃、一度だけ父と来たことがあるわ。やっぱり綺麗ね。ここにだけはずっと春が留まってくれているみたい」
クリスが目を細めた。廃墟の周りは高いイチイの生垣で囲われている。ハイク達が立っているのは、豪華な鍛鉄の正門を潜ってすぐの、屋敷が正面に見える庭の入り口だった。堂々とした白亜の屋敷には、白いレースをふんだんに重ねたドレスのように、何重にも花の彫刻が彫り込まれている。これを建てた貴族は相当な凝り性だったと及び聞くが、おそらく凝り性というのは、辛抱強さが成せる技なのだろう。これだけの装飾を彫らせるには、さぞかし気の遠くなるような月日と金貨が必要だったに違いない。屋敷の左右と正面に広がる庭園には、一面零れるほどに花々が咲き誇り、蜜の香気に酔った白い蝶が、ハイクの鼻先を掠めて音もなく飛んでいく。
「やっぱりほかのハンターさんはいないみたいね」
「まあ、この遺跡はとっくに隅まで調べられているからな。今更何も出やしないさ」
ひととおり眺めて、蝶の数を数える。三十を超えたのでやめた。ここからあの絵の蝶を探し当てることがハイクに課せられた仕事だ。まっとうな方法で見つけようとするのなら、貴族に負けないくらいの辛抱強さが必要になるだろう。しかし今回はそこまでの時間はない。
シンプルな麻のシャツの腕をまくりながら、クリスが張り切ってハイクを仰ぎ見た。
「それで、ここからどうするの? 手分けをして探しましょうか?」
「俺もそう思ってたけど、もっと手っ取り早い方法が見つかったから、今回はそっちにしよう」
不思議そうなクリスをよそに、ハイクは花壇の淵に移動すると、荷物をどさりと下ろして中身を広げていった。ジュスに頼んで取り寄せて貰った屋敷の見取り図、クリスが用意した蝶の絵の写しに、図鑑。捕獲用の網と竹籠。最後に、硝子の卵のような器具。隣に屈みこんでいたクリスは細い指で器具を持ち上げ、ハイクを見た。
「これはなあに?」
「王都の店で網と一緒に調達してきた。愛好家向けの “匂い玉 ”だとさ。いわゆる疑似餌ってやつだな。魚釣りでよくやるだろ」
卵の中には鮮やかな紫色の液体が詰まっていて、絶えずくるくると回っている。錬金術によって濃縮されたツツジの花だ。アゲハ蝶を集めたいなら赤や紫の花の匂い玉が良いらしいと、店員の受け売りをクリスに教えながら、卵を揃いの台座に固定して、先端に付いた小さく細長い突起を、指でぱきんと折る。
しばらく待つと、開いた穴からしゅわしゅわと煙が溢れてきた。みるみるうちに紫の煙は広がり、かと思えば一か所にふわふわと集まってきて、次第に花の形を成していく。あっという間に、そこには身の丈ほどの一輪の大きなツツジが出来上がっていた。
「……すごいわ、こんなものがあるのね」
「最近作られたらしいから、知らなくても仕方ない。店員の話だと、なんでもへんてこな錬金術師のじいさんが店に来て、作り方と一緒に置いていっちまったんだとさ。詳しくは知らないけど、そのじいさんには感謝しないとな」
匂い玉の効果は丸一日ほど続くらしい。麻袋の中にはまだいくつかの卵が残っている。クリスと一緒に庭園を巡りながら、ハイクは所々に匂い玉を仕掛けていった。外が終わると今度は屋敷の中に入って、同じ作業を繰り返していく。屋敷の中でも蝶はわが物顔で悠々と空中を泳いでいたが、花園と比べれば数は少ない。最後の大広間に紫煙の花が咲いたのを見届けて、ハイクは大きく伸びをした。
麻袋の中を確認していたクリスが、あら、と声を上げる。
「まだ一つ卵が残っているわね。どこに置こうかしら」
「ああ、最後の一個を置く場所は、決まってるんだ」
手にした地図をひらひらと振って、ハイクは荷物を担いで軽やかに歩き出した。背後からクリスが追いついてくる。
「どこに行くの?」
「地下」
この屋敷には地下室がある。そう告げるとクリスはとても驚いたようだった。おそらくこの事実は、彼女の父親も知らなかったはずだ。
