銀河の渡し賃は、指定席840円【SL銀河乗車記】
「指定席券 SL銀河 840円」
駅で発券してもらったその切符を手にしても、現実のことと思えませんでした。
切符は、岩手県の花巻・釜石間を走る「SL銀河」の指定席券。
今年の6月で運行終了となるだけあって、その指定席券は予約開始とともに数秒で完売するほど。超人気アイドルユニットのライブばりのプラチナチケットと化していました。
そんな奇跡の塊みたいな切符を手にしても、すぐには信じられんもんです。
千円にも満たない紙切れなのに、まるで100万円の札束をバッグにいれたかのようにビクビクしながら帰路につきました。
現金輸送車の運転手の気持ちが少しわかった気がします。
◆SL銀河、花巻駅出発
一ヶ月後、遂にSL銀河に乗車する日がやってきました。
大阪・伊丹から空路で花巻へと向かいます。
ちなみに飛行機ですが、片道6600円で乗れる「JALスマイルキャンペーン」で運よく航空券を往復分購入できました。
だいたい関西から東京までの新幹線片道分の値段で、行って帰ってこられるのですから、案外天の川もお安いもんです。
さて、SLの始発となる岩手県・花巻駅にやってきました。
出発は10時36分ですが、盛岡から回送されてきたSL銀河は10時19分に入線します。
発車1時間前ですが、駅はだいぶ賑やか。
SLを迎える郷土芸能の方々が準備を始め、駅内外にいる人たちもどこかそわそわしている様子。
いまかいまかと、私もホームで到着を待ちわびていたその時。
ポっ
かすかに響いた汽笛。
それを合図に、トン、トトン、と始まる郷土芸能の太鼓のリズム。
線路の先、
緑の陰から青い車体が姿を見せました。
ゆっくり、ゆっくりと、歩くようにホームに近付いてくる蒸気機――
ん?
電車……いえ、キハ(気動車)がやってきました。
蒸気機関車は……?
まさかここにきて車両トラブル!?
そうこうしている間に青いキハは入線していき――
現れました、蒸気機関車です!
SL銀河が花巻ステーションに降り立ちました。
このSL銀河、実は客車に自走できるキハが使用されている面白い編成なんです。
キハの運転台には運転士が常駐されていて、雨で線路が滑りやすい時や、SLだけではちょっと苦しい上り坂の時に、キハの動力で手助けすることがあるそう。
客車の色は「夜が明け、朝へと変わりゆく空」を表現しているそうで、濃い青から薄い青へと徐々にトーンが変化しています。
入線時の動画はこちら⇩
色の変化もわかると思います。
ちなみにSL銀河は「老朽化により」運行終了とのことですが、実は老朽化というのはSLじゃなくてこの客車・キハ141系のほうだったりします。
元々は国鉄時代の客車にエンジンをつけて魔改造したのがこのキハ141系。客車時代から半世紀近くも動き続けています。
客車→気動車と経て、再び客車としてその役目を終えようとする車両を、向かいのホームからしみじみと観察します。
静寂の蒼の車体には、金色の星々が瞬いていて。
耳を澄ませば、清いオルゴールの旋律でも聴こえてきそう――
な、わけはなく
構内に轟く、蒸気とディーゼルエンジンの泥くさい音色のコラボレーション!
そのきらびやかな夜空の車体を、黒い煤煙と排ガスが覆い隠す!!
この石炭とディーゼルという、レトロ好きの性癖を満たすような欲張りセットに立ち会いたくて是が非でも乗りにきたかったんですよねぇ!
「これよ、これッ、たまんねぇぜ!!!」
写真撮ってたらあっという間に乗車時間になったので、乗り込みます。
◆銀河の旅へ、さぁ出発
10時39分、SLとキハがそれぞれ汽笛一声。
花巻駅を出発しました。花巻の風景が煤煙とともに流れていきます。
民家の窓から、踏切待ちの車から、耕作中のトラクターから、笑顔で手を振ってくれる地元の人々に、汽車はポッ、ポッ、と汽笛で応えます。
さぁ、そんな旅情と開け放たれた窓から入り込む煤煙を肴にまずは一杯だ!
今回の旅のお酒は「銀河高原ビール」
SL銀河でビールを飲むとしたらこれでしょうと決めていた一杯です。
最初、駅から離れた酒屋さんに買いに行くつもりでしたが、花巻駅のNewDaysで販売されていました。さすが、わかってらっしゃる。
街中を離れたSLは、太陽光をちらつかせるほどの煤煙を豪快に吐きながら田園地帯、そして山間を駆け抜けていきます。
ビールで一息ついたら、車内を散策。
車内で特にお気に入りの場所が、1号車のソファースペースでした。
開け放たれた窓から入る風が気持ちいい!
そうしていい気持ちになって油断していると、トンネル突入時に煤煙がぶわっと入ってきて、みんなで苦笑しながら窓を閉め合う一面も。
走行中の動画はこちら⇩
SL銀河は、地元花巻出身の作家・宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をモチーフとしていることもあって、車内のあちこちでは賢治にまつわる展示ブースがあり、銀河鉄道をイメージした装飾がとても幻想的です。
現実とかけ離れたような車内に、気分はすっかり銀河旅行。
空想の世界に浸れる空間です!
◆遠野駅到着
①交流
正午過ぎに列車は中間地点の遠野駅に到着しました。
ここでは機関車の補水作業などのため1時間以上停車します。
SL銀河の乗客に限り途中下車が認められていて、この間に『遠野物語』で有名となった民話の街・遠野を観光する人も。
ホームで機関車の写真を撮っていると、隣の席に座っていた方が遠野駅で降りられるというので、私に声をかけてくださいました。
なんとその方は京都出身(私は滋賀なのでお隣)!
