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20代前半ゲイがストーカーに遭ったときの話 #62

僕は失恋してから、マッチングアプリでたくさんの人と会いました。


記憶は朧げですが、多い時には週に一回ペースくらいではマッチングアプリで知り合った人と会っていたような気がします。


そんな中で、一人の年上の人と出会いました。


彼はとても優しくて、誠実で、なんでも「いいよ」と言ってくれるようなそんな人でした。


彼との2回目のリアル(実際に会うこと)で、僕は彼を家に招き入れ身体の関係を持ちなんとなくお互いにいい感じの雰囲気がありました。
料理が得意な彼は、僕に手料理を振る舞ってくれてそれもとても嬉しかったです。


それから何度か会合を重ねて僕たちは仲良くなっていきました。しかし、会う回数を重ねていくうちに僕は漠然と彼に恋愛としての魅力を感じられなくなってきました。



彼はとても優柔不断でした。僕も優柔不断な方ですが、僕以上に決められない人でした。





「んー、なんでもいいかな」





彼は口癖のように、そう言っていました。
僕もなんでもよかった。

お互いになんでもいいはずなのに
何も選択肢がなくて、なにも決まらない。




不思議ですよね。



お互いになんでもいいなら
可能性は無限大!
なんでもできちゃうじゃん!!
ってならないんですよね。


僕は、なんとなく主体性のない彼と一緒に過ごす時間がだんだん苦痛に感じるようになりました。
そして、僕の方から少しずつ距離を置きました。




「仕事が忙しい」

「友達と予定がある」



そんなふうに言って

連絡の頻度を減らし、会う機会を減らしていきました。
どこかのタイミングで、僕の気持ちが離れてしまったことを彼に気がついてほしかった。
そして、何事もなかったかのように彼との関係を終わらせたかった。
そんな願望や期待がありましたが僕の期待通りには事は進みませんでした。



僕が連絡をしなくても、彼からの一方的な連絡は続きました。




僕と彼はTwitterのアカウントでも繋がっていました。
彼のTwitterは閲覧専用で、彼はツイートをすることはなく一方的に僕の投稿を見ている形になっていました。




“最近、風邪気味で体調が悪い”



仕事中になんとなく身体の不調を感じていた僕は
Twitterに、こんな投稿をしました。


その日の夜、帰宅したら玄関のドアノブにパンパンに物が詰まっている大きいレジ袋がかけられていました。




(え、なんだろう…。)




恐る恐る中身を確認すると大量の風邪薬、大量の栄養ドリンク、大量ののど飴、冷えピタシート、体温計などが入っていました。
最初は、近所で仲良くしているゲイ友達からの差し入れなのかなと思いグループラインでみんなに聞いてみましたが全員心当たりはないと言っていました。





(じゃあ、誰がこんなことをしてくれたんだろう…?)





そのとき、はっと思い浮かんだのは
僕が距離を置きたいと思っている彼かもしれないということ。
それ以外には考えられませんでした。


ゾッとしました。
僕は最近、あからさまに彼のことを避けていました。連絡が来ても既読にして返信をしていませんでした。そんな中での彼からの無言での贈り物だったのです。


今、思えばその彼は好意を寄せる僕のためを思っての行動だったのだとわかりますが
当時、距離を置きたいと思っている相手からのその行動は僕にとっては恐怖に近い感情がありました。


そして翌日に彼から連絡がありました。



「風邪は大丈夫?昨日、玄関に風薬とかかけておいたから使ってね。本当は直接会って渡したくてしばらく待ってたんだけど、遅くなりそうだったらから玄関に置かせてもらいました。元気になったらまた会おうね」



彼は僕の帰りを家のそばで待っていたようでした。
どのくらいの時間、待ってくれていたかはわかりません。
ちょうど仕事が立て込んでいる時期で22時や23時頃までの残業が続いていたので、かなりの時間を待っていたのかもしれません。

僕は彼が連絡もなく僕の家に来てしまい、僕の帰宅を待っていたという事実を知り彼のことが怖くなりました。
僕はそんなことしてほしいと思ってもいないし頼んでもいない。

自分から遠ざけたいと持っているものが、近づいてくることに対して僕は漠然とした強い恐怖感を覚えるようになりました。



僕はその連絡に対してなんと返信をしていいかわからずに、そのまま既読をつけて返事をしませんでした。



また突然、家に来てしまったらどうしよう…。



その日以降、そんな不安はあったけど
当時の僕は目の前の問題から目をそらして
なんとなくこのまま放置して
時間が経てば何もなかったことにならないかと
そんなことを淡く期待していました。




