自炊ができる温泉宿に泊まってきた ~岩手花巻・大沢温泉「湯治屋」~
「ご飯は自炊」
「温泉は混浴」
「増改築を繰り返しダンジョンと化した築200年の建物」
そんなぶっとんだ設定のお宿が、果たしてこの現代日本に存在するのか。
あるんです。
今回はそんな魅力たっぷりのお宿、大沢温泉「湯治屋」さんをご紹介します。
◆大沢温泉「湯治屋」
5月某日。
運よくSL銀河の指定席券を確保でき、岩手県花巻市を訪れた私。
メインのSLの運行は明日なので、予約しておいた宿に向かいます。
宿があるのは、花巻駅からバスで約30分のところにある大沢温泉峡。
花巻駅からは温泉組合による無料のシャトルバスが運行されていて、事前予約なしで乗車することができます。
バスに揺られること約30分。大沢温泉の入口へと着きました。
脇道に入って坂を下っていくと、新緑が芽吹く木々の向こうに、なにやら古めかしい建物が。
こちらが今回のお宿、「賢治ゆかりの自炊部・湯治屋」さんです。
建物はなんと築200年!!
受付の表記も「帳場」。
もう昭和とか明治とかぶっ飛ばして江戸時代に来たかのよう。
①未体験のお部屋
そんないきなり江戸時代な宿の中を従業員さんに案内され、自室へ向かいます。
遠ッ!!
なんか体感3棟分くらい歩いた気がするのですが。
まずこの時点で普通の宿じゃないことを肌で感じていた私。
「ここです」と従業員さんが開けたのは、実家にありそうな襖。
中は一般的な旅館の和室という感じ。
これでお値段3860円。う~ん、すごくいいんじゃな~い?
素泊まりでこのお部屋ならだいぶお得じゃん、と納得していた私に従業員さんが粛々と部屋の説明を始めます。
従「この部屋ですが、鍵がございません」
私「?」
入口を見る私。確かに種も仕掛けもない襖やん…。
従「金庫もありません。入浴などの際は貴重品は帳場にお預けください」
私「???」
ここで部屋を見て、ある事実に気づく私。
私「あの……ティッシュもないんですか?」
従「はい、ございません。売店でご購入ください」
呆気に取られる私を残し、去っていく従業員さん。
机に置かれた説明書きを読んで、私はぽつりと呟きました。
「Wi-Fiはあるんだ……」
ちくしょう
面白くなってきたじゃねぇか
②館内散策
とにもかくにも、部屋で少しゆっくりした後、館内散策に乗り出すことにしました。
築200年のお宿ということですが、増改築を繰り返したであろう痕跡があちらこちらにある湯治屋さん。
付け足された建物が蟻の巣のように四方八方に伸び、今歩いている廊下や階段が果たしてどこに通じてるのかわからない初見殺しなお宿。
その様相はまさに令和のダンジョン。
建物のあちこちには襖や障子。
隙間という隙間というには客室が詰め込まれ、実家以上にきしむ廊下を歩いていると、夫婦の談笑やテレビの音が扉ごしに平気に聞こえてきます。
なんなら障子を開けて実家のようにくつろいでいる人も。
探検しているだけでも充分楽しいお宿ですが、ここは湯治宿。
そろそろメインである温泉に浸かりにいくとします。
②湯治屋の温泉
湯治屋さんには全国的にも珍しい温泉が存在します。
それがこの宿のメインの湯ともいえる「大沢の湯」
なにが珍しいかというと、なんとこちらは混浴露天風呂なんです!
昔ながらというか、昭和を飛びこえて明治や江戸の時代にきたかのよう。
湯船に浸かると芽吹いた新緑と温泉の香りが、ぶわっと鼻腔を満たします。
湯船から手が届きそうなほど近くを豊沢川が流れ、緑や清流がさざめく音を聞きながらのんびり湯を楽しみました。
こちらの温泉は基本的に混浴ですが、午後8時から9時までは女性専用時間も設けられています。
ほかにも湯治屋さんに宿泊すると、レトロな内装を楽しめる「薬師の湯」や、
女性専用の「かわべの湯」
そしてお隣の旅館「山水閣」さん内にある「豊沢の湯」も楽しめます。
湯を堪能し、1階の廊下を歩いていた私。
その前方に、外の勝手口から宿泊客がドカンッと大荷物を置かれました。
なんと中身はマイ布団!
