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シェアリングエコノミーと道徳性

 シェアリングエコノミー(sharing economy)定着には高い道徳性が前提であるように思える。導入した国々では多くの問題が表面化している。問題の多くは、事業提供者あるいは社会のモラルの低さから生じている。
    まず一般的にシェアリングエコノミーはネットを通じて、個人あるいは起業が保有するモノやサービスを有料あるいは無料で貸借することを指している。共有経済ともいう。ライドシェアはそこから派生しており、車を所有している人が運転というサービス付きで、車に乗るというサービスをアプリを通じて対価を得てシェアするもの。すでに自動車や自転車のシェアリングサービスは日本でもかなり一般化した(カーシェアリング、シェアリングサイクルなど)。ウーバーイーツなど空き時間に配送サービスに行なう人も、おそらくかなりの数に上るだろう。ただそこで働く人の労働環境などを考えると、雇用する業者、サービスを提供する業者には、高いモラルが必要である。この点、日本で長年もめているのは、ライドシェアの導入である。現在は、タクシーについて配車アプリで呼べるという形や、無料のライドシェアまできたが、これを一般の個人提供の有料サービスまで認めるべきかどうか。
 一つの問題はライドシェアあるいは配車アプリについては、その個人は個人事業主なのか、労働者なのかである。長時間働いても、運転手が労働者として守られていないことに批判がある。参入が容易であるため低賃金化するーこの問題は米国でも中国でも起きている。タクシー業界に与えるマイナスの影響も深刻で、米国ではライドシェアの影響でタクシードライバーが生活困窮に陥り自殺者が相次いだ(つまりこの事業モデルは、タクシードライバーとライドシェアドライバー双方を貧困化させた)。公共輸送機関の利用者を減らし、交通渋滞をひどくすることにも批判がある。NYではこの結果、ライドシェアに対して台数制限、そして運転手の最低賃金などが設定されることになった(2018年8月8日)。
 時間が経てばこのような問題は需給関係で調整するという議論があるが、現実は違っている。参入が容易であるため、超過供給は解消されない。
 なお交通事故が起きた場合や、運転手が乗客に強姦強盗などの犯罪を起こした場合のライドシェア事業者の責任が不明確だともされている。実際、中国で最大手滴滴のサービスでも乗客が運転手に殺害される事件が2018年に2件続いて起きている(つまりこの事業モデルは犯罪を助長している)。
   ライドシェアに関する最近の話題として、米国のライドシェア大手、ウーバーテクノロジーズ、リフトの上場がある。
 最大手のウーバー(2010年米国でサービス開始)にソフトバンクテクノロジーズが2018年1月に出資。出資比率16.3%。その上場申請は2019年4月11日NY証券取引所。また上場は5月10日。同社は2018年10-12月期まで8四半期連続営業赤字。公募価格は当初予想を2割下回り、5月10日上場時の初値は公開価格をさらに8%下回り、株価低迷には折からの米中経済摩擦の影響もあるが、IPO(新規株式公開)の減速を印象付けた。
    なお同業のリフト(2012年米国でサービス開始。楽天が楽天キャピタルを通じて出資。13%を保有する筆頭株主。)は2019年3月に先にナスダックに上場している。リフトの場合、3月28日に発表された公開価格は72ドルで想定より高かった。また取引は3月29日からだったが、29日、公開価格より9%高い初値を付けた。これらの点からみると、リフトの上場は、ウーバーより順調だった。ところがリフトの株価はその後、波を打って下落。ウーバー上場を翌日に控えた5月9日には54.62ドル、上場時から27%の大幅安となった。ウーバーと合わせ、両者の株価低迷でライドシェアは株価の面でも大きく傷がついた形だ。
    もちろんこれにウーバー創業者のトラビス・カラニックの2017年6月の辞任劇を加える必要もある。2017年2月の元従業員によるセクハラ告発以降、明らかになったのは、カラニックだけでなく、ウーバーという企業、そしてライドシェアというビジネスモデルのモラルの低さだった。
   今一つ問題が表面化したのは、シェア自転車。台湾ではシンガポール発のオーバイクが、どこでも乗り捨てできる便利さを売りに進出したが、迷惑駐輪で嫌われてた。シェア自転車については、放置の問題のほか、破壊・破損、盗難などの問題もある。事業者だけでなく利用者その双方に高いモラルがあって始めてこのビジネスは成立するーーなので、事業者のモラルに問題がない場合、利用者があるレベル以上の人に限定されるところでこのビジネスはうまく行くのではないか。
 中国大陸で、シェア自転車大手のofoの経営が行き詰まったことも話題だ。他社も同じだがまず放置車両問題を引き起こした。放置車両の回収運送費用は経営を圧迫、競合社の参入による料金競争の中で採算にあう料金もとれなかった。自転車メーカーがofoに対し未払い金請求訴訟を起こしているほか、1000万を超える利用者から保証金返金請求がなされている。ofoに関して2019年4月には債権者から破産の申し立てが行われたが、2019年5月の現時点では破産はしていないようだ。なお同社が資金的に行き詰まった原因として、創業者戴威の子供じみた性格が指摘されている(2019年2月14日付け中国IT最新事情による)。同記事によると、戴威は返却が必要な保証金を使い込んでおり、支援しようとした滴滴出行をあきれさせた。度重なる資金不足を、アリババからの融資によって切り抜けてきたとのこと。
 日本では、白タクが規制されているため、収益目的の相乗りは認められない。しかし同乗者を募るという形のシェアリングは認められ、現在4つのアプリが利用可能である。notteco, go ride, nori-na, CREWの4つ。いずれも報酬を求めないという前提で、同方向への同乗者を運転者、そして希望者がそれぞれ登録してマッチングさせるというもの。いずれも目的地までのガソリン代・高速代などをシェアするというものである。
 シェアリングエコノミーの先例は必ずしもバラ色ではない。また表面化している問題の多くは事業提供者あるいは利用者のモラルの低さに起因している。

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