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譚璐美『近代中国への旅』2017

白水社2017。本書で著者譚璐美の生い立ちや、人生の一部が明かされる。お父さんの思い出も少し。でもいろいろな人との出会いが本書を彩っている。前編、朱鎔基との出会いがあるし、竹内宏さんが出てくる。いずれも通訳としての仕事を通じての接触のようだが、これらは通訳者として仕事を通しての接触だったようだ。後編、劉少奇夫人だった王光明が最後の床にあったときの面会の様子が語られるほか、大祖父の弟だとして全国政治協商会議副主席だった人物との面会の様子も語られている。著者の『中国共産党を作った13人』の背景にある著者の歩みをこの本では改めて認識させられる(写真は吉祥寺経蔵の木彫。文化元年1804年のものと思われる)。

しかし本書の中心は、天安門事件の当事者たちを、海外の亡命先に追って取材した三編の記述だろうか。「現代」1991年7月;「諸君」1995年7月;そして小品だが「週刊新潮」2009年6月21日それぞれに掲載されたものを採録。登場人物は学生運動リーダーだった柴玲、ウアルカイシ、封従徳、張伯笠、李徳,白夢、李禄、辛苦などのほか、中国経済体制改革研究所所長だった陳一諮、ドキュメンタリー作家の蘇曉康、「中国民主団結同盟」主席の胡平、天体物理学者の方励之。

この三篇は、現在では歴史の記録としての意味も大きいが、「週刊新潮」2009年6月21日から浮かび上がる1995年ドキュメンタリー映画「天安門」の裏側の話は、衝撃的だ。このドキュメンタリーは現在もネット上に流れてるが、その製作者カーマ・ヒンストンは、アメリカ人だが20代前半まで中国で育った毛沢東主義者で、このドキュメンタリーは、学生運動を貶める悪意が込められているという、封従徳の指摘を肯定している。これは、様々な情報のなかには、情報操作を狙った虚偽的なものも混じるということであり、いつもひとつずつの情報の精度に敏感になる必要がある。

1980年代だろうか中国人の留学希望の青年にだまされた話、やはり80年代半ばだろうか、合弁企業の実態がいかにひどいものだったかという衝撃的な記述も記録されている。ビジネスの場に「過去の戦争の謝罪」を持ちだして交渉したり、合弁企業を地方政府・警察が結託して食い物にすることが横行していたとある。

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