観光用の見取り図には載っていなかったが、正ギルドの図面には余さず記載があった。危険だからとわざと省かれたのだろう。細やかな花の装飾が行き届いた廊下に出ると、図面を片手に真っ直ぐに歩いた。突き当たりを右に折れ、客間が並ぶ通路に出ると、歩調を落とし、扉の数を数えながら進んでいく。
「七つ目……ここだな」
「これが地下への階段の扉?」
ひと目見ただけでは、他の部屋の扉と変わらないように見える。だが、当然ながらこの扉だけは、押しても引いても開かない。
「ここは観光地だから、一応こうやって封鎖されてる。元々扉はなかったはずだ。」
「どういうこと? 新しく作ったの?」
「まあ、見かけだけはな。ちょっと失礼」
ハイクは興味津々で扉を触っているクリスの肩を掴んで、ひょいと脇に避けさせた。懐から銀色の鍵を取り出す。図面と同じく正ギルドから借り受けてきたものだ。ジュスに頼んで速達で取り寄せて貰った。
鍵を扉に差し込んで回すと、ゆらり、と扉がゆがんだ。戸板の中心が水面のように泡立ち、そこに黄金の獅子の頭が浮かび上がってくる。獅子は、鷹に次ぐ王家の象徴だ。クリスがあっと声を上げた。獅子は金色の目でハイクを睨みつけ、牙が並ぶ口を大きく開いた。
「汝の意志はどこにある」
合言葉だ。ハイクは獅子から目を逸らさずに告げた。
「我の意志はここにはあらず。金のたもとに我の意志あり」
獅子の頭は頷いて、するりと姿を消した。ほどなくして、ふたたび扉がゆらりと揺れ、壁ごと霧のようにかき消えたかと思うと、目の前には薄暗い廊下が姿を現し、その先には狭い下り階段が伸びていた。クリスは口に手を当て、驚いて後ずさっている。発見当初の様子を残したままの廊下は、細かな瓦礫の屑が散らばり、埃っぽい。ころりと床に落ちた鍵を拾い上げながら、ハイクはクリスを手招きした。
「ここみたいに人の出入りが多い遺跡や神殿には、大抵一つか二つはこういう隠し扉が後付けされてる」
「まあ、そうなの……。驚いたけど、ちょっぴり面白いわね。どういう仕組みなのかしら」
言いながら、クリスは廊下ににじり寄ってきた。心なしか、顔が興奮で赤くなっている。
「魔術と錬金術の合わせ技だな。王都ではなかなか見られないだろ」
「そうね。それに、冒険しているみたいでわくわくするわ」
底冷えのする石段を下り、細長い通路を歩いていく。春のような陽気も地下には届かないようだった。薄着のクリスが寒そうに腕を擦っていたので、ハイクは自分の上着を貸した。奥はぽかりと丸い広間になっており、地下はこれですべてのようだ。ドーム型の丸天井は一部が崩れて穴が開いており、木漏れ日がゆらゆらと床にこぼれ落ちているところを見るに、上は庭に繋がっているらしい。
繊細なモザイクタイル張りの広間の中央は、小さな花壇になっていた。丸く縁取られた上品な枠の中に土が敷かれ、大振りの華が群生している。奇妙なことにすべて蕾だ。ふっくらと膨らんだ蕾は、木漏れ日を受けてほんのりと青白く輝いている。白い花だというのは分かったが、それ以上のことはハイクには分からなかった。ハイクの隣で、屈みこんで花を調べていたクリスが、目を丸くした。
「この花って、月百合じゃないかしら。夜にしか咲かない珍しい百合よ。昔父が描いていたのを見たことがあるもの」
「百合か。アゲハ蝶は普通なら、百合は餌にしないよな」
「そうね。けど、特別な蝶なんだから、こういうちょっと変わった花にしか寄ってこないってこともあると思わない?」
それは大いに有り得る話だった。青い月明りに照らされて咲く百合の花と、そこに舞い降りる虹色の蝶。もしも本当にそんなことが起これば、さぞかし絵になる光景に違いない。ハイクは広間の端に行って、匂い玉を同じように仕掛けた。鮮やかな紫の花が立ちのぼり、安定したのを確認して、立ち上がる。
「じゃあ、ここには夜にもう一度来ることにして、先に他の匂い玉の様子を見に行くか」
「そうね。あっ、でも私、野宿の準備なんてしてきてないわ」
「それなら平気だ。二階の部屋のいくつかが、客用に改装されて貸し出されてる。泊りの客なんて俺達ぐらいだろうから、贅沢に使わせて貰おう」
