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【不機嫌な彼女の退職】キライな人と出会う意味

キライな同僚が、退職する。

もうずいぶん長いこと関わる機会がなかったせいか、
大嫌いだったはずなのに、「おつかれさま」と
労いの気持ちが湧いた。意外だった。

彼女は、同じ部署の後輩で、
とてもマイペースな人だった。
ルールを守る気もなければ、
マナーなど知ったことかと
我が道を弾むように歩く自由人。

そんな彼女は、台風のように
よくも悪くも周りを吹き飛ばし、
巻き込んでいった。

だからわたしは、
クライアントの迷惑にならぬよう、
自由な彼女が愉しんで仕事ができるよう、
母のように、姉のように、せっせと世話を焼いた。

彼女が理不尽な不機嫌を撒き散らそうと、
ルールを守らず皺寄せを食らおうと、
気を遣って、心を砕いて、
彼女のために、多くの時間を使った。

周囲の親切には、
気まぐれにしか応えない彼女だけれど、
たくさん笑って、多彩な才能を発揮して、
心地よく仕事をしているように見えた。
わたしも、彼女と働く時間を
とてもたのしいと感じるようになった。

それなのに。ある日突然、
わたしは彼女がイヤになった。

親切を当たり前と思う態度に、
不機嫌を所構わず振り回す姿に、
自分以外、目に入らない性格に。

そして、わたしは、
彼女に優しくするのをやめた。

先を読んで手厚く準備をしたり、
頼まれもしない親切を差し出さなくなった。
自分のことは、最初から最後まで、
自分でしてもらうことにしたのだ。

そして、わたしが態度を変えたせいで、
後に「あなたには裏切られた」と、
怒りのメッセージをもらった。

わたしは、彼女を裏切ったのだろうか?

たしかに、裏切ったんだと思う。
優しくて甘くて、なんでも許す先輩の仮面を
彼女の許可なく剥ぎ取って捨てたのだから。

わたしの甘っちょろい優しさは、
わたし自身の自己満足で
ただのエゴだった。

彼女の人生から、自分の手で失敗して
後悔をして、怒られて悲しんで、
学習する機会を奪った。

そして、わたしが望む「あたり前の社会人」に
彼女を仕立て上げようとしていたのだ。

彼女を、「あたり前の社会人」に
仕立てようとしたわたしのエゴは、
見事、わたしに跳ね返ってきた。

自分こそ正しいと思って正論を振りかざし、
親切の仮面をつけて、他人を操ろうとした。
その事実に気づいたとき、
わたしは猛烈に恥ずかしかった。

わたしは彼女がキライになったけれど、
それは彼女のせいではなかったと今はわかる。

わたしは彼女がキライになったのではなく、
親切ぶって他人を思い通りにしようとした自分が
心底キライになったのだ。

彼女がわたしの優しさを当たり前に受け取るたび、
何にも感謝もせず、不機嫌を撒き散らすたび、
「こんなに気遣ってやってるのにその態度はなんだ!」と
わたしはひそかに腹立たしく思っていた。

「やってやってる」と感じた時点で、
それはもう、ただのエゴだったのに。

彼女のおかげで、わたしは、
身勝手な優しさを捨てることができた。
わたしが「届けたい!」と
心から思った優しさだけそっと気軽に差し出す。
それがわたしにとって、ちょうどいい優しさだった。

助けないなんて不親切かな、
教えないなんて意地悪かな。

なんて考えは捨てた。
助けてと言われたら、教えてと聞かれたら、
そのときはじめて動き出せばよかったのだ。

生きていれば、キライな人も苦手な人も、
両手くらいは出会ってしまう。
好きな人とだけ一緒にいたいけれど、
キライな人の存在は、
わたしに何かを気づかせてくれる。
そのために出会ったんだと思った。

彼女の人生が、これから先も
温かくしあわせでありますように。


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