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抗がん剤の副作用はどうしてでるの?  その5

抗がん剤治療による副作用には個人差が大きいので、実際にはやってみるまでどうなるかわからない状況なのではありますが、そうはいっても、以下のような人は副作用が出やすい、ということがわかっております。
それは、
①高齢(70歳以下に比べて、70歳以上)
②全身状態(パフォーマンスステータス:PS)が悪い人
③栄養状態が悪い人

でしたね。
①-②に関しては、既にお話ししましたので、今回は③からお話ししていきます。
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▼体重について
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ある統計によると、がんと診断された時点で、約半数が既に体重が減少してしまっていると言われています。
がんが進行すればするほど、体重減少を起こす割合が高くなります。
また肺がんや乳がんでは少なく、胃がんや膵臓がんでは割合が高くなることが知られています。私が担当している腫瘍内科には、ステージ4と診断され、抗がん剤治療目的に受診される方が大半ですので、ほとんどの方が多かれ少なかれ体重減少を伴っています。
「身体は食べたもので作られる」という言葉は有名です。
逆に、食べなければ身体は作られないわけではありません。身体の細胞は古くなると破棄され、新しい細胞に置き換わって行きます。栄養が入ってこなくなれば、これまで蓄えていた脂肪や筋肉からエネルギーを取り出し、新しい細胞を作ります。つまり自分の一部を食べて自分を作っているということにあるのでしょうか?
脂肪や筋肉が減った分、体重が減っていってしまうことになります。

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▼体重が減ってはいけないの?①免疫力低下
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体重が減ってしまうと、様々な弊害が起こってきます。
除脂肪体重が10%減少すると、免疫力が低下し感染症にかかりやすくなるとされています。
20%減少してしまうと、治療が順調に進まなくなったり、衰弱や感染のリスクがさらに高まります。
30%も減ってしまうと、多くの方が寝たきり(動くことができなくなる)になり、床ずれができてしまったり、肺炎を起こしてしまったりします。
40%減ると、主に感染症のため(治らず)死亡してしまうとされています。
抗がん剤治療を考えた時、20%減でギリギリ。30%まで減ってしまうと実施不能となるかと思います(前回のパフォーマンスステータス:PSを参照)。
体脂肪率は、中等度肥満の方で25%くらいです。
体重が75kgある男性としますと、除脂肪体重が56.3kgになります。
除脂肪体重が30%減少ということは、56.3kg→39.4kg
このくらい減ってしまえば、体脂肪率は10%くらいになっているでしょうから、そこから除脂肪ではない普通の体重を計算してみると、約45kgとなります。
もともと75kgあった方が、45kgまで減ってしまうと、抗がん剤治療を継続することは難しくなるという計算になります。
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▼体重が減ってはいけないの?②QoL低下
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がん患者さんの生活の質(QoL)を調査したところ、QoLを低下させる要因として最大のものが「体重減少」と「がんの部位」で、それぞれ30%ずつであったそうです(Ravasco P, et al. Support Care Cancer (2004))。
ちなみに同調査では、がんの進行度は1%しか関与せず、手術が6%、抗がん剤治療が10%という結果でした。
つまり、「体重減少」は「抗がん剤治療」よりも3倍も生活の質(QoL)を低下させてしまうわけです。
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▼体重が減ってはいけないの?③抗がん剤治療への影響
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体重減少による抗がん剤治療への影響を調べた研究がいくつかありますのでご紹介いたします。
ステージ2もしくは3で手術を受けた胃がんの患者さんは、再発予防として、(当時)ティーエスワンという内服抗がん剤を1年間服用するのが一般的でした。
手術後1ヶ月の時点で、手術前と比較して、体重が15%以上減少してしまった人とそうでなかった人を比較したところ、体重減少のない方は6ヶ月の時点で72%、ティーエスワンを継続できていましたが、減少してしまった方は40%しか継続できていなかったとのことです(Aoyama T, et al. Ann Surg Oncol. 2013)。
別の調査ですが、進行した胃がんもしくは大腸がんで抗がん剤治療を受けた方を対象に、治療開始時点で体重減少あるなしでその後の経過をみたところ、体重減少がない人に比べてある人の予後は短かくなってしまっていたとのことです(Andreyev HJN, et al. Eur J Cancer 1998.)。
どちらの結果からも、体重減少がある方の方が、抗がん剤治療の副作用が比較的強く出てしまいがちで、その結果治療の継続自体が難しなってしまうのだろうことが推察されます。
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▼まとめ
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栄養の話しではなく、体重の話しになってしまいました。
とはいえ、栄養と体重は密接につながっているので、結果オーライということでご勘弁ください。
次回は、なぜがんになると体重が減ってしまうのか?をもう少し詳しくお話しできればと思っています。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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