ひろせ犬

福岡在住。映画の感想など。

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最近の記事

『不適切にもほどがある!』(2024年)に感じる3つの違和感

はじめに〜考察ブームについて現在放送中の『不適切にも程がある』。放送の度に反響が多いのは、視聴者がどうしても物申したくなる「ツッコミしろ」の多い作品だからだと思う。 この「ツッコミしろ」は、近年の考察ブームとの相性が良い。たとえば『VIVANT』が日本での大流行に反して、世界進出に苦戦しているが、それは無理からぬことだと思う。 喧伝されている予算額に見合うだけのルックになっていない以上に、支離滅裂なストーリーをなんとか成立させていたのが、「考察」というオブラートで包んだ

    • 【歌詞考察】藤井風 『花』(2023年)〜「内なる花」とは何か、なぜ葬式なのか

      【はじめに】これは本当に「死生観の歌」なのか藤井風の(現段階での)最新シングル『花』。MVについての複数の「考察」記事を読む限り、「死生観の歌」という解釈が多いと感じる。 確かにそれは間違いない。過去の難解なMVに比べて、今作は非常に分かりやすい。棺桶の自分を運び、イーゼルの遺影が歌い出し、線香をあげ、先住民的衣装をまとった祝祭感溢れる踊りがクライマックス。誰がどう見ても葬式で、しかも多様な信仰が組み込まれている。 (棺桶⇒キリスト教、線香⇒仏教、ダンス⇒広く土着的な宗教

      • 【映画評論】『ほつれる』(2023年)〜乗り物の使い方が見事な傑作

        【「感情移入できない主人公」に感情移入してしまった】 amazon primeで配信中、上映時間たった84分の見やすさにして、今後間違いなく日本映画を背負って立つ存在となるであろう加藤拓也監督(まだ30歳!)の『ほつれる』。 巷の感想としては、感情移入しづらい主人公綿子のキャラクターを門脇麦が抜群の説得力で成立させていることや、ネチっこくヤバみのある夫を演じた田村健太郎の演技力が称賛されている印象。 確かにそうだが、私は綿子に正直かなり感情移入し、夫には「ウザいなー早

        • 【『THE FIRST SLAM DUNK』(2022)評論】ノスタルジーを否定するための映画化

          【はじめに】 かなり今更な感もあるが、THE FIRST SLAM DUNKについて論じたい。 強調したいのはここで語るのは、「なるべくドライな視点」から見た仮説だということ。もちろん公開時に大変に感動し、スラムダンクひいてはバスケットボールを好きで良かったと心から思った。だが、この映画を評価する上で、そういったウェットな感情はなるべく排したいし、だからこそ熱が収まったいまあえて取り上げてみたい。 なぜこんな前置きをするかというと、『THE FIRST SLAM DUN

        『不適切にもほどがある!』(2024年)に感じる3つの違和感

          藤井風は『Workin' Hard』(2023)のMVで何を伝えたかったのか

          【はじめに 公式テーマソングがアーティストに強いるもの】 昨年のバスケットボールW杯テーマ曲、藤井風の『Workin' Hard』だが、実感として(彼のこれまでと比較すれば)大衆的人気を獲得出来なかったように思う。「暗くてノリづらい」というのが、一番大きいだろう。 毎度のことだが、スポーツアンセムには躍動感や高揚感、または壮大・荘厳さが求められる。近年で言えばSuchmosの『VOLT-AGE』も、テンポの遅さや曲の単調さを批判された。 音楽を普段そこまで聴かない人も

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          サザンオールスターズ『キラーストリート』から読み解くゼロ年代

          【はじめに 原体験としてのキラーストリート】 2005年に発表されたサザンオールスターズの『キラーストリート』は、 91年生まれの自分にとって、サザンの原体験だった。 それだけでなく、いま振り返るとゼロ年代を象徴するアルバムのように思える。本作をサザンの最高傑作にあげる人はほとんどいないと思うが、この作品を掘り下げると、ゼロ年代の日本が見えてくるような気がする。 【平成3年生まれにとってのサザン】 そもそも僕にとってサザンとは、当然ながら「上の世代のもの」だった。

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          椎名林檎『NIPPON』(2014年)の歌詞はなぜ右翼的だと誤解されたのか

          【はじめに】 2014年のサッカーブラジルW杯のNHK公式テーマソングとなった、椎名林檎の『NIPPON』。発表直後から、歌詞が右翼的であり、民族主義を助長する危険があると多方面で批判された。 さらに問題続きだった東京オリンピックの総合演出チームに参加したことで、椎名林檎=愛国心の強過ぎる人イメージが定着したように思う。(※結局チームはゴタゴタの末20年12月に解散したため、彼女は本番の演出には関わっていない) だが、果たして本当にそうなのだろうか。個人的には彼女は一

          椎名林檎『NIPPON』(2014年)の歌詞はなぜ右翼的だと誤解されたのか

          2023年に読んだ本 10選

          「今年出版された」ではなく「今年読んだ」本です。ノンフィクション、エッセイ、小説、画集など全部で54冊(12/18時点)でした。多くはありませんが、後回しにしてきた分厚いのを多く読破できた充実の1年でした。 ①.『口訳 古事記』 町田康 「今年出版された」中で1番好はこれです。以前から日本の神話に興味はあり、「町田康の訳?なら読むしかない!」と即買いでした。 ポイントはやはり文体。すっとぼけた関西弁のリズミカルな会話。身も蓋もなく、即物的な登場人物たち。ウェットな情緒が一

