見出し画像

楊少衡「有点着急」『芙蓉』2019年第1期

作者の楊少衡(ヤン・シャオハン)は1953年福建省漳州市生まれ。文革時知識青年。1977年から県、市,省などで役人の経験がある。この小説でもその経験を踏まえて、官僚組織の中での昇進をめぐる人の心の機微を巧みに描写している。西北大学中文系卒。この小説には二人の主人公がいる。省の副省長の胡貞(フー・チェン)と、その省のある市の市長の彭慶力(ポン・チンリイ)。胡貞は中央から省に送り込まれた人で女性。どうも中央に対して省人事を推薦する役割の人。彭慶力はかつては最年少の市長であった人で、市長は三つ目。市の書記も二つ経験。これらの役割が既に長くなっていた。この小説は行政視察(調研)の胡貞に対して、彭慶力が面会を求める場面から始まる。以下この小説のあらすじである(《2019中国年度短篇小说》漓江出版社2020年1月pp.30-40)。

胡貞の行政視察は、省のチームが随行して、貧困者援助が正しく行われているかについて実施されるもの。もともとは明日の午後から1日の日程で、彭慶力の市を訪れる予定であった。彭慶力は周到に準備してきた。ところが隣の市から、今日の午後になってから、省のチームは予定通り明日来るが、胡貞は夕食後、省都(省城)に帰ることになったと連絡が入った。小説は、彭慶力が胡貞に直接電話で連絡をとって、夕食の時に、彭慶力の市の情況を説明しご批評を得たい、と食い下がる所から始まる。しかし、胡貞はその必要はないと断わった。

実は少し前に、胡貞は長く省長を務めた元省長の林奇(リン・チイ)を省立高級幹部病院に慰問に訪れたことがあった。そこで話題にでたのが、彭慶力の昇進が遅れていることだった。林奇は「今回昇格しなければもう機会はないだろう」「あなたは彼が話すのを助けることができる」といった。胡貞は「お役に立てるかどうか(也不知道有用没有)」と応じたものの、基本的にやめたあとにこうした人事の話をするのは異例なことなので、あるいは、彭慶力は矜持を保てず林奇に頼ったのかと、胡貞は考えた。

午後、市内で行われていた表彰大会の後半。市長としての講話を副書記に依頼すると、彭慶力は高速道路の休憩エリアに向かった。夕食後、省都に戻る胡貞一行がそこで休憩を取ると推測したのである。

やがて休憩エリアに着いた胡貞は、彭慶力が出迎えたことに不快を隠せなかった。

しかし胡貞は、彭慶力が随員もつれず、一人で待っていたことを知る。手にしている資料は貧困者援助に関するもの。

胡貞は、そこで、他の者に席を外させ、車の中で、彭慶力の報告を聞くことにした。案に相違して、彼の話はまさに貧困者援助に関してだけであった。
最後に彭慶力は「どうかわたしを気になさらず、私を(昇格人事に)推薦しないでください」と言う。胡貞は、驚いて「何を言い出すの?」。
彭慶力は再び感謝を述べて、推薦しないでくれと述べた。
「なぜなの?」すると彭慶力はもう一度同じ言葉を繰り返した。
「今日あなたが私にどうしても会いたかったのは、このためだったのね」と胡貞は、さらに問うた。

画像1


main page: https://note.mu/hiroshifukumitsu  マガジン数は20。「マガジン」に入り「もっと見る」をクリック。mail : fukumitu アットマークseijo.ac.jp