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📕衝撃の作品「部屋」エマ・ドナヒュー

『「子どもだけじゃないです」ママが言う。「いろんな人たちがいろんな形で閉じこめられているのです」』

            〜エマ・ドナヒュー「部屋」より

  村田沙耶香さんの書評集で紹介されていたエマ・ドナヒューの「部屋」。感動必至の長編に仕上がっています。

  凶悪犯に誘拐され何年もの間、一つの部屋に監禁されていたジャックとママ。産まれた時から監禁部屋で生活することを余儀されたジャックにとって、この【部屋】が世界の全てであり、【部屋の外にも世界がある】ということに想いを馳せることなどは到底できなかった。

  しかし、ママの決死の覚悟で母子は監禁部屋から脱出することに成功する。夢にまでみた自由な空間、広大な世界。しかし、長年監禁部屋で拘束されていた母子にとって、希望に満ち溢れていたはずの世界は、あまりにも冷たく、そこに住んでいる人間たちはあまりにも無神経だった。

  知らない世界で戸惑い、監禁部屋に帰りたいとさえ思うジャック。あまりにも心無いメディアの扱いに心身ともに疲弊してしまうママ。

  【いったい、この物語の中で、一番の悪者は誰なのだろうか???】

  そんな疑問が頭をよぎる。

  この物語のたまらないところは、全編、5歳のジャック目線で語られていること。内の世界【インサイド】の様子も外の世界【アウトサイド】の様子も、それがジャック目線の描写であるがゆえに、圧倒的なリアリティを持って読み手に襲いかかってくる。その迫力は、僕のような言葉足らずの解説では表現しきれないほど。

  原作を書いたエマ・ドナヒューの表現力もさることながら、翻訳者の並々ならぬ努力が伺われる。別の方が翻訳したらまた違ったニュアンスの物語になってしまうかもしれないからだ。

  なんにしても、一生の間でこの物語を読む機会が与えられたことに素直に感謝したいと思う。さすが村田さん。

  上下巻あわせて600ページあるボリュームだけど、読みだしたらきっと止まらない。ぜひ、読んでみていただき、【二つの世界で戦う】ジャックを応援してほしいと思う。

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