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凪いだ海は怖い

 友人と、岡山に旅行に行った時の事を思い出す。  なんてことはない、ただ造船所の見学ができるホテルに行きたかっただけなのだけれども、友人は快諾してくれた。働いている人の空間を休暇を使って見に行くという奇特な行為に付き合ってくれた友人には感謝するしかない。  ジーンズの色々をヨコメで見て、ホテルへと向かう。  ついでにアフタヌーンティーも体験する事にしていた。岡山は美味しい事に注力していた。後日、マスキングテープも当選したのは良い思い出だった。使う前に無くしたけれど。  シー

    • 赫く熟れた罪

      赫く熟れた罪       二日ほど前、東京都内某ビル敷地内にて男性の腐乱死体が発見された。 身元は未だ不明。 自殺・他殺両方面から調べているとの事。 そして……。           目が、さめた。 私は夢を見てゐた、酷く哀しゐ夢だつたと思ふ。 だが、その内容は曖昧として形を成してゐなゐ。 もやもやとした霧のやふなつかみ所のなゐ悲壮感。 仕方がなゐから、私はまた眠る事にした。 布団にもぐりこみ、惰眠をむさぼる。 そうしてゐるうちに、私はまた夢の中へ引きずり込まれてゐつた。 夢

      • 落書き

         進んだ技術とそれに伴って廃れた技術は一体どちらの方が多いのだろうか。  技術は複雑化しつつ多機能化していく一方で、全てが集約されていっているように思える。古典技術として生き残るものもあれば、本の中でしか語られなくなった技術もある。もし、歴史を変える事が出来たとしたら、技術そのものも変わってしまうのだろうか。  池井御堂は今年の夏で三十歳になる予定だ。就職もせずに学生の時から住んでいるマンションにずっと住んでいる。二年前に両親に咎められて以来、喧嘩別れのように実家に帰る事も

        • swan song2

           木造の建物は西日の光を窓に受け、柔らかい色合いに包まれていた。  人通りはなく、粛粛とした静寂に満ちていた。―――と、それを引き裂くように、慌ただしい靴音が響く。  紺色の軍服に身を包み、常に目深に被った軍帽が特徴の金剛型巡洋戦艦一番艦の金剛だった。彼は、英国発注としては最後の艦艇であり、容姿も金髪に蒼眼と異国であった。しかし、それらに不満を抱いている彼は、自らの髪を黒色に染め、帽子を目深に被る事で目の色を目立たないようにしている。  そんな彼が急ぎ足で廊下を歩く為に、髪を

        凪いだ海は怖い

          swan song1

          ☆  日本初の近代戦艦として戦艦富士が就役したのは、明治三十年であった。  其処から、日清・日露戦争を経て日本は海軍力を徐々に増強していき、世界に頭角を現しつつあった。  しかし、日露戦争で勝利した日本の影には、常に英国が付き添っていた。英国は、ただ日英同盟を組んでいたから手助けをしたわけはない。大国は大国故にしたたかであった。日露戦争の黄海海戦に於いて、ロシア戦艦ツェザレヴィッチが三笠の砲撃の損傷の後にドイツに抑留された時、英国はその損害を調べていた。そこで分かった事実は、

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          夏の下り坂

           夏特有の青々とした空が広がる中、横須賀総監部はヴェルニー公園を歩いていた。見渡す端には、自衛隊の横須賀基地と米軍の横須賀基地が見て取れる。  あの日とは程遠い光景ではあったが、あの日のように暑い日だ。  こんな日には、陽炎のような熱の揺らめきの合間に横須賀総監部は彼の姿をよく見る。茫然と立ち尽くすような、悲しみに明け暮れるような、何をするでもなく揺らぎの中に浮かぶ淡い影。  【それ】は、横須賀総監部の中に残る鎮守府としての記憶なのか、それが海軍省である事を横須賀総監部は知っ

          夏の下り坂

          心臓の標本

            蠢く意識、囀る軀、触れる会話、凪がれた視線。   僕は僕たらしめるこの船に於いて、間違いなく生きてきた証だ。   世界は驚くほどに広いが、此処はこんなにも狭い。   狭い故の看視される環境が、存外に心地よかったりしている。   さぁ、此処が僕の心臓の標本。   須らく見よ、始まりの世界を。

          心臓の標本

          崇拝にも似て

          「あの人は沈まないもの」 こんごうが言った言葉が、