匂い玉の効果は丸一日なので、制限時間は明日の昼までだ。もしもここまでしても蝶が見つからなかったら、クリスと父親には悪いが、諦めてもらうしかないだろう。報酬も受け取れない。一旦上に戻るか、と言って花壇に居るクリスのほうを向きかけた時、ハイクの視界の隅で、ひらんと黒い何かが翻った。
思わず自分の目を疑った。だが、幻ではない。
虹色の蝶が居た。クリスの後方、入り口のすぐ傍だ。
黒い輪郭と、黄から青のグラデーション。暗がりの中でも鮮やかな色のまま、ゆっくりとした羽ばたきで角度が変わる度に、ちらちらと砂を擦るようなかすかな音が鳴り、鱗粉が舞い、七色が翅の中で遊び、踊る。
あの絵と全く同じ蝶だった。クリスの推測は正しかったのだ。
束の間、ハイクは蝶に見入った。艶やかで、他のすべてを忘れてしまっていた。ハイクはごくりと喉を鳴らした。大鷲の声が、嵐のようにハイクの頭の中を飛んだのはその時だ。
「……ちがう。見誤るな、ハイク。あれは虫ではない」
大鷲が全身の羽を逆立てたのが分かる。ハイクはほとんど放心しかけていた頭に冷水を浴びせられたような気分で、我に返って銃に手をかけた。やられた。大鷲が居なければ、魅せられ、取りこまれていただろう。手の中で銃ががたがたと震えている。ハイクは蝶を凝視しながら、クリスを呼んだ。
「クリス、いいか、何も言うな。そのままゆっくり右に移動しろ」
「どうしたの?」
ステンドグラスのような翅が、暗闇の中ではたはたと上下に動く。ガラスのように、あるいは、無機物のように。あまりに機械的で不自然で、それでいて無邪気な動きだった。蝶は先程からずっと、空中の同じ場所に静止している。それは明らかに昆虫の羽ばたき方ではなかった。
元からここには、弱い日差ししか届かない。昼でも夜に近い場所。
黄昏だ。
「いいから早く!」
ハイクは叫んだ。翅が軋む音がした。不思議そうに背後を振り向いたクリスがついに蝶を見つけ、え、と呟く。
だが次の瞬間、ふっと蝶の姿が消えた。ハイクの前方で、風を切るような鋭く高い音が鳴った。
弾かれるように横に飛んだハイクの頬を何かが掠めた。鋭利な痛みが走る。頬を血が伝っている。剃刀のような蝶の翅に斬られたのだと気付いた時には、蝶はすでに、ハイクの後ろにあった煙の花に取り付いていた。あの煙には本物の花の蜜が使われている。しかも、高濃度に圧縮された物だ。まずいと銃を抜いたのと同時に、紫のツツジの煙がすべて吸い尽くされた。ぴしぴし、ぴしぴしという硬質な音が狭い地下室に響き渡り、手のひらほどの大きさだったはずの蝶が、みるみるうちに誇大化していく。翅の虹色は紅水晶によってグロテスクな極彩色に変貌していた。ぎょろりとした複眼の一つ一つに、呆気に取られたハイクの姿が映し出されている。蝶はものの数秒で、ハイクの身長を軽々越える大きさになった。
くそ、とぼやいて、ハイクはすぐに後退した。へたり込んでいるクリスの側に駆け寄る。
「おいクリス、しっかりしろ、立てるか」
魔獣を初めて見たのだろう。クリスはひどく怯え、腰を抜かしていた。恐怖に顔と声を引きつらせながら、クリスは蝶を指差した。
「ハイク、あれは、ねえ、わたしあの子を知ってるわ。お父さんがずっと描いていたもの」
「いいやクリス。もう違う。悪いが撃つぞ」
ばさりと蝶が翅を大きく上下させる。鱗粉すら変色し、毒霧をまき散らしているかのようだった。風がうねる気配を感じて、ハイクは咄嗟にクリスを庇った。直後に襲ってきた強風に腕と足を何か所か切られたが、相手もまだ力が上手く扱えないのか、こちらの動きを止める程の強さの風ではない。クリスの前に出て、銃身がぶれないように両手で銃を構え直す。あの翅と風のどちらかに斬り殺される前に、急所を撃ち抜く。蝶の羽ばたきが加速する。
来るか、と身構えた次の瞬間、蝶の動きが凍りついたように止まった。
針でとめられた標本のように、左右の翅を大きく広げたまま、怪蝶が空中で静止する。
「育ちすぎたか」
