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炎上したコメント欄含め、『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事 (津川友介 著)』を読んで思ったEBMへの誤解。


津川友介先生の書かれた「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」が馬鹿売れしています!
なんと、発売10日で10万部を達成。Amazonランキングも全書籍中のベスト10に入るというすごい売れ方。売れ行きだけでなく、もちろん内容の方も素晴らしいので、是非読んで下さい!(^^)

で、そのロケットスタートの原動力の一つにもなったと思われるのがこちらの記事(記事自体も津川先生が書かれています)。

フェイスブックシェア5000コメント250以上と、かなりの反響を呼んだ(バズった)ようです。

で、コメント欄を読んでいると・・残念ながらネガティブなものが多いんですよね。まあ、東洋経済オンラインがつけた「白米が体に悪い」というタイトルからコメ好きの日本人にとってはにわかには受け入れがたいものですし、コメントも匿名投稿なので仕方ないんですけど・・

で、そのコメント、本の内容とかエビデンスの中身に対する意見もあることはあるのですが…そのネガティブな感情のおおよその根底にあるもの、これを一言で言ってしまえば


「俺の人生なんだからほっとけ!食いたいもん食う!」


だと思うんですよね。

いや、そりゃそうです。

僕も外来やら在宅やらいろいろやってる中で、この「ほっとけ!」には毎日のように遭遇します。

「50代で体重90kg?そりゃ血圧・糖尿の数字が高くもなる…そろそろ痩せたら…」→「ほっとけ!」

「腰が痛いからってずーっと痛み止めのロキソニン飲んでたら胃が・・」→「ほっとけ!」

「睡眠薬?そりゃ昼間から家でテレビばっか見てたらなら夜も寝られないわ〜、もっと外に…」→「ほっとけ!」


とまあ、こんな感じで、こちらがいくら正論言っても、「ほっとけ!」と言わんばかりの苦笑いで返されたらもうしょうがない(笑)。これの典型例がタバコ。

タバコなんて健康に悪いってみんなわかってる。でも好きな人は吸う。それで肺気腫になるとか肺ガンになるとかそういうこともわかってるうえで、「俺の人生なんだからほっとけ」と言われたら、「ですよね〜(笑)」と言うよりほかないのです。(副流煙による他人への被害という問題はここでは置いておきます)。

こうした現場での医師・患者間の不協和音…多分これ、津川先生の記事への反応とも共通すると思うのですが、その根底にはEBM (Evidence based Medicine=根拠に基づいた医療)への誤解、があるような気がします。

EBMというと多くの方が「エビデンス(根拠=Evidence)」の話だと思われると思うのですが、本当のところは「エビデンスを元にした『医療』(=Medicine)」のことなんですよね。

つまり、医師として「タバコが健康に悪い」という根拠=Evidenceを知っておくことも大事、それを追求する技術も大事、またそれをしっかりと患者さんに伝えることも大事。患者さんもそれを知っておくことは大事。でも、それと同様に「その根拠をどうやって患者さんの現場に落とし込んでいくか」という「現場の医療=Medicine」の視点も負けず劣らず大事だと思うんです。

かつて在宅医療で、90代アル中の患者さんが朝から焼酎飲んでて…結果亡くなったことがありました。「胃ろう」を入れておけば栄養が入って長生きできるものを、「最期まで口から食べる!」と聞かずにそのままお亡くなりになった方もいました。もちろん、Evidence の話で言えば、「アルコールは肝臓に悪い」「胃ろう栄養は全身の栄養状態を改善させる」となるわけで、その文脈の中ではこれらの患者さんに対した僕が行った医療はデタラメです。

でも、その Evidence を患者さんの人生の中にどうやって落とし込んでいくか、という「医療=Medicine」の部分でいえば……もうなにが正解かわからないんですよね。特に高齢者医療・終末期医療の世界ではこの傾向が強くなりますが、若年層の医療だって根本は一緒です。

つまり、

「EBM EvidenceもいいけどMedicineもね。」


ということ。

もちろん津川先生の本にはそのあたりのことだって、きっちり・しっかり書いてあるのですが…でも本自体が基本的に「きちんとしたEvidenceを知ってもらいたい」というのが狙いの本ですし、特にネットの記事だけ読めば、「Evidenceなんて知るか、ほっとけ!」と誤解されるのは仕方ないのかもしれませんね。

ま、昔から言われる「病気を診ずして病人を診よ(高木兼寛)」と言うことなのかな。いや、病気を診るのも大事なんですけどね。両方大事ということ。

津川先生のネット記事へのコメントを見て僕はそんなことを考えました。

もっともっと本当のEBMが、医療業界にも、国民全体にも広まってくれるといいな〜、と心から願っています。

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夕張に育ててもらった医師・医療経済ジャーナリスト。元夕張市立診療所院長として財政破綻・病院閉鎖の前後の夕張を研究。医局所属経験無し。医療は貧富の差なく誰にでも公平に提供されるべき「社会的共通資本」である!が信念なので基本的に情報は無償提供します。(サポートは大歓迎!^^)