長期で泊まる宿泊客の中には、布団持参で温泉をゆったり楽しまれるそう。
「湯治」と聞くと、大御所の文豪が電車にぶつかってフェータルじゃない程度の傷を癒すために長逗留するという、とっくに滅びた縁遠い文化と思っていたものが、こうして自分の目の前で息づいていたことに新鮮さをおぼえました。
温泉に浸かったら、実家の居間のような待合室(休憩室)でゆったり。
また、大沢温泉は宮沢賢治ゆかりの地でもあります。
花巻訪問前に、宮沢賢治の父親が主役の小説「銀河鉄道の父」を読んで賢治や花巻について予習していたので、パネルを読んで、「ああ、ここが小説に登場した温泉地か」と感慨深くなりました。
③夕食はご当地グルメを自炊しよう
さて晩ご飯の時間になってきましたが、今回は素泊まりプランです。
館内にあるお食事処に行けばご当地料理も楽しめますが、この湯治屋さんは名前に「自炊部」とある通り、共同炊事場で自炊を行えるとのこと。
せっかくなら炊事場を活用してみることにしました。
共同炊事場に着くと先客が。網でヤマメを焼かれていました。
「売店で魚も売られているんですか?」と尋ねると、
「いや、そこの川で釣ってきたんだよ」
ワ、ワイルドすぎる……!
写真を撮らせてもらっていると、
「よかったら食べてみなよ。残った骨を骨酒に使いたいからさ」
ご厚意に甘え、その場にいた別のお客さんと一緒に刺身と焼き身を少しずついただきました…!
ヤマメのお客さんが立ち去られた後、自分も自炊してみることに。
材料は館内の売店で購入した、ぺろっこらーめんです。
付け合わせは同じく売店で購入した卵のみ、
のつもりだったのですが、
「さぁ作ろう」と息巻いているところに、先ほどヤマメを一緒にいただいたお客さんがやってきて、
「さっきラーメン作るって聞いたから、よかったらこれ食べて!」
と、ほうれん草をわけてくださいました。
ヤマメを食べ終わった後の洗い物を少し手伝っただけなのに……。
ちょうど野菜が欲しいなと思っていたので、素直にいただきました!
炊事場には食器類や調理道具が完備。鍋を取り出し、10円で7~8分使えるガスコンロでラーメンをつくります。
完成したのがこちら!
部屋に運んで実食。
ラーメンだけど麺はきしめんのようで、満足感たっぷりの味わい。
煮卵とほうれん草がいいアシストで、気分はちょっとしたお夜食!
胃袋までタイムスリップしたかのような一品でした。
④古いけど新しい
温泉や食事の時間以外はひたすらお部屋や館内でまったり。
この日はあいにくの雨、と思っていたのですが、露天風呂で雨を浴びながら湯に浸かったり、川や古い建物に降り注ぐ雨をのんびり眺めたり、雨音を肴にしっぽり地酒を味わったりと。
眠りにつく頃には「雨でよかったな」と思えるくらい堪能したのでした。
翌朝。
ぐっすり寝た後は、夜明けとともに早速朝風呂。
顔に吹きつけてくる湯けむりが迫力満点でした。
花巻駅に向かう路線バスの時刻がやってきたので、すっかり湯でほぐれた体にバックパックを背負って宿を離れました。
岩手の山中にある、現代とはかけ離れた雰囲気と文化が残る宿。
でも記事中で何度か表現したように、実家で過ごすような日常がそこでは感じられて。
そんな日常と非日常が入り混じる空間でしか味わえなかった、人同士の交流もあって。
ほっこり温まったのは、きっと温泉のおかげだけじゃなかったと思う。
いいお宿でした!
そんな古いけど新しい体験に触れ、心も体もすっかり軽くなった私は、銀河鉄道というさらなるファンタジーの旅に出るべく、路線バスに乗って花巻駅に向かったのでした。
ちなみに花巻市の散策記はこちら⇩
【終わり】
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ここまで読んでいただきありがとうございました。
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