ティム・オブライエン「ニュークリア・エイジ」 慎み

「慎みなんていうものはね」と彼女は苦々しげに言った。「死んじゃった人たちのためのものなのよ。私は死んでいるかしら?」彼女の口調は僕をびくっとさせた。彼女の怒りは本物だった。「私はね、あのいまいましい葬儀場で育ったのよ。覚えてる?朝から晩までオルガン音楽がかかっていてね、あたりは花の匂いでむせかえっているの。あなた知らないでしょ?死人がどれくらい慎み深いかってことを。ものすごくお上品なのよ。死んでるのよ、わかる?くすぐったってぴくりともしやしないわよ。本当に物静か・・・・・・本当に死んでいるのよ。それ以上は死ねないくらいに死んでるのよ。あなた、死というのがどういうものか知ってる?そういうのが死ぬっていうことなのよ」


ティム・オブライエン「ニュークリア・エイジ」

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