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【密教】密教の観法対象

密教の観法はいずれも即身成仏を目的とし、修行者が本来有する仏性に目覚めるための方法と言われています。今回のテーマは、前回お話しした「身・口・意の三密の瑜伽行」のうち、「意(心)」による観法対象がメインになります。

胎蔵界法のもとになるインド中期密教経典「大日経」には代表的な観法として、五字厳身観(五輪成身観)が説かれています。大日如来を象徴するサンスクリット五文字{上から下に向かって、空(クワkha)︰青、風(ハha)︰黒、火(ラra)︰赤、水(ヴァva)︰白、地(アa)︰黄}を観想の中で、身体の五ヶ所に配置して、修行者の身体と仏の身体の入我我入(修行者と仏・菩薩などが一体になること)をはかります。

これら五文字が刻まれた「五輪塔」は大日如来の象徴です。この五文字は上から宝珠形(青)、半月形(黒)、三角形(赤)、円形(白)、四角形(黄)の塔婆にそれぞれ刻まれ、観法の中で修行者の身体における頭、顔、胸、腹、腰下(足)にあたるとされます。このようにして、我々の身体は仏身であることを直観します。

もう一方、金剛界法のもとになるインド中期密教経典「金剛頂経」の代表的な観法は五相成身観という五段階の観法です。修行者が自身の心が本来清浄であり、その身体が仏身と同一であることを、「月輪(月輪観)」「金剛杵」を観想するところからはじめて、覚っていく流れになります。

例えば、月輪観は結跏趺坐した修行者の前に満月の形をした月輪を掲げ、その月輪と一体化をはかるというものです。月輪は、本来清浄な心(仏性や阿頼耶の中心)の象徴です。

また、阿字観という観法もあります。阿字観はこの月輪の中に「阿(ア)」のサンスクリット文字を置き、それとの一体化を目指します。この「阿(ア)」字は無始無終であることを示すサンスクリット語のアヌトパーダの頭文字であり、大日如来の象徴です。

このように、密教の観法は多種多様ですが、共通点はかなり具体的な形を持つ仏像・曼荼羅・法具などを観想し、それらが有する象徴性を介して、修行者が仏身と一体化するような流れで構成されている点と言えます。それだけに儀礼として複雑化しているようであり、いずれも修行は師匠(アーチャーリヤ︰阿闍梨耶)の指導のもと、進められていかければならないことになります。

密教の観法の対象は「種子、三昧耶形、尊形」の三種類に分類されます。種子は「阿(ア)」字のように阿字観に使われるサンスクリット文字のことであり、三昧耶形は月輪の掛軸や金剛杵といった法具を指し、尊形は如来・菩薩・明王・諸天などの本尊像や曼荼羅が該当します。