悟ったように大鷲が呟いた。匂い玉による急速な成長で、蝶は己の命すら燃やし尽くてしまったのだ。固唾を呑むハイクの前で、蝶は力なく地面に崩れ落ちていく。ぴしぴし、ぴしぴしと耳に痛い音を立てながら、蝶は粉々に崩れ、体をつくっていた紅水晶は砂になって消えた。
ハイクは銃を下げた。終わったな、と呟く。クリスが呆然と囁いた。
「あの子はどうなったの」
「……元々、寿命が近かったんだろう。魔獣になって、百合と匂い玉で力を付けたはいいが、それが限界だったんだろうな」
「魔獣って、そんな」
青ざめた顔のまま、クリスは蝶の亡骸を見つめていた。細い体が震えている。わずかな間に何が起こったのか、理解が追いついていないようだった。無理もない。ハイクは落ち着かせるようにクリスの肩を叩くと、立ち上がってゆっくりと蝶が居た場所へ近づいていった。
巨大な体が崩れた後には、元の大きさの蝶が残されていた。絵の写しを取り出し、注意深く見比べる。翅の形、ひだの大きさ、色、触覚の長さ。間違いなく同じ蝶だった。音もなく、蝶の身体が紅水晶に変わっていく。中に鱗粉が残っているのか、紅水晶になってもなお、翅は元の色彩を残したままだった。まるで生命の結晶そのものだ。身体のすべてが紅水晶に変質すると、最後に耳に引っかかるようなわずかな音を立て、蝶の亡骸は砕けた。
その亡骸を見て、ふと、思い付いたことがあった。
風に流れて崩れてしまわないうちに、ハイクはその七色に光る欠片を慎重に集め、手当て用の白布でくるんだ。
「それ、どうするつもり?」
ハイクの動作を見つめていたクリスが、怖々と聞いた。ハイクは振り向いて、ちょっと試してみたいことがあってな、と安心させるように笑う。このまま放っておけば、数日でこの水晶は跡形もなく砂になってしまうだろう。だが、蝶とクリスの父を会わせる方法に、一つだけ心当たりがあった。彼らが望んだ形ではないかもしれないが、それでも、何も残らないよりはいい。
「悪いけど、王都に帰ったら少し時間をくれないか。そうだな、一週間くらい」
「それは構わないけど、でも、どうして?」
白布の包みをそっと道具入れの一番上に乗せ、ハイクは言った。
「化石にできるかもしれない」

     *

約束の一週間後、ハイクは小さな木箱を抱え、クリスの家へ足を運んだ。
クリスの家は王都の中心部にあった。大通りの一本隣にある、古くて立派な二階建てだ。花が植わった庭を横切り、重厚なノッカーを二回鳴らすと、奥から「はあい」と朗らかな声がして、クリスがぱたぱたと出てきた。帰還から一週間が過ぎて、すっかり元の明るさを取り戻したらしい。
二階に上がって、寝室に通される。中ではクリスの父親が待っていた。ベッドの上に身を起こし、骨が出るほど痩せてはいるが、顔色は良かった。ようこそ、と言った声には昔の張りがまだ残っている。ほどなくして、クリスも紅茶を持って上がってきた。

名をラブラドというクリスの父は、彼女によく似た、物腰の柔らかい人物だった。ひどく年老いて見えるが、まだ老年と言うには若いはずだ。「娘から話は聞いています」とラブラドは言い、深々と頭を下げた。
「この度はありがとうございました。あなたのような前途あるお若い方を、病人のくだらないわがままに付き合わせてしまった」
ラブラドがあまりにも潤んだ瞳で見上げてくるので、ハイクはいたたまれなくなった。
「礼なんてよしてくれ。今日はそのために来たんじゃないんだ」
ハイクは急いで、持っていた小さな木箱をサイドテーブルの上に置いた。深い飴色をしたそれは今朝方ゼーブルから届いたばかりのものだ。掛かっていた紐を解き、蓋を空けると、敷き詰められた綿の中に握りこぶしほどの透明な結晶が入っていた。
クリスタル、と、ラブラドが呟く。それは娘と同じ名を持つ鉱石だった。
「本物の鉱石を元に、錬金術でろ過して練り上げた水晶の塊だ。中をよく見てみてくれ」
雪解けの澄んだ水をゆっくりと凍らせた、純度の高い氷のような結晶だった。水晶を取り出し、ラブラドの両手にそっと落とす。ラブラドは震える指でそれを包むように持ち上げると、日の光に翳した。クリスと同じ薄青の瞳が、水晶を映してきらきらと光っている。結晶の中には、七色の翅を持つ小さな蝶が眠っていた。