しかし、僕の期待通りにはならずに不安に思っていたことの方が現実になってしまいました。




それから数日たった平日の夜23時頃、家のインターホンが鳴りました。




僕は残業に疲れ、ウトウトとテレビを眺めていましたがインターホンが鳴った瞬間に背筋が凍るような感覚になりました。


(こんな時間に誰だろう…。まさか…。)

インターホンのモニターを確認すると、そこには彼の姿がありました。



全身、鳥肌が立ちました。



ドアを開けた方がいいのか。
いやでも、会って今更なにを話せばいいのか。
明日も朝早いしそもそもこんな時間に連絡なくやってくるなんて非常識だよね…。
出なくていいよね…?


頭の中で様々な考えが巡りましたが
結局僕は、彼を迎え入れることはしませんでした。



しばらくして、モニターを確認すると彼の姿はなくなっていました。


彼がいなくなったことを確認し安堵したのもつかの間、冷静になった瞬間にいろんなことが怖くなりました。


このままだと、きっとまた突然家にやってくるだろうし待ち伏せされるかもしれない。


そのときに彼から何を言われるかもわからないし
僕は相手の気持ちを無下にし続けているわけで、そのことに対する後ろめたさもありました。

後ろめたさが半分、逆恨みをされて何か実害があったりしたらどうしようと
考えれば考えるほど不安になってきました。


当初の僕は、自分から距離を置けば
この関係は自然と消滅するものだと安易に考えていましたが
実際はそんなことはなくて、僕が彼から離れようとしても
彼は僕との距離を縮めようとする状況は変わりませんでした。



このままの状態だと自分にとってもよくないし、相手にとってもよくない。
むしろ悪くなる未来しか想像できない。


ずっと既読のまま返信していなかったLINEに返信をしました。
僕は、彼に自分の思いを伝えました。


「ごめんね。ずっと連絡できてなくて。実は今、好きな人がいてその人と付き合いたいと思っています。だから、もう連絡をくれても会えないです」


当時、他に好きな人なんていませんでした。
だけど都合のいい言い訳に僕は架空の“好きな人”を登場させることでスムーズに今回のことを終わらせたいと思っていました。




その日のうちに彼から返信がありました。




「そうなんだ、わかった。でも最後にちゃんと話しをしたいから会いに行くね。いつだったらいい?」




ちゃんと話しをしたい…?



僕はもうこれ以上、話すことはなかったし
会いたくもなかった。


僕の気持ちを尊重してくれようとしないような雰囲気をなんとなくだけどこのときに感じていて
本当に会いたくなかった。


だけどここで会うことを拒否してしまったら
それこそ、突然家に来られてしまうかもしれないし
相手の感情を逆撫でしてしまうかもしれない。

かといって会っても僕は話すことはなかったし
彼の話しを聞きたくもなかった。


僕の中では、彼とは何もはじまってないものだと思っていました。
彼とは知り合って2ヶ月ほどでした。
知り合ってからはお互いに好意があったので頻繁に会っていました。でも会った回数は知り合ってからの最初の一ヶ月で5回ほどで、最後の一ヶ月は一度も会っていませんでした。


僕は最初こそは、見た目もタイプで優しい彼に惹かれる部分がありましたが
しだいに付き合う相手としては物足りなく感じてしまったことは事実でした。

きっとそう思ったことを直接、彼に伝えれば解決したことだったのかもしれませんが
当時の僕にとって、それを相手に伝えることはとてもハードルが高いことに感じていました。


しかし、僕は彼の気持ちを無下にしてしまったことは事実だし
これまで彼に対して不誠実な対応をとってしまっていたことも事実でした。


「最後に会って話しをしたい」という彼の希望を拒否して突き放して
最後まで不誠実な僕を貫き通すことも選択の一つだとも思いましたが


だけど、彼の中で不消化なことがあるのであればちゃんと解消しなければ
お互いにスッキリした状態で関係を終わらせることができないんじゃないかと考えて



彼と会う決意をしました。



それから数日後、近所の大型スーパーの駐車場で彼と会いました。


実際に、会うときはすごく緊張しました。
僕は相手の期待を裏切っている立場で、相手の好意を無下にしてきた立場でした。


罵られたり、罵倒されたりするかもしれない
あるいは、まだ相手に好意があって言い寄られるのかもしれない
言葉だけならいいけれど、何か実害があることをされたりしたらどうしよう


