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ヨコハマのひと。

タバコ屋のおばちゃんに「夕方、すぐ暗くなってせつないよ」というと、「そのうちまた日が延びるからね、少々お待ちください」と言う。ついにおばちゃんは季節まで司るようになったようだ。

最近は少し元気がなく、毎日会ってるのに「お久しぶりです」などと言っては私をドキドキさせるおばちゃんであるが、シャッキリしている時と、そうでもない時が交互に来る感じである。夕方は特に人の顔の見分けがつきにくいようで、これはマスク生活の影響もあるのかなぁと思う。
マスクした顔としない顔、私も混濁するもんなぁ。

我が家がこの通りに引っ越してきたのは、おばちゃんが100%シャッキリしていた頃だった。物件を見にきてタバコ屋さんに寄り、それとなくこの辺りの雰囲気を聞いた。
「だいたい、いいとこじゃないの。まぁ…おっかない人もいるけど…あたしは好きだね」。私はこの「あたしは好きだね」を聞いて、ああ、ヨコハマの人だなぁ…と思った。今や横浜も大都市となり、人の出入りも多いから、真の横浜人とは…なんていっても答えはない。ただ私が昔から関わってきた古き良きヨコハマ人というのは、マイペースでおおらかだけど、ちょっぴり頑固で自分のルールにはこだわるタイプ。
他人には干渉しすぎず、冷たくもなく。そんな大人たちに囲まれて大人になった気がする。

江戸っ子は三代続けば江戸っ子だけど、浜っ子は3日住んだら浜っ子…というのもよく言われる話で、適当な浜っ子気質を表している。「おいでよ」と言わず「来れば」と言うのが浜っ子。照れているのか、相手を尊重しているのか。

とにかくそんなおばちゃんの「あたしは好きだね」にやられてこの通りに住み「あたしも好きだわ」になっている。
「おっかない人」はその言葉に嘘はなかったが、おばちゃんのアドバイスに従ってきっちり挨拶した結果、我が家は難を逃れている。色んな場所に住んで、色んな人を見てきたが「問題ナシ」ということはまずない。騙し騙し、縁のある場所で毎日を紡ぐ。そのささやかな営みが「人生」であり、意外と面白く思っている。

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