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Hiroshima FOOD BATON 令和5年度成果報告会

2024年3月22日、広島市中心部の地下街・紙屋町シャレオ内のコミュニティスペース「紙屋町スウィング」で、「広島県農林水産局販売・連携推進課」が主催する食のイノベーション推進事業「Hiroshima FOOD BATON」令和5年度の成果報告会が行われた。

Hiroshima FOOD BATONは県内生産者の「稼ぐ力」を高めるため新たなビジネスモデルの創出を目指すプログラムで、採択者には3年間を最長に年間最大300万円の補助金が与えられる。会場では令和5年度に採択された事業者3社と令和4年度の採択事業者3社、合計6社の成果報告が行われた。

<当日の式次第>
・主催者挨拶
・Hiroshima FOOD BATONの事業概要説明
・令和5年度採択者による成果報告発表(3プロジェクト)
・令和4年度採択者による成果報告発表(3プロジェクト)
・フォトセッション・交流会/個別相談会

―主催者挨拶

主催者挨拶は、広島県農林水産局販売・連携推進課の伊藤美佐課長より行われた。本事業の意図を説明すると共に、来場したマスコミ関係者に本プロジェクトに対する理解を深めてもらうよう呼び掛けた。

広島県農林水産局販売・連携推進課の伊藤美佐課長  

―事業概要説明

続いてプログラム事務局の「合同会社MHDF」山中良太氏よりプログラムの概要が説明された。山中氏はこれまで募集テーマとして掲げてきた「いつもおいしい農作物の価値が味わえるビジネスの創出」「フードロスを減らす新たなエシカル消費型ビジネスの創出」などの項目に、今年度は「市場ニーズを踏まえた農作物開発・販売の最適化ビジネスの創出」を追加したことを報告。成果報告を行う6社の概要について簡潔に紹介した。

合同会社MHDF(事務局)の山中良太氏

 成果発表は1社5分間の持ち時間で、令和5年度採択者から行われた。

 ―令和5年度採択者成果発表① ~Fair-Farm Credit~

最初に登壇したのは農業から地球の脱炭素化に貢献する「Fair-Farm Credit(フェア ファーム クレジット)」プロジェクトを展開する本多正樹氏だ。

本多氏は米生産の一つの工程である「中干し」期間を1週間延長することで温室効果ガスの発生を抑制し、「J-クレジット制度」を活用して1haあたり2万円程度の純利益を創出する取組をはじめている。今年度はまずそうした取り組みに興味を持つ農家で作る脱炭素推進協議会「Net-Zero Farmers」を組織。新たな収入源の確保と、環境に配慮して栽培した付加価値米のブランド展開を推進した。その一方、中干し期間の延長によって米の品質低下、収穫量減少の恐れがあることから、それらを防ぐ栽培方法についての実証実験も今年行う。

Fair-Farm Credit(フェア ファーム クレジット)の本多正樹氏

 FOOD BATON1年目の成果だが、立ち上げたNet-Zero Farmersは広島県内365haの圃場の確保に成功した。まずこの365haで実績を作り、利益創出モデルを確立することで、令和6年度は参加面積1,500haで売上3,000万円、令和7年度は4,000haで売上8,000万円まで拡大する計画を立てている。オペレーションに関しては、生産者が導入しやすいDXシステムを構築。不正がないことを証明するため、50台のIoT型水位計を設置した。中干し延長についての実験はJA全農ひろしまや広島県とチームを組み、現在共同で進めている。

来年度に向けては現在の実証実験を進め、事業収支モデルの構築と安定的なクレジット販売先確保、DXオペレーションの確定、中干し延長に対応する技術的ノウハウの獲得を目指していく。

Fair-Farm Creditの取り組みに関する詳細は以下。

―令和5年度採択者成果発表② ~MOTTAINAI BATON~

次は「MOTTAINAI BATON(モッタイナイバトン)」の目取眞興明氏。

MOTTAINAI BATONはレトルトカレーによる食品ロス問題の解決を目指すスタートアップ。規格外野菜など地域で活用されていない「もったいない食材」を使って、その土地独自の「ご当地カレー」を製作。「カレー化」により食品ロスの削減を進め、同時に地域の魅力も発信しようという試みだ。