「馴染みの術師に頼んで修復して貰ったんだ。でたらめに腕のいい奴だが、そいつの技術をもってしても、砕けた翅を繋ぎ合わせることはできても、あんたが描いた生前の姿に戻してやることはできなかった。おそらくその種の蝶は、こいつで最後だったんだろう。あんたが庭園に行った時にはまだ辛うじて生きていたものが、二十年の間に、魔獣になった」
現実はいつだって皮肉だ。探しものは見つからず、掴んだと思えば逃げていく。会いたいものにはついぞ会えない。報われない話が、今の國には少しばかり多すぎる。
「ハイクさん、といいましたね。ハイク・ルドラさん」
痩せたラブラドの手が、ハイクの手を握った。驚いて顔を上げる。病人のものとは思えない力強さだった。ハイクは咄嗟に、絵の中のしっかりとした筆遣いを思い出した。ありがとうと笑ったラブラドの顔は穏やかだ。
「まさか、本当にこの蝶に再会できる日がくるなんて、思ってもいませんでした。ですがそれ以上に、あなたは娘の話をよく聞いてくれた。私という、全く縁もゆかりもない人間の夢の跡を、真摯に辿ってくれた。これほどかけがえのないことはありません。この子の美しさに魅入られた私は、長い間、いくつかのことを忘れてしまっていたようです」
「あんたが言うほど、大したことはしてない気がするけどな」
そんなことはありませんよと言って、ラブラドはくすくすと温和に肩を揺らした。
「自分でも、薄々分かっておったのです。あの蝶に、生きてまた会える日は来ないだろうと。ですが、あなたはこうして見事に依頼をこなしてくれた……娘からあなたの名前を聞いて、はっとしました。ルドラは “嵐”の意味を持つ言葉でしょう。そんな名を持つあなただからこそ、動かなくなってしまった私の舟を、今一度動かすこともできたのでしょうね。……ふふ、じじいのお喋りが過ぎましたね。では、報酬を。金貨十枚でよろしかったかな?」
しかし、ラブラドが楽しそうに脇に置いてあった革袋を差し出してきても、ハイクの意識は別のところに残ったままだった。
今、ラブラドは確かに言った。ルドラには嵐の意味があると。
“ルドラ”という単語は、一族に伝わっていた古い言葉のうちの一つだ。黄昏が始まった時節に、一族の者達の間でだけ使われていたという古代語だ。その言葉の意味を知る者は、ルドラの一族にしかいない。
「ハイク、どうしたの、怖い顔をして。遠慮なんていいんだから、今度こそ受け取ってちょうだい」
耳にクリスの声が入ってくる。氷のように動かなくなった自分を怪訝に思ったのだろう、とは感じたが、それに対する気の利いた返事を考える余裕は残っていなかった。
また会えるかもしれない。その一文だけが胸の中を占領していた。
顔を上げて、ラブラドをまっすぐに見る。
「金はいらないから、代わりに教えてくれないか。どこでルドラの名の意味を知った」
「おやおや」
「ちょっと、急に何を言い出すのよ」
親子が揃って目を丸くしている。ハイクは背筋を伸ばし、両ひざに手を置いて、もう一度「頼む」と懇願した。
「俺にとっては十枚の金貨より価値のあることだ。頼む、教えてくれ」
「構いませんが、本当にそれでよろしいので?」
ラブラドはしばらくの間、その鏡のような瞳にハイクを映していたが、じきにどこか納得したように「うん」と深く頷いた。
「いや、申し訳ない。四十年近く画家なんてものをやっていると、自然と人や物を観察するようになってしまいましてな。お若い方。その年でずいぶんと様々な物を見てこられたようだ。私の話でお役に立てるのならば、ぜひ聞いていって貰えますか」
「ああ。……ありがとう」
ラブラドが口を開くのを待つあいだ、心臓が奇妙に熱かったのを覚えている。





(結晶に翅)

!ウルグ・グリッツェンさんとクエルクス=アルキュミア・グリッツェンさん(@Hello_my_planet)をちょこっとお借りしています

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