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なぜ経済学なのか


経済学の分野で博士号を目指している理由は、経営の師匠の影響と、できるだけ社会(人間)の本質を知りたい、という希望からです。長いこと仕事をしているといろんな出来事があり、栄枯盛衰、驕れるものは久しからず、ということをたくさん見てきました。学部と修士で学んだ法律や会計、ファイナンスは、実学としては大変役に立ったのですが、それらの根幹にあるものってなんだろうという興味から経済学に行き着いています。

良き社会のための経済学

そして師匠の影響というのは、この本です。

鉄道会社に呼んでくれた当時の社長の引退後、久しぶりにお話しした時にこの本を「貸して」くれました。「難しかったけどいい本だったし、感想を聞かせて」と言われました。残念ながら感想を伝える前にご逝去されてしまい、本は借りたままです。非常に厳しい人でしたが、人に対する優しさが基本にあり、まさに"Cool head, but warm heart"の人でした。

著者のジャン・ティロールは2014年のノーベル経済学賞の受賞者、産業、企業、社会について一般向けに論じている本で経済学が扱う問題の幅広さがわかります。

ただ、実際には、分かったふりして論じてしまうことに陥らないように、基本から積み上げることが必要だと思い、体系のしっかりしている経済学を学びたいと思うに至りました。

入学から1年以上経ち、なんとか拙い論文を一つ学内紀要に載せ、そして今は学会発表の予稿を提出したところです。何を書いているかはまた次の投稿ででも書いていきたいと思います。リスキリングというよりはアンラーニング、デ・スキリングのプロセスの体験記みたいなものです。

経済学は「現実に役に立つのか」

経済学には数式表現に代表される概念的、抽象的な面が多分に含まれます。ありがちな需要と供給の交点のグラフが典型かもしれません(ちなみにX軸とY軸、どちらが価格でどちらが量かすぐわかる人どれくらいいるんでしょう。自分はこれすらすっかり忘れてました)。これは、複雑な社会と人間の現象を単純化して、ステップバイステップで考えるための手法です。ただ前提条件の非現実性や抽象性のために「役に立たない」、「学問と現実は違う」と感じる人が多い、なまじ社会経験のある人ほどそういう傾向が強いのではないでしょうか(自分もそうでした)。

さらに、小中高と時間をかけて学ぶ数学や理科、物理などと違って、大学以降しか体系的に学べません。経済学部でも院進学率が低い日本の状況では、さわりだけをやってあとは忘却の彼方となるんじゃないかと思います。法律も実はそうで、バブル期までの大学生(今の日本社会で意思決定を行なっている年代)は大体そんな感じかと想像しています(少なくとも自分の場合です)。

抽象性と体系性

役に立つ条件、それは抽象性と体系性だと思います。手っ取り早く取り入れられる具体性は長持ちしません。また使える場も実は限られます。ビジネスノウハウ本が典型で、ベストセラーは出てもロングセラーは滅多に出ません。

MBAの経験

MBAで何を学んだか、今でもよく思うのですが、ファイナンス専攻だったこともあり、「No Free Lunch」をまず言われました。タダの昼飯はない、何を意味するかというと、世の中全てに値段があり、リスクとリターンの関係がある、ということです。どんなに高度な金融工学もこの原則がまず最初にあります。Price, Risk, Returnという抽象的な概念を、会計記帳に始まり、市場で取引される商品から、企業財務、評価まで、体系的にMBAの授業は教えてくれました。これらの理論が、正しいのか正しくないのか、それで稼げるか稼げないか、それは各個人が卒業後に自分でリスクを取ってトライすることです。この抽象性と体系性こそが、「現実に役に立つ」鍵なんだと感じています。

経済学における抽象性と体系性

経済学はファイナンス、経営だけでなく様々な手法や現象を扱う広い学域です。経済学は何のためにあるか、これもアメリカでのミクロ経済学基礎の授業の1回目に「希少資源の最適配分」が目的であると言われたのを覚えています。「最適」には社会全体の効用の最大化、費用の最小化も含まれます。これだけ聞いても、何だそれ、ですが、そこからミクロ、マクロ、実証のエリア、さらに公共経済、ゲーム理論や情報の経済学など、膨大な世界が持って広がっている上に、体系的な基礎教育ができるようになっています。。

ある程度の社会経験、企業の経営経験を持った上でこれらのテキスト読んだり、既存研究を読んで考えたりするわけですが、そういう目で見ても、経済学は抽象性と体系性ゆえに非常に役に立つ、と思ってます。社会の中で自分で物事を考え判断するツールとして役に立つということです。

自分の例ですが、公的機関の行動原理や、鉄道という規制を受けている産業の特徴、また現在仕事として携わっている電力関連の市場とルール、全く違った知識が必要になりますが、本質を考えていくと「規制と社会経済」に帰結します。これは経済学の古典的なテーマで、今だけでなく、将来の社会やそこで展開されるビジネスの本質を考えるために、100年間にわたって蓄積されてきた経済学の知見が使えるということでもあります。

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