MOTTAINAI BATON(モッタイナイバトン)の目取眞興明氏

 1年目となる今期は、まず広島県とのつながりを作るため学校との提携を模索した。庄原実業高校(庄原市)、向原高校(安芸高田市)などで地元食材を使って生徒と一緒にレトルトカレーを作る取り組みを実践。さらに幼稚園や保育園、インターナショナルスクールまで対象を広げて事業説明会を実施した。カレーの材料となるロス食材に関しては、広島県内で農業を営む21社19品目と提携。カレーパンを作るため県内のパン屋とコラボしたり、食品ロスの認知を図るイベント「もったいないまつり」の開催も行った。

最終的に今年度は新規に5商品を開発し、食品ロス削減270キロ、130万円の売上を達成。新商品の中には向原高校と共同製作した「安芸高田産チンゲン菜と青ネギ入りクリーミーなチキンカレー」、東京の国分寺高校が広島産のほうれん草を使って作った「チャネルキャットフィッシュカレー(アメリカナマズ入りカレー)」などもある。令和6年度は引き続き学校、地域、組織、個人へのアプローチを行い、新規10商品の開発、食品ロス削減9,500キロ、4,700万円の売上を目指す。

MOTTAINAI BATONの取り組みに関する詳細は以下。

―令和5年度採択者成果発表③ ~Farm to Baby~

令和5年度、最後の採択者は「Farm to Baby(ファームトゥーベイビー)」の矢野智美氏である。

矢野氏は安芸高田市を中心とする女性農業関係者で結成した「一般社団法人KURU KURU」のメンバー。KURU KURUは里山の生み出す力と都市の消費する力を結び付け、両者を循環共生関係にアップデートすることでソーシャルビジネスを展開しようと活動している。今回FOOD BATONでチャレンジするのは、農家にとって価値がないと思われてきた特定米穀「くず米」を使って離乳食を作る取り組み。これまで安価で売り払われてきた食材に価値を与えることで、農村の持続可能性を高め、日本社会にウェルビーイングをもたらそうというのだ。

Farm to Baby(ファームトゥーベイビー)の矢野智美氏

そのFarm to Babyブランド第1弾の商品が、先日予約販売開始になった離乳食専用甘糀「Baby Food+(ベビーフードプラス)」。くず米を材料に作られ、砂糖の代わりの甘味料として活用する。FOOD BATON初年度の今年は、ブランドの長期的成長に必要な安心安全性を担保する体制の構築を重点的に行った。具体的には製造OEM先、原材料保管先にHACCPへの取組可否を追加。また特定米穀専用の業者と契約して、品質を担保する体制も整えた。さらにKURU KURUのすべての取組で、生産者から適正な価格で購入する「農家フェアトレード」を実践することに定めた。情報発信のためオンライン座談会の配信も開始する予定である。

令和5年度以降は、前年確立した一連のバリューチェーンを活用し、離乳食のレパートリー拡大を目指す。商品数を1点から10点に増やし、売上は1,700万円を目標にしている。

Farm to Babyの取り組みに関する詳細は以下。

―令和4年度採択者成果発表① ~薬局 DE 野菜~

令和5年度採択者の発表に続いて、採択2年目を終了した令和4年度採択者の成果報告が行われた。最初に登壇したのは「薬局DE野菜(やっきょくでやさい)」の竹内正智氏である。

薬局DE野菜はその名の通り、薬局での野菜販売を通して広島の農業の新しい販路を構築し、こだわり野菜と健康を結びつけた新ブランドの確立を目指している。その特徴は、収穫後24時間以内に届けられる「鮮度」と珍しい野菜が手に入るという「希少性」、そして「生産者」との直接のつながりだ。令和5年度は薬局37軒に納入。当初は35軒の生産者と取引を行う計画だったが、野菜の品質を保つため15軒に減らし、1軒あたりの取引額を増やす方向にシフトした。また導入時の障壁だった店舗側のオペレーションを軽減するため、商品を限定した「健康サポート野菜」という新ブランドを設立。現在薬局4店舗に加えセブンイレブン30店舗で広島県産トマトの試験販売をスタートさせている。

薬局DE野菜(やっきょくでやさい)より竹内正智氏

薬局での販売を推し進める一方、昨年は生産者数・生産量が少なく市場流通しにくい「ニッチ野菜」を安定供給させる事業にも乗り出した。まずパクチーが県内スーパーを中心に50店舗規模まで拡大。今後は黒キャベツ、芽キャベツ、ケールなどもラインナップに加えていく。

今年度は、薬局事業の売上が昨年の125万円から350万円に伸長、そこに新規ではじめた卸売事業の3,510万円が加わり合計3,860万円となっている。最終年度となる令和6年度は健康サポート野菜を90店舗に導入、ニッチ食品の掘り起こしも進め、薬局事業、卸売事業共に年商6,000万円規模にスケールアップすることを目指している。

