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においの不思議
においには閾値(いきち)というのがあります。
薄めても薄めてもにおいがなくならない、という指標です。
よく、ppm、pptとか聞きませんか?
ppm=(パーツ・パー・ミリオン)、頭文字をとってppm(ピーピーエム)、百万分の一という意味です。ppbのbはビリオン、10億分の一です。
薄めても薄めてもにおいのある物質が存在します。
におい物質がたくさんある=においが強い という公式が成り立ちません。
調香師が使う原料でも、1%に薄めて使うもの、0.1%、0,01%に薄めて使うものがあります。

たとえば、配合比で10%(1割分)使ってもそれほどにおいは強くならないもの。
たった、0.1%配合してもそのにおいがしっかり感じられるものなどあります。
料理にたとえるとひとつまみの塩、のような感じです。

香りを創るときには使いませんが、世の中には最強のにおい物質があります。
トリクロロアニソールという物質です。
これは、ワインの劣化臭、ブショネの原因物質でもあります。
これがあるとワインの品質が下がります。ワインのにおいが悪くなります。
この物質は、やっかいです。薄めても薄めても臭いがなくならない。
トリクロロアニソールという物質は、なんと閾値10ppt。
10ppt?わかりにくい!1兆分の10です。
たとえるとこんな感じです。
一兆分の10(25mプールの水500トンに0.005g溶かす)に薄めてもにおいを感じます。
カビっぽいにおい、自然界にあります。
仕事で電子天秤を使っていますが、液体をつまようじから垂らして1滴が約0.01gです。これが最小値です。
0.005gは、その半分、普通の電子天秤では量れません。精密天秤という高性能の天秤を使わないと量れない少なさです。
トリクロロアニソールは、粉末なので、耳かきした時のちょっととれた感じくらい。すごく微量です。においの強さは知っている中でも最強の部類です。

話はそれますが、これを薄めようとしたとき、瓶を開ける前から何となくにおいを感じます。瓶を開けた瞬間ににおいがわっと広がるくらい別の意味で危険な物質です。
完全防備で臨みます。ドラフトという強制排気をする設備を使わないと部屋の中がそのにおいで充満してしまいます。
とくに、手につくとにおいが取れません。細心の注意を払って量りとります。

においの物質は量ではなく、いろんな要素がからんで香りの強さとなります。

においの物質の量が多い=においが強い は成り立たない。

一般的には意外と知られていない事実です。
しかし、これを知っておくと便利な場面が多々あります。
少しずつ紹介したいなと思います。

調香師はこれらの特性を加味して香りを創ります。

#コラム #香り #におい #エッセイ #調香師  

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