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倫敦1988-1989〈4〉〜地下鉄に乗って

倫敦三日目。Mちゃんも仕事があるのにいつまでも金魚のフンでは迷惑だろうと地下鉄のフリーパスを手に入れて単独行動をはじめた。エディと隣のマイロはブラブラしていたのでガイドでも頼もうかと思ったが、あまりにも頼りないのでやめた。

エディはマイロんちとMちゃんちを行ったり来たりして生活していたが、ものすごく古くて汚いマイロの家はなんと空き家であった。空き家に勝手に住んでいるのである。当時のロンドンは景気が悪くて失業している若者がたくさんいた。マイロのように不法占拠者も多いので行政に見つかることも少ない。イギリスでは築100年超の物件も珍しくはないので、長く空き家になるほど持ち主も不明になる。電気もないがエディとマイロはMちゃんと言うライフラインをゲットしている。 空き家でも暖炉で暖まれるし、料理もできる。

そんなわけでこの2人はまったく働く気がなかった。あの仕事は嫌だ、この仕事は嫌だとつべこべ言っていたが、職種を問わなければ仕事はあるのだ。
そういうと「そういうのは移民がやれば…」。呆気にとられる。イギリスは「揺り籠から墓場まで」というだけあって福祉が整っている。彼らも充分な失業手当をもらっているので、ますます働かない。いい若いモンが…とムカっ腹が立ったので「バーガーキング奢ってよ〜」と哀願する2人を置いて出かけた。むしろバーガーキングで働け!と言い残して。

ロンドンでは地下鉄のことをアンダーグラウンドとかチューブとか呼ぶ。東京に比べれば街の規模が小さいからか、地下鉄の路線図もシンプルだ。1863年開業というからおそろしく古い。エスカレーターのステップが木製なのに驚いた。そして乗り込んでみたら吊革が球。鉄の球。みなさん普通に球を握って立っているが、おかしくてたまらない。球を握ったとて、たいして安定感もないし…球…いまもロンドンの人々は球を握って通勤しているのだろうか。

とりあえずトッテナム・コート・ロードで降りて大英博物館をめざす。途中、当時もう見ることも少なかったパンクスの男性とすれ違う。モヒカンヘアーにボロボロの革ジャン、たくさんのスタッズと鎖、安全ピンのピアス。雷に打たれたらイチコロって感じの金属ジャラジャラぶりだ。何かの中毒なのか目は虚ろ、意味のわからない言葉を呟きながらフラフラと行ったり来たりしている。絡まれないように道を外れて公園に避難すると黒服の婆さんが「アイツ、昔は観光客と写真撮ったりして稼いでたんだよ。今じゃあの有り様だけどね!」と聞いてないのに教えてくる。「あんた中国人?中国にもあんなのいるの?」と聞かれたので「中国には少ないけど、日本人はみんなあんな感じですね」と答えておいた。
           (つづき)


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#イギリス
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#地下鉄
#80年代

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