薬局DE野菜の取り組みに関する詳細は以下。

―令和4年度採択者成果発表② ~comorebi commune~

「comorebi commune(こもれびコミューン)」の小嶋正太郎氏は所用のため事前収録した映像で成果報告を行った。

小嶋氏は「comorebi farm(こもれびファーム)」という名義で尾道市因島で八朔と安政柑を育てている。氏が目的にしているのが、農業の楽しさを広めることで後継者不足による耕作休耕地の拡大を防ぐことだ。FOOD BATON2年目となる今年力を入れたのは、新商品の開発と就農者のあっせん。前者に関しては「アイランダー」というオリジナルジュースを作り、898本を販売した。商品は東京や京都のセレクトショップでも販売されている。またマツダ車ディーラーの「アンフィニ広島」と提携し、自動車販売キャンペーンの特典にcomorebi farmのハッサクショットやアイランダーを提供、自動車購入特典にはcomorebi farmのファームツアーが組み込まれた。

comorebi commune(こもれびコミューン)小嶋正太郎氏の発表動画

後者の新規就農に関しては、東京から20代の若者1名を因島に迎えた。彼は東京でシステムエンジニアをやっていたが、comorebi farmとの出会いによって農業への興味を膨らませ移住を決意。現在はすでに約3,000平方メートルの耕作放棄地を引き継ぎ、不知火の栽培に従事している。comorebi farmは同じ志を持つコミュニティの構築により、就農者の拡大を目指すという。今年度は『PAPER SKY』『RiCE』といった感度の高い雑誌にも紹介され、新たな顧客を得た。

令和6年度に関しては、いまだ手が付けられていない農家民宿をオープンさせることが目標となる。民宿の資金を捻出するため、オリジナル商品の販路拡大、生産コストの削減にも尽力する。

comorebi communeの取り組みに関する詳細は以下。

―令和4年度採択者成果発表③ ~HIROSHIMA HYBRID DESIGN~

令和4年度採択者、最後の登壇者は「HIROSHIMA HYBRID DESIGN(ひろしまハイブリッドデザイン)」の小野敏史氏だ。

HIROSHIMA HYBRID DESIGNは広島の価値を最大化し、世界へ届けた上で、ものづくりを次世代につなげることを目指している。具体的には広島産食材の加工・販売を通して県外外貨を獲得することが目標だ。その手段として用いるのが超瞬間冷凍技術。店のできたての味、とれたての鮮度をそのまま商品化できる技術を用いて、廃棄野菜を使った無添加スープブランド「Re soup」6種類を展開。他にも広島生牡蠣と瀬戸内ケールを使った焼餃子、広島県三原市の人気店「塩そばまえだ」の塩そば、広島熟成鶏のとろとろレバーとほうれん草といったメニューを開発し、紀ノ国屋広島三越店や飲食店に卸している。

HIROSHIMA HYBRID DESIGN(ひろしまハイブリッドデザイン)の小野敏史氏

 令和5年度は10年後のマーケットを見据え、「飲食店・ホテルへのサポート」「健康・ベジタリアン・ハラル商品の開発」「比婆牛の開発・ブランディング・流通モデル作り」、それらの海外展開を行った。最終年となる令和6年度は、その中でもっとも結果が出た飲食店コラボに注力、現在取引のある15店舗からの拡大を目指す。また3月には広島市平和大通り沿いに「牡蠣と肉と酒 MURO」をオープン。ここではすべて瞬間冷凍の食品を扱い、実際の料理やオペレーションを体験してもらうことでメニューごと商品を販売していきたいと考えている。さらにメニューやレシピの詳細がわかるサイトを立ち上げることで、来年3月には流通総額1.2億円の達成を計画している。

HIROSHIMA HYBRID DESIGNの取り組みに関する詳細は以下。

―交流会(試食・ネットワーキング)

6社の成果発表が終わった後はフォトセッションが行われ、マスコミ関係者や参加者との交流会に移った。会場にはMOTTAINAI BATONのカレー、Farm to Babyの甘糀、薬局DE野菜のトマト、HIROSHIMA HYBRID DESIGNの冷凍食品などが並べられ、試食しながらの個別相談となった。

来年は最長3年間の支援を謳うHiroshima FOOD BATONにとって初めて「卒業生」が生まれる年。彼らがどのような結果を出すか、また現在の活動に触発されて新たにどのような事業者が参加するのか、注目の年になるだろう。