その方いわく、私が席を離れた時に言った「よかったら窓際座っててもらって大丈夫ですよ」という何気ない一言で、
「イントネーションで関西の方だとわかりましたよ」
とのこと。
す、すごい……!
別れ際に、この先の撮影スポットとか色々教えていただきました!
ちなみに遠野駅停車中、私の方からお声がけした人もいました。
その方のお写真がこちら⇩
星座柄のスカートが本当に鮮やかで目を引いて、写真を撮らせていただけないかとお願いしたら、承諾(SNS掲載も可)をいただけました。
ちなみに走行中、こんな一幕も。
とある駅が近づいたタイミングで、車内アナウンスが流れます。
てっきり到着の案内かと思っていた私は、耳を疑いました。
「えー、車掌も驚いていますが、2号車に(千と千尋の神隠しの)カオナシがご乗車されています」
なんだこの、今後人生で二度と聞くことはないであろうアナウンスは。
そんな馬鹿なと2号車に向かってみます。
いましたわ。
2号車はちょっとしたカオナシ撮影会でした。
このようにSL銀河乗車中は、凝ったコーデやコスプレをされている方を何人か見かけました。(銀河鉄道999のメーテルや鉄郎がいたり)
中には鉄道制服を模したような凝った服装の方も!
走行中、思いきって「それ、私服ですか?」と話しかけてみたら、
「あ、いえ、私バスガイドです」
本業の方でした。
本当にすみませんでした。
②凡ミス
時間になり、汽車が遠野駅を出発しました!
銀河の旅も後半戦です!
さて、遠野駅にいる間に地元のお酒が飲みたくなった私。
出発前に駅前の土産屋でこちらのお酒を購入していました。
どぶろくです。
すっきりとフルーティーなものが飲みたいな、と希望していた私にぴったりの味。癖がなく、飲みやすい!
天気も晴れてきて、いい気持ち。
外の景色を見やりながら、ふと、口の開いたカバンに目をやった時でした。
ん、遠野マップ?
そういえば遠野に着く前にスタッフさんみたいな人にもらったような……
裏返すと、
・・・・・・。
クーポンあったんかい!
しかも500円というなかなかの金額。
しかも土産屋で使えたし!
しかもどぶろく代これ一枚で賄えたし!!
いや、別に金銭が惜しいとかじゃないですよ。
元来がケチくさい性格節約志向でエコな私は、使わないクーポンという紙資源を持て余してしまったことに心を痛めただけです。
はい
しばらくガチへこみしました。
◆プラネタリウム、そして終着駅へ
ちなみにSL銀河では、車内でプラネタリウムを上映するという面白い催しがあります。(※事前に整理券を配布。各時間が埋まり次第配布終了)
終点到着まで残り1時間をきった頃、予約していた「車内プラネタリウム」の時間がやってきましたので、プラネタリウムがある1号車に向かいます。
約10分のプログラムは『銀河鉄道の夜』のストーリーに沿ったもの。
上映中もゴトゴト現実の汽車も動くので、映像と合わさっていい演出でした。
プラネタリウムを出てしばらくすると、終点・釜石の街に入りました。
沿道や民家から手を振る人が増えてきました。
お店や工事中の人たちなども、仕事を一旦止めて手を振ってくれます。
みんなが明るい気持ちで銀河を見上げ、笑顔になる。
本当にいい汽車に乗ることができたなと思えた瞬間でした。
さぁ、あと一息。
ボォォオオオーーー、とそれまでにも増して長い長い汽笛を何度か鳴らして
汽車はゆっくりと、釜石駅に降り立ちました。
今年の6月に引退を迎えるSL銀河。
その最後の瞬間まで多くの人に支えられ、愛されてきた、銀河鉄道でした。
◆おまけ
翌日。
まだ遠野のクーポンの件を引きずっていた、財布の中身の持続可能性にも気を配るSDGsな私。
帰りの飛行機までの空き時間を利用して、新花巻駅から路線バスで宮沢賢治記念館に向かっていました。
最寄りのバス停に着き、運賃の150円を支払って降車しようとした時、運転手さんにカードのようなものを渡されました。
「はいこれ、配布しているやつ」
渡された券に目を通すと、宮沢賢治記念館の印字が。
「なんだこれ割引券かな……無料!?」
この時知ったのですが、花巻市の期間限定キャンペーンで、土沢線のバスを利用して特定のバス停で下りると、もれなく宮沢賢治記念館などの施設が無料になる優待券がついてくるのです。
「ヒャッホゥ、これで昨日の負け分取り戻せたぜ!!」
そんなギャンブラーみたいな喜び方をしながら、記念館へと続く階段を駆け上がっていきました。
銀河の渡し賃は指定席840円(乗車券別途必要)
同じくらい、安上がりな私でした。
【終わり】
ちなみにこの宮沢賢治記念館も含め、SL銀河の他にも花巻の素敵なスポットを巡ってきましたので、こちらも後日記事にする予定です。
お楽しみに!
追記
前日に宿泊した宿について記事を更新しました⇩
花巻市の散策記も追加しました!⇩
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ここまで読んでいただきありがとうございました。
鉄道旅、旅行、滋賀県、訪れたお店などの記事を他にもアップしていますので、興味があればぜひ!
また、仕事で小説を書いています。作品などの情報はこちら⇩
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?