体幹部の回旋動作のタイミングとピッチャーの怪我の関連性

最小限の力で効率的に動くことができると身体への負荷を下げつつ、高いパフォーマンスを発揮しやすくなります。

がむしゃらに身体を鍛え可動域を上げていくことも大事ですが、どうやったら質のいい動きができるようになるのか?という理解も役に立つことかと思います。

そこで今回は、体幹部の回旋動作に焦点を当てて解説していきたいと思います。


体幹部の回旋動作の速度や角度が球速に影響している?

体幹部の回旋動作は重要だと考えられていて、こういった動作のトレーニングが行われていたりします。

  • とある研究で8名のピッチャーの投球動作を解析したところ、体幹部の回旋動作の加速度がピッチングの速度に強い関係があったそうです1。

  • ボールリリース時の体幹の回旋の角度が大きいほど球速が速い傾向にあったそうです2。さらに体幹の回旋の角度が大きいほど肘への負担も大きい傾向にあったそうです。

この結果を踏まえると、より速く、より大きく動くことが重要ではないか?と考えられると思います。

しかし、効率的な動作を実現するためにはもう少し理解を深めたいところです。


身体を動かすタイミングが大切かもしれない?

強さや速さだけでなく、タイミングも考えていくことが大切です。

  • 高校生や大学生のピッチャーとプロのピッチャーの投球動作を比べた時、プロのピッチャーは体幹の回旋動作が始まるタイミングが遅かったそうです3。

  • さらにプロのピッチャーは体幹部をうまく使えているためなのか、肩への負荷も少なかったそうです。大学生や高校生、ジュニアの選手などは肩の力に頼っている部分が大きいのかもしれません。

これらのデータを踏まえると、体幹部の回旋動作が始まるタイミングは遅いけれども、一瞬の回旋動作が速く、ボールリリースの瞬間には回旋動作の角度がより大きいところまで到達しているということではないでしょうか。

いずれにしても身体を動かすタイミングはパフォーマンスや負荷に影響する可能性があるということが言えるかと思います。


身体の連動性が重要になってくる?

身体を動かすタイミングだけでなく、各部位の連動性なども重要な要素となってくる可能性があります。

とある研究によると骨盤の最速回旋スピードと体幹部の最速回旋スピードのタイミングがズレると肩に大きな負担がかかる傾向にあるそうです4。

一部分だけが速く動くのではなく、全身をうまく使い連鎖的にエネルギーを伝えることが効率的な動作を実現するための鍵だったりします。

そして十分に筋肉が鍛えられていないことでも身体を動かすタイミングに影響が及んでしまうこともあります。


まとめ

これらの結果を踏まえるとただただ大きくて速ければいいわけではなく、関連する部位との協調性やタイミングなどが重要な要素となってくるのかもしれません。

効率的にエネルギーを伝えることができるようになると怪我のリスクを抑えつつ、パフォーマンスアップを実現しやすくなります。


<参考文献>

  1. Jae Ho Yu, Ji Heon Hong, Jin Seop Kim, Dong Yeop Lee, Jeong Woo Jeon. Pitching Analysis of Body Variables According to Ball Velocity in Amateur Baseball Pitchers Using Gyro Sensor. Medico-Legal Update. 2018;18(1):278-283.

  2. Cohen AD, Garibay EJ, Solomito MJ. The Association Among Trunk Rotation, Ball Velocity, and the Elbow Varus Moment in Collegiate-Level Baseball Pitchers. Am J Sports Med. 2019;47(12):2816-2820.

  3. Aguinaldo AL, Buttermore J, Chambers H. Effects of Upper Trunk Rotation on Shoulder Joint Torque among Baseball Pitchers of Various Levels. Journal of Applied Biomechanics. 2007;23(1):42-51.

  4. Oyama S, Yu B, Blackburn JT, Padua DA, Li L, Myers JB. Improper Trunk Rotation Sequence Is Associated With Increased Maximal Shoulder External Rotation Angle and Shoulder Joint Force in High School Baseball Pitchers.The American Journal of Sports Medicine. 2014;42(9):2089-2094.