          2023年に読んだ本 10選

          【歌詞考察】B.O.B./OutKast (2000年)〜タイトルの意味について考える

          【はじめに】 プレイオフが佳境に入る中、NBAではあるコート外のスキャンダルが話題となっている。グリズリーズの若きエース、ジャ・モラントが友人のインスタライブ配信中に拳銃をひけらかしたことで、批判にさらされている。 NBAを追っていない人には、なぜそこまで大騒ぎするのかピンとこないかもしれない。実はジャはこれまでにも度重なる素行不良が取り沙汰されていた。10代の少年をボコボコにしたり、ショッピングモールの警備員を脅迫したり…それらはジャの悪友の影響によるところが大きいらし

          【歌詞考察】B.O.B./OutKast (2000年)〜タイトルの意味について考える

          【きらり/藤井風】歌詞考察:いまを生きるヒントを散りばめた最高到達点

          【はじめに:トレンドを押さえた『きらり』】USではかれこれ5年以上、「80’sリバイバル」がトレンドとなっている。最近でいえば、Dynamaite以降のBTSなどがまさにそれだ。また、この流れを最も牽引しているアーティストと言えば、The Weekendだろう。Justin TimberlakeのCan’t Stop The FeelingとかMaroon 5のSugarなどが、一連の潮流の中でメガヒットとなったのも記憶に新しい。 彼らを結ぶ共通項は言わずもがな、マイケル・

          【きらり/藤井風】歌詞考察:いまを生きるヒントを散りばめた最高到達点

          【青春病 / 藤井風】MV&歌詞考察:「青春の否定」の先で描きたかったもの

          青春の病に侵され 儚いものばかり求めて いつの日か粉になって散るだけ 青春はどどめ色 青春にサヨナラを 【はじめに くすんだ色の青春】 青春病は僕にとって衝撃的だった。 風くん、あっち側の人間なのに、どうしてこっち側の気持ちが分かるの!? そんな気分だった。青春を「呪い」として描いた本作の歌詞は、パンチラインの連続だ。 青春はどどめ色 どどめ色って?と、Googleで画像検索するとこんな感じ↓ 要するにくすんだ色である。過去の輝きはもう色褪せていて、だからこそサヨナ

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          【HELP EVER HURT NEVER / 藤井風】後編:『帰ろう』歌詞考察

          【はじめに 世紀の名曲】 誤解を恐れずに申し上げるならば、『帰ろう』は『Let It Be』や『Goodbye Yellow Brick Road』、『Bridge Over Troubled Water』クラスの大傑作バラードである。当人の中にも、ホームランを狙う意識は間違いなくあったはず。そして実際に曲を聴けば、誰もがその超特大ホームランぶりを認めざるを得ないと思う。 もっともポール・マッカートニーやエルトン・ジョン、ポール・サイモンと違うのは、彼らがソングライターとし

          【HELP EVER HURT NEVER / 藤井風】後編:『帰ろう』歌詞考察

          【HELP EVER HURT NEVER / 藤井風 】前編:『何なんw』歌詞とMV考察

          【2020’sの主役 藤井風】 藤井風という衝撃。宇多田ヒカルが世に出てきた時も、こんな感じだったのかもしれない。アフターコロナの世界で、間違いなく一番聴いている。 彼の魅力はなんといってもその圧倒的な「根アカ感」だと思う。(あと圧倒的なルックスも) それ以前の主人公たちは、どこか「影」があったり物憂げだった。悪い言い方をすると、Mステのひな壇で一言も喋らずにスカしている感じ。2000年代まではきっと、それがカッコ良いとされていた。 そこにきて、彼は何もかもが違う。気取った

          【HELP EVER HURT NEVER / 藤井風 】前編:『何なんw』歌詞とMV考察

          【LET'S ONDO AGAIN】大瀧詠一の「裏」最高傑作

          【「表」の最高傑作 A LONG VACATION】 「大瀧詠一の最高傑作は?」と聞かれて、大抵の人は「A LONG VACATION」と答えると思う。 リリースから40年となる今年、サブスクが解禁されたこともあり、様々な媒体でその特集記事が組まれている。関連書籍もたくさん発表されているし、数年前からの世界的なシティ・ポップブームも相まって、今や大瀧詠一とこのアルバムはほとんどイコールで語られているように見受けられる。 事実、このアルバムは完成度・到達点・歴史的意義のどれ

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          『全裸監督』シーズン2(2021年)評論:原作との比較とドラマの「嘘」

          ※内容は完全にネタバレ有。筆者は平成生まれのため、村西とおるをリアルタイムでは知らず、あくまで原作とドラマ、作り手のインタビュー記事などをもとに文章を書いています。 【はじめに(長いので飛ばしても可)】Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』のシーズン2を観終わったあと、なんとも言えない感情に襲われた。「面白かった」でも「面白くなかった」でもない、モヤモヤ感があった。 とはいえ、映像的なストーリテリングはとにかくスマートだ。 例えばヤクザの古谷がトシに拳銃を渡す場面。

          『全裸監督』シーズン2(2021年)評論:原作との比較とドラマの「嘘」

          【歌詞考察】不可幸力/Vaundy~2010年代を真空パックした大傑作

          はっぴぃえんどの「風をあつめて」の記事で、間奏での時間経過を挟んで、同じ言葉でもサビの意味が違うことについて書いた。「風をあつめて空を飛びたい」という開放的なニュアンスが、「ここではないどこかへ逃げ出したい」という孤独と絶望の吐露へと変わるというものだ。 これと非常に似た構造なのが、2020年のヒットソング「不可幸力」だ。 閉塞感に満ちた現状に対する不平不満をラップしつつ、後半のCメロで一気に曲が展開。「愛」が持つ可能性について熱唱した後に、再び同じフックに戻るという円環構

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