なんとなくだけど、彼との会合にあたって
何もいい想像力が働きませんでした。


恐怖と不安しかありませんでした。


待ち合わせ場所を近所の大型スーパーの駐車場に指定したのは僕でした。


ここならたくさん人がいるし、ひと目につくから
お互いに変なこともできないし
万が一のことがあったとき助けを呼べる。


そんなことを考えるくらいには、怖さがありました。


僕は待ち合わせ時間より早くに待ち合わせ場所に到着して彼を待っていました。


そしてしばらくして、彼も到着しました。


お互いに車で集合していました。
僕は、近くのベンチで話そうと提案しましたが
彼は寒いから車の中で話そうと僕を助手席に招き入れました。


正直、車の中で密室になることは避けたかったのですが
その申し出を断ることができず彼の言うとおりに彼の車の助手席に座りました。



「久しぶりだね、元気だった?」



彼はニコッと優しい表情で僕に問いかけてきました。


そして二言目に
「ひろトの好きな人ってどんな人なの?」


と聞いてきました。



僕は架空の好きな人ことを、なんとなく彼に説明しました。



「そっか。でも、その人とはまだ付き合っていないんでしょ。じゃあ、付き合わないかもしれないよね。仮に付き合ったとしてもうまくいかないかもしれないよね?ひろトがその人とうまくいかなかったらひろトと会いたいし、俺と付き合ってほしいと思うから、俺はそれまでひろトのことずっと待ってるからね。いつになってもいいから。」



彼は、笑顔を崩さずに淡々とそう話していました。



怖かった。

本当に怖かった。


何も伝わっていない。


この状況でなんで、待っているだなんて言えるのか。


この状況が怖くて一秒でも早く逃げたかったけど
だけどこのまま、この場を有耶無耶にしてしまうことの方が怖くて
僕は、覚悟を決めて強い口調で彼に伝えました。




「仮に僕が好きな人とうまくいかなかったとしても、もう二度と会うことはないです。絶対に好きになることもないから、待ってもらっていても迷惑だし、期待にも応えられない。もうLINEもこの場でブロックするから連絡もとれないし、今日で会うのは最後です。」







そのときの僕は、彼に瞳にはどんなふうに映っていたのでしょうか。





「…そっか、そうなんだ。わかった。」




そんな短い返事だったと思います。
このときも彼の笑顔は崩れないままでした。



彼が何を考えているのか、最後まで感情が読めなくて
緊張と恐怖から心臓が早く動いていて、じんわりと冷や汗がでるような
そんな雰囲気だったように記憶しています。




「じゃあ、もう行くね。」



僕は彼の返事を待たずに彼の車の助手席から降りて
自分の車に移動し、その場をあとにしました。



それ以降、僕は彼と会うことはありませんでした。



23歳の僕の苦い恋愛の経験でした。
かれこれ10年以上前の話しです。


“ストーカー”と彼の行動に対して酷い言葉を使ってしまいましたが、みなさんはどう感じましたか。
当時の自分には至らない点はたくさんありました。


結果として僕は、彼に対して思わせぶりな態度をとって
彼のことを振り回しまった悪い人だったのだと思います。
反省すべき点もたくさんあったし、その気づきのおかげで自分が逆の立場になったときに
自分自身を客観的に顧みる視点を少し持てるようになったと思います。

この記事を読んで不快に思う方もいらっしゃると思います。
結果的に僕は一人の人を深く傷つけてしまったと思います。

批判もしっかり受け入れたいと思っています。
ですが、恋愛には傷みはつきものなのかなとも僕は思っています。

僕の経験上、圧倒的にうまくいかない経験の方が多かったし
今でもうまくいかないことの方が多いです。

みなさんは、何を目的に恋愛をしていますか
何を叶えたくて、何を目指して、何になりたくて恋愛をするのですか。

僕は僕の理想を叶えたくて恋愛をしています。
僕は幸せになりたいです。幸せになりたいから恋愛をしています。

それぞれ、考え方や価値観は違うけれども
自分自身の幸せを願って、恋愛をしているのかなと僕は思います。

同じ“幸せ”を目指して恋愛をしているはずなのに
うまくいかないことの方が多いってなんだか矛盾している気がしますよね。

だけどそれって、それぞれの“幸せ”の形が違っていて形の違うもの同士だとうまく重なり合えないからであって、なんとなく自然なことなんだろうなって思います。

だけど、その形って簡単に見えるものじゃなくって、相手の考え方や価値観に触れていくことで
なんとなく漠然とお互いのその目指している幸せの形を手探りで探っていくような作業を恋愛を通してしていくんじゃないかなって思います。


今回、僕は彼と出会って
彼の第一印象やそれ以前のメッセージのやりとりではとても好感を持てたし
好きかもしれないと思ったけれど

それから回数を重ねて、彼の価値観に触れることで
自分の理想を叶えてくれる相手ではないのかもしれないと思ってしまいました。

その思想の動き自体は僕にも責任はないし、そう感じたことは事実でした。
しかし、そのあとの行動に問題があったのかもしれないと思いました。


連絡もなく突然、僕の家に来てしまうなど
もちろん彼の行動にも問題がある部分があったと思います。


だけど、彼は最後まで僕に対して誠実でした。


連絡を返さない僕に対しても、“風邪を引いた”という僕のSNSの更新を見て、きっと心配になり
いても立ってもいられなくなったんだと思います。
ドラッグストアにいき、僕のことを考えながら買い物かごに商品を入れていたら
思った以上にたくさんの量になってしまって
本当は直接それを渡して「ありがとう」って素朴に喜んでくれる僕と会いたかったんだろうけど
いつまでたっても帰ってこないから、肩を落としながら玄関のドアノブにパンパンに膨らんだレジ袋をかけて帰っていって

それからも僕からの連絡はなくて、きっと彼はすごく不安に思っていたと思います。

だから心配で、突然夜遅い時間に
確実に僕が家にいるだろう時間を狙って会いにきたんだと思います。

最後に「会いたい」と言ってくれたことも
彼なりの覚悟があったんだと思います。

優柔不断で何も決められないと思っていた彼が、最後に「ずっと待ってる」と
僕に言ってくれたことも彼の本心であり、彼の僕に対する真心のこもった一途な正直な気持ちだったのだと思います。


僕は、彼に対して不誠実で居続けましたが
彼は僕のことを一切咎めたりはしませんでした。

こんな酷くて、一方的で、わがままで、最低な僕に対して彼は最後まで優しい彼のままでした。

きっと彼は、当時の僕が思っていたような怖い人ではなかったんだと思います。
きっと僕が思っていた何倍も誠実で優しくて愛情深い素敵な人だったんだと思います。


当時の僕にとって、この恋愛の経験はとても苦い体験で彼にとってもきっといい思い出ではなかったと思います。


お互いに傷みがあったと思います。


だけど、僕は今回の恋愛でこの傷みを経験して
そして、それ以降もたくさん恋愛を経験して
その度に誰かを傷つけて、僕自身も傷ついて

だけどその傷みを知ることができたおかげで
11年前の恋愛を振り返ったときに
あのときの怖かった体験は、実は怖い体験ではなくて
その背景には一人の誠実な男性の僕に対する一途な思いがあったのではないかと客観的に気づくことができる自分になれたように思います。

これは全て、僕の想像の話だし
思い出の補正で事実と少し異なる部分はあるかもしれないけど

だけど、思い返してみて考えることは
相手に対して不誠実な態度をとって
いいことなんて何もないということだなと
本当にこれに尽きると思います。


きっとあのときに、僕がちゃんと彼と誠実に向き合うことができていれば結果は違っていたのかもしれません。
お互い傷みはあったかもしれないけれど、もっと小さい傷みで済んだかもしれません。


彼がいまどこで何をしているかは分かりません。
だけど、きっとどこかでちゃんと幸せでいてくれている。


僕は、僕が幸せでいられるように
僕と一緒にいてくれる人たちと
一緒に幸せでいられるように
誠実に、やさしく、たのしく生きていきたいなと
日々、漠然と考えています。



“ココナラ”というサイトで電話相談を受け付けています。
同性間の恋愛についてや、友達づくりなどに関しては自分の経験を交えて相談にのれると思います。その他、職場や恋人、友人、家族、人間関係全般の愚痴や悩みなどなんでもお聞かせください。

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