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【台湾の面白い建物】宜蘭のグランルーフ

宜蘭県羅東に"羅東文化工場"という施設があります。この建物を見学に行って実際に見た時に全く面食らってしまいました。この施設には普通の意味での機能にあたる部分が非常に小さいのです。そして巨大な屋根が計画されています。こんな建物は日本では見たことがありません。長い間なぜこんな建物があるのか疑問が解けませんでした。

羅東文化工場

この建物は写真で紹介されているものを見て、実地に見学に行ってみたものです。名前が文化工場なので文化会館のようなものであろうと考えましたが、その外観から一体どのような機能なのか想像できませんでした。
場所は羅東市街からかなり南の方に行った、旧城壁の外側でした。その際立った外観は遠くからもよく分かります。
写真からも巨大な屋根を持った施設であることは分かりましたが、建物を一回りして驚きました。この施設には屋内空間がほんの少ししかないのです。エントランスホールの他には屋根に吊り下げられた小規模なギャラリーがあるだけです。こんな位置にあるギャラリーは使い勝手も悪いでしょうし、平面計画上の回遊性もなく、階段を登った先に行き止まりのギャラリーが2つあるのみ。
この建物を見た第一印象は、何て壮大な無駄遣いをしているのだ、というものです。これはデザインをする建築師のエゴではなかろうか。これでは、維持管理も大変だし、全体の工事費用の中で、使える空間はほんの一部でしかない。もっと有効なコストのかけ方があるだろうという感想でした。

この時、僕は全くこの空間の持つ意味が理解できていませんでした。

大屋根の下の広場
1階にも室内はほとんどなく、上階に細長いギャラリーがあるのみ

三星郷公所

羅東文化工場を見学してから1年以上も経ってから、改めて宜蘭に遊びに来た時に、宜蘭に住んでいる友人がドライブがてらこの建物に連れて行ってくれました。機能的には三星郷(”村”程度の行政単位でしょう)の公民館のような建物ですね。この公民館側もなかなかにユニークな構成です。鉄骨と鉄筋コンクリートの混構造、屋根を屈折させて造形していることなど、小さいながら面白いデザインをしています。
特筆すべきはこの公民館の隣に、ただのルーフを設けただけの広場があったことです。不思議に思い、宜蘭在住のその友人になぜこんな屋根だけの施設がここにあるのか尋ねました。
彼の説明によると、宜蘭という土地は年間を通して雨の日がとても多いのだそうです。そのためこのような屋根付きの広場を設けて、公的なイベントをする際に雨の日でも使えるようにしているとのことでした。
それでようやく腑に落ちました。このような大屋根はそのような理由でこの地方で必要なんですね。この施設では全くの大屋根だけとして計画されています。羅東文化工場も規模が違いますが、まずこの大屋根とその下の広場を計画することありきなのでしょう。それにおまけに簡単な機能がついている。そのように理解すると羅東文化工場の計画も理解できます。


公民館のデザインもなかなか特徴があります
隣に大屋根がかかっています
普段は駐車場として使われているようです

その後、宜蘭/基隆地方でいくつもの大屋根のある建物を見かけることになりました。

基隆駅前開発

現在、台湾鉄道のたくさんの駅舎で改築工事が行われています。主なところでは、高雄、台中、桃園など。基隆駅の付近も、港付近を含めて大規模な整備計画を進めています。
この改築工事は駅舎そのものだけではなく、周辺の港湾地区も含めるものになっていますが、この駅舎と港湾地区を結ぶオープンスペース全体に大屋根がかかるような設計になっています。このような空間をつくる形式の、一つの発展形のようですね。出来上がった暁には、どのような使い方がされるのか非常に楽しみな場所です。

基隆駅前では大屋根が施行中でした
奥の駅舎と手前の観光施設のバッファーゾーンとして大屋根が計画されています

金山溫泉公園、大鵬里停車公園

基隆から北上した金山にある2つの公園ですが、どちらにも大屋根がかかっています。そしてその中央に足湯が設置してあります。一つは温泉公園の一部として、一つは駐車場の一部が休憩のできる屋外スペースとなっています。どちらも大屋根と足湯のセットとして計画されています。

大鵬里停車公園の足湯
大鵬里停車公園の大屋根
金山溫泉公園の足湯
金山溫泉公園の大屋根


台灣北東海岸の特殊な気候

日本人にとって台北の冬は非常に湿度の高いジメッとした天気で、なかなか慣れないものです。しかし、山を越えた東側の基隆や宜蘭は、それに輪をかけた雨がちな気候です。この二つの土地で、台湾の日照日数の少なさを競っているようなものです。実際に台北で小雨というような時に基隆に行くと、山を越える汐止のあたりから雨がちに変わり、基隆に着くと土砂降りです。基隆に住んでいる同僚は、基隆は雨ばかりなので、遊びに行くのはいつも台北だと言っているほどです。

https://clubtaiwan.net/blog/2017/09/06/climate-yilan/

このような特殊な気候に対応して、行政が公共の建物にこのような大屋根、グランルーフが必要だと判断しているのでしょうね。実際に羅東文化工場を見学した時には、この大屋根の下でイベントが開催されていました。
日本と違う形式の建物に、拙速に判断を下してはいけないと反省しました。

羅東文化工場の広場ではイベントが開かれていました


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