見出し画像

【台湾建築雑観】暖房・断熱をどう考える

先日、大雪山のバードウォッチングに行った際、大雪山賓館に泊まりました。標高2,500mでは外部の気温は10度以下になっていました。旅行会社が手配してくれた部屋は、コテージタイプの洒落たものでしたが、寒さが半端でなかった。部屋には暖房がなく、サッシは木製の単板ガラス。これでは寒いはずです。布団に電気毛布が準備してあり、眠る際には暖を取ることはできたので、一応寒さに対する配慮はしてもらっています。しかし、建築の設計としてはどうしたものかとあらためて考えてしまいました。

暖房設備は考えないのがデフォルト

台湾では空調設備に通常暖房がついていません。それは家電製品もそうですし、標準的なホテルに泊まっても同じです。これは、台湾では気温が10度以下になり、寒さが厳しくなる日数が一年のうち限られているため、コストをかけてそのための暖房設備を整えるよりは、その寒い期間は他の方法でやり過ごそうというコストパフォーマンス的な考え方からきているのでしょう。年間で寒い日数が10日から1週間程度であったら、暖房にコストをかけるのはやめておこう、その間は厚着をしてやり過ごそうと考えるわけです。

しかし、高山地域でもこれと同じ伝で建物を設計してしまうと、とんでもなく寒いことになってしまいます。以前阿里山や合歡山の民宿に泊まった時、今回の大雪山のロッジなどでは、部屋の中とはいえ、本当に凍えながら過ごすことになってしまいます。

壁面の断熱について

日本では設計の際に壁面においても断熱性能を考慮することが標準になっています。工法については、外断熱と内断熱があり、断熱材の厚さについても様々な選択がありますが、基本的に断熱処理を施すのがデフォルトです。
材料としては内断熱として発泡ウレタン吹き付けであるとか、外断熱としてポリウレタンフォームのパネルを用いるなど様々な選択肢があります。これは、日本の主な地域が温帯に属しており、冬の間は寒さが厳しく、暖房の効果を考えると断熱することがコストパフォーマンス的に合理的だからでしょう。いくら部屋を温めても、壁から熱が逃げていったのでは暖房の効果が上がりません。そのために、壁面には断熱材が必要になってきます。

しかし台湾では、外気温がそれほど低くないため、断熱の配慮をする必要がそれほどありません。暖房の場合と同じように、殊更に寒い日には数日我慢すれば済むと考えられています。
また、台湾の建物ではコンクリートで構造体を作った後にモルタルを塗って塗装というのが標準的な仕様のため、日本のような断熱処理をした上にボードで内装をするという工法が採用しにくいということもあります。

なお、中国の寒冷地では、コンクリートの建物には外断熱を施すのがデフォルトとなっています。その厚さも5cmから10cmほどと、日本では東北や北海道で採用されるのと同じ様な仕様です。台湾では外断熱を採用するという議論は見られません。寒さが厳しくないので、そこまでの必要性はないと判断されているのでしょう。

ガラスの断熱

ガラスについても、日本では複層ガラスを用いることが標準になりつつありますが、台湾ではガラスに複層ガラスを用いるのはレアケースです。
台湾ではガラスには複層ガラスではなく合わせガラスを用いて,防犯上・遮音上の配慮を優先して考えます。

国民党時代の質実剛健な建物

今回泊まった大雪山賓館は、中華民国になってからごく初期の建物と思われます。この時代の国民党政府は、台湾を中国に攻め返すための仮の所在地であると考えていました。ですので、様々な建物がコストを抑える最低限の仕様のものになっています。それは、デザインとしての外観もそうですし、様々な機械設備についてもそうです。古い建物で、トイレットペーパーを流すことが禁止されているのも、排水管の大きさが十分でないことが原因です。

そのため、古い建物では暖房設備はないですし,断熱の配慮もありません。この様な建物は、台湾の平地部では実際に問題は少なかったでしょう。特に南部では北回帰線の南側になっており、気候はとても温暖です。現在であっても特に支障はありません。
しかし、台北や基隆など北部の街では冬はそこそこ寒いですし、風も強く湿度も高くなります。また、高い山に設けられる施設でも、冬の寒さは厳しいです。阿里山などに登ると、氷点下の気温になることもよくあります。

台湾の緑建築基準

現在では、台湾の建物を設計する際に、綠建築(グリーンビルディング)の指標が示され、様々な要件を満たす必要があります。その中に外壁の断熱性能の基準もあります。
その際に外壁の熱貫流率を計算しますが、一般的にこの条件を満たすために配慮するのは、ガラスの面積を抑えることであったり、ガラス面を外壁面からセットバックさせて直射日光が当たるのをを避けるといったことです。複層ガラスを用いることは選択肢としてはありますが、必須とは考えられていません。また、コンクリートの壁面に断熱処理を施すことも、あまり採用されていません。
ただし一部のディベロッパーが、断熱モルタルという工法を採用しています。これはモルタルの中に発泡材を混ぜることで、モルタルの材料自体の断熱性能を増すというものです。この技術はヨーロッパから持ち込まれたのものらしく、材料のカタログ性能上は相当に断熱性を増すとうたってあります。

参考に、下に断熱モルタル(隔熱砂漿)のメーカーカタログを示します。
https://www.testcin.com.tw/_files/ugd/eb7f13_d946b1946bca41bdb01cd5db8586c14b.pdf

一方、屋根面での断熱性能は日本と同様に配慮されています。暑い国ですので,夏の間の屋根からの直射日光に対する対応は必須です。一般的には4cmから5cmの厚さのポリウレタンスタイロフォームを防水材の上に敷き詰めます。

この、屋根面の断熱に配慮し、外壁の断熱はそれほど考えない。代わりに壁面では、ガラス面に直接日射が入らない様、ガラスをセットバックさせる,或いは庇を設けるというのは、太陽高度の高い暑い地方ではよくある考え方です。日本では,沖縄の省エネ設計も同様に考えられています。
ですので、台湾のこの様な断熱設計の傾向は,合理的で普遍的なものであると僕は考えています。

グレードの高い建物から暖房・断熱を装備

僕の勤めている日系ディベロッパーでは、ホテルプロジェクトの際、各客室に冷暖房設備を設けています。流石に廊下には設けませんが、居室となる様なところには暖房の配慮をしています。
水冷四管式の暖房設備自体は、台湾でも設計・施工は可能ですし、VRVの空調システムでも冷暖房兼用設備とすることは可能です。ですので、台湾でも暖房設備を整えることは、コストさえかければ可能です。

また、ガラスについても断熱性能を考慮して、外側に合わせガラス、内側を単板ガラスとした、遮音と断熱に配慮したガラス3枚による複層合わせガラスを採用しています。
この様な仕様は、高いグレードのホテルでは必要な配慮となってきます。

一方、住宅設備において暖房設備を設けるのは、デフォルトとして考えるのは、一般的ではありません。しかし、空調設備にしろ床暖房設備にしろ、製品としては台湾でも購入可能です。ただし、設置するとしても、それは購入後に所有者がオーナー側工事としてグレードアップするという形になります。全ての消費者に向けて用意するものではなく、あくまでも個別に対応する設備という位置付けになります。

一方、壁面の断熱については、上記の開口部の設計の配慮以外に、断熱モルタルを用いるという選択をしているディベロッパーが複数現れています。これは日本の様なボードによる内装仕上げをしない台湾では、有効な対応策でしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?