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抗がん剤の副作用はどうして生じるのか? その9

前回は「がん悪液質」についてお話させていただきました。特に「不応性悪液質」に進展してしまうと、後戻りがきかなくなってしまうため、そうなる前に手を打ちましょうという内容まででした。
今回は、では具体的にどのような対応をすれば良いのかについてお話ししていきたいと思います。
最後までお読みいただけたら嬉しいです。

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▼復習:悪液質の診断基準
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がん悪液質の診断基準は・・・

①過去6ヶ月間の体重減少が5%以上
②BMIが20未満の人は、体重減少2%以上
③体重減少が2%以上かつサルコペニア(筋肉量の減少)

上記の①から③のいずれかに当てはまる場合でしたね。

この診断基準からすれば、-5%の体重減少だけで「悪液質」と診断ができてしまいます。
特に40歳代以上の医療者には、「悪液質」=「がん末期」というイメージが根強く残っており、「悪液質」となれば一大事!もう手遅れといった印象を持ってしまいがちです。
そのため、「悪液質を診断するのに体重減少だけで良いのか?」という質問が出たり、「手術や副作用でもそのくらいの体重減少はすぐに起こる。その全部が悪液質なの?」という質問につながったりします。そういった昔のイメージの悪液質は、「不応性悪液質」に相当します。そして、その「不応性悪液質」になってしまう前に、がんによって「異常な体重減少」が起こってきているのだということを把握し、対処可能とするため、「悪液質」や「前悪液質」という状態を定義し、「早期発見早期治療しましょう」ということだと私は理解しておりますので、診断は単純明快で結構だと考えています。

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▼悪液質になりやすいがん、なりにくいがん
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悪液質のなりやすさは、がんの種類によって異なるようです。
もちろんがんが進行すればするほど起こりやすくなるのは、前回お話ししたとおりですが、同じステージⅣ(進行がん)でも、「肺がん」や「消化器がん」で起こりやすいとされ、これらの癌種では、進行がんと診断された時点で約半数の方が「悪液質」を認めるとされています。「消化器がん」の中では、「膵臓がん」や「胃がん」「食道がん」で多いとされています。一方、「乳がん」や「血液がん」では、最終末期まで悪液質を認めない方も多いです。

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▼早期発見、早期治療
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「不応性悪液質」になってしまってからでは、どんなことをしても回復は望めません。ですので、遅くとも「悪液質」、できれば「前悪液質」の状態で介入することが望ましいです。とはいえ、「前悪液質」を正確に診断することはできません。では、どうしたら良いのでしょうか? 私はこう考えています。「体重が減る理由は何であれ、そもそも『体重が減らないようにする』。」
これまで何度もお話ししてきたように、がん患者さんの体重が減る理由はたくさんあります。
手術の影響かもしれないし、副作用かもしれないし、がん自体で腸が狭くなってしまっていることが原因かもしれません。副作用が原因で体重が減ってしまっているから「悪液質」ではないといっても、そもそも「体重減少」自体が抗がん剤治療の成功率を低下させますから、何とかしなければいけないことですし、副作用が原因かと思っていたらやっぱり「悪液質」であったという場合も、やることは同じです。
結局のところ、「体重減少を阻止する」こと、それに尽きます。
5%以上とか、そういう数値も無視して、少しも減らないようにする。あわよくば、少し増えるくらいでいい。もし減ってしまったら、元に戻すように努力する。
治療期間を通じて、これで良いのかなと考えています。

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▼悪液質の診断は無意味?
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とはいえ、「悪液質」を診断することにはきちんとした意味があります。「悪液質」は栄養が不足しているのではなく、栄養が足りていても「痩せる」状況です。
つまり、「栄養(食事)」だけでは「悪液質」に太刀打ちできないということです。もちろん栄養も大切ですが、それ以外に「運動療法」と「薬物療法」を組み合わせた総合的治療が「悪液質」には必要となります。
「がんなのだから、なるべく動かず、安静に…」と考えてしまう人が少なからずいますが、「悪液質」となれば全くの逆効果。
治療として、運動(有酸素運動と筋トレ)が重要になってきますので、「是非やりましょう!」と自信を持ってお勧めすることができます。

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▼悪液質の薬物療法とは?
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「悪液質」は、がんが放出するサイトカインなどが原因で起こります。がんが大きくなればなるほど、活動性が高いほど、サイトカインもたくさんでて「悪液質」になりやすくなります。
ですので、一番重要な薬物治療は「抗がん剤」ということになると思います(あまり教科書には書いてありませんが、腫瘍内科医はだれもが期待していると思います)。
抗がん剤が奏効して、がんが小さくなれば「悪液質」も改善することが期待できるという寸法です。
抗がん剤以外の薬剤としては、ステロイドやプロゲステロン製剤、エイコサペンタエン酸などが使用されていましたが、効果や副作用の面で不満足な点もあり、現在はがん悪液質を適応とした初の薬剤である「アナモレリン」を使用することが一般的です。
とはいえ、アナモレリンは、4つの癌種(肺、胃、膵、大腸)にしか使用できないため、それ以外のがんによる「悪液質」には、上記薬剤が使用されます。

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▼まとめ
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今回は「がん悪液質」の治療についてお話させていただきました。
「悪液質」の治療の基本は、早期発見、早期治療です。
また、栄養だけでは不十分で、運動療法、薬物療法、時にカウンセリングなどを組み合わせた総合的治療が重要とされています。
「悪液質」に限らず、がん治療においてこれらの治療は重要と考えますので、悪液質の診断にこだわらず、がん治療とともにやっていけるといいのだと思います。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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