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【リハビリテーション】練習・訓練をすること自体が目的になってはいけない-本来の意味を知ることの重要性-

『リハビリテーション』というと、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士による機能訓練をイメージする方が多いことと思います。

『リハビリテーション』とは、WHO(世界保健機関)によれば「能力低下やその状態を改善し、障害者の社会的統合を達成するための、あらゆる手段を含む」とされており、概念としては幅広く、人がその人らしく生きるということを目的としています。

また、『リハビリテーション』の目的「全人的復権」とされており、もともとはラテン語で、re(再び)+habilis(適する)からきています。
中世及び近世ヨーロッパでは、キリスト教の「破門の取り消し」や「名誉の回復」として用いられており、ジャンヌダルクのリハビリテーション(名誉の回復)やガリレオ・ガリレイのリハビリテーション(名誉の回復)として用いられていました。
わが国では、社会の偏見や政策の誤り等のために、奪われ・傷つけられた尊厳・権利・人権が本来あるべき姿に回復することとしてとらえ、リハビリテーションを全人間的復権と表しました。
(公益社団法人 日本障害者リハビリテーション協会 ホームページより一部引用)

リハビリテーションには、以下の分野があります。

1.医学的リハビリテーション
2.職業リハビリテーション
3.社会リハビリテーション
4.教育リハビリテーション
5.リハビリテーション工学(参加支援工学)


どんなことでもそうだと思うのですが、初回は問診や評価、方向づけを中心に行っていくことを明示していても、はじめから問診や評価抜きに40分または60分の間ずっと練習や訓練をやるという意識で来院される方が時々おります。
「練習至上主義」のような、練習や訓練をやること自体が主の目的となってしまっている方練習や訓練をすることでのみ達成感を感じる傾向のある方です。

また、専門家側にも落ち度がある場合があります。
それは、ひとつの方法・やり方に相談者(患者)を押し込めてしまう場合とにかくたくさん練習をやることを推奨している場合です。

方法・やり方はいくつも存在します。
また、適切な量というのも重要です。
状態や状況が同じような方は存在するとしても、全く同じ状態や状況の人はいません。
適した方法・やり方も、ひとりひとり違います。

そのため、ひとりひとりの状態や状況に合わせて、いくつもある方法・やり方から適切なものを選んでいく必要があります。
また、最初からずっと同じやり方・方法でやればいいと思っている方もいます。
改善するにしろ、悪化するにしろ、状態や状況は常に変化します。
状態や状況の変化に合わせて、適宜方法・やり方を検討・選択していくことが必要です。


手技・方法は、あくまで「手段のひとつ」でもあります。
状態や状況に合っている練習方法や練習量、支援のかたちであれば、改善はしていきますし、困り感も軽減します。
しかし、状態や状況に合っていない練習方法や練習量、支援のかたちの場合には、効果がないか、最悪の場合は練習をしているのに悪化してしまう場合があります。

吃音を例にとり、説明します。

連発性や難発性、随伴症状が頻繁にみられ、会社では話し方を否定・修正されたりもしていました。会社の上司や同僚も理解があるとは言えない状況です。
その方に、支援者Aさんは発音の練習をしていました。
相談者や支援者は一生懸命にやっているのに、改善していない、困り感も軽減していないと感じています。
むしろ、悪化しているのではないか…と感じていました。

これは、どうしてでしょうか?

ひとつめは、不適切な練習は、繰り返せば繰り返すほど、症状の悪化要因となってしまう恐れがあるからです。
(不適切なものは、適切なものよりも5倍も強化されやすいと言われています…)
反対に、適切な練習方法や練習量で行うことで、改善・軽減していくともいえます。

(例)発音と吃音の違い

●発音
はっきり、勢いよく、(短く言う)

●吃音
ゆっくり、やわらかく、全体を伸ばす(ある程度の長さを切らないように、流れるように話す)

吃音の練習・支援と発音の練習・支援の目的や方法は異なります。
上記内容をみていただくと、有効な方法・やり方が真逆なのがわかると思います。
吃音のある方にとって、発音の練習方法を導入していくことは適切ではありません。
せっかく練習をやっているのに、悪化しているとなれば、元も子もないですよね。

吃音のある子、吃音のある方において、発音の問題(構音障害)が合併している例もあります。
その際には、発音の側面が吃音に影響を与えているかどうかにもよりますが、発音の練習も行いつつ、同時に吃音の練習も行うのが良いとされています。

そしてふたつめは、環境要因にアプローチをしていないからです。
話し方を否定・修正されたり、周囲の方たちの適切な理解や支援があるとは言えない状況があると、症状や困り感が軽減しにくくなってしまいます。
また、せっかく適切な方法・やり方で練習を行っていたとしても、環境要因を整えなければ効果が出なかったり、軽減しにくくなってしまいます。
環境面を整えることで、症状や困り感が軽減しやすくなるともいえます。


調子が良いときにも練習が必要と思っている方は多いですが、大事なのは
① 練習は、状態・状況に合ったやり方、質が重要
② そもそも練習が必要な状態かどうかを把握すること

です。

練習をすることで、良い状態だったものを逆に崩してしまっては、これも元も子もありません。
● 必要な練習はするけど、不要な練習は控える(しない)。
● 練習・訓練がすべてではない。
これらのことを知ることも、リハビリテーションにおいては重要かと思います。

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