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【台湾建築雑観】symmetry or asymmetry?

台湾の住宅の設計を見ていて、今は慣れてしまいましたが、当初とても違和感を感じていたことがあります。それは、台湾では平面プランや外観の多くが左右対称、シンメトリーに作られているということです。このことについて考えたことを書いてみます。

フランス式庭園とイギリス式庭園

20代の時、半年のヨーロッパ旅行に行ったに行って、いくつもの城郭と庭園を見ました。フランスやオーストリアで見たものは中央に軸線を通したシンメトリーのものが多くみられました。イギリスではシンメトリーは嫌われているようで、大体においてアシンメトリーの設計がなされています。

ヨーロッパの庭園計画には、異なった形式があるのだなとその時感じました。

フランス、ブルボン宮殿
イギリス、ヘスタークーム

日本の城郭建築

日本のお城を見に行くと、そのアプローチ空間の妙に感心します。それは動線を様々にクランクさせて、攻め手の攻撃に対して防御側が守りやすい様色々工夫されているからです。それは大体においてアシンメトリーな配置になっています。
そして、日本の城下町は殊更にお城に行く通りを軸線にして左右対称に計画することをしません。大体において、自然環境、河川や高低差を根拠として、幾何学的ではない都市の配置がなされています。

熊本城の配置

中国の城市

これが中国の都市になると、非常に軸線を強調したシンメトリーな人工的な計画になります。そうでない都市も上海などいくつもありますが、中国人が理想とする都市像は、長安城や北京の紫禁城に具現化された様な、宮城をセンターに置き、そこに軸線を設定。そして東西にシンメトリーに諸施設を配置した様な計画なのでしょう。

紫禁城の配置図

京都の都市の歴史

日本は、中国の都市様式を取り入れたことがあります。平城京と平安京です。現在の奈良と京都にその痕跡が残っています。
元々、平安京は朱雀大路を軸線に、宮城と羅生門を配置しています。これは現在では船岡山と千本通りを結んだラインになっており、千本通りと九条通りの交差点には羅生門跡が残っています。

しかし、平安末期から戦国時代にかけて、この都市構造は段々と変化していきます。主な理由は、街の西側を流れる桂川の氾濫が激しく、都の西半分では住環境が劣悪になり、段々と過疎になっていったこと。そのために街の中心が東の鴨川の方に移ってゆき、皇居でさえも東側に移ってしまったのです。
日本では、軸線を通してシンメトリーに都市を作るという理念は、都市の自然環境と上手く合致せず、そのために都市構造を変えてしまっているのです。

僕は、このことは、奈良・平安時代を通して唐の時代の律令や文学、音楽舞踊などを学んできたものが、次第に自国の文化に変容していく過程と軌を一にしているのだと考えています。
中国の思想を丸ごと受容するのではなく、日本の国民の考えに合わせて変えていく。そんな中で、中国的な都市計画のあり方は、換骨奪胎されて、結局は全く異なった都市を日本では作っていったのでしょう。

平安京の平面図
戦国時代の京都主要部

自然な建築の平面計画は?

この様に都市の自然な形はシンメトリーなのか、アシンメトリーなのかという感覚は、それぞれの国や地方で異なるものの様です。

日本では、建築を計画する際に、敷地の条件から日照条件や周辺道路からのアクセスなどを考慮してヴォリュームスタディーを行って、建物の計画を進めていく際に、その形をシンメトリーにしようという志向はあまり働きません。それは、自然環境や都市環境の中に適切におさまる形として計画していきます。

これが台湾で計画をすると、平面計画や立面計画をする際に、正面性や軸線へのこだわりが色濃く出てきます。恐らく、台湾人の感性の中には、建物はシンメトリーが美しい、或いは自然であるという感覚がデフォルトとしてあるのだろうと思います。

例えば、建物のエントランスを考える際に、台湾の人達は中央に配置するのが自然で座りが良いと考えます。僕などは、内部空間の関係から最適な場所におくべきで、それは中央とは限らないと考えます。その様な提案をしても、拒否されることが多いですね。

アシンメトリーな日本の建築計画
シンメトリーを強調する台湾の立面計画

この、"シンメトリー"か"アシンメトリー"かというのは、正解か不正解かなのではなくて、好みの問題でしかないと僕は考えています。日本人は景観の姿に合わせてアシンメトリーが自然と考える。台湾人は動物の形を見て自然な形はシンメトリーと考える。どちらの理屈も合っており、反駁はできない様に思います。

そうであれば、台湾においてはそういう建築計画における好みの傾向があると把握して、それに沿って検討を進める。その上で不合理な点があれば正していく。その様なスタンスで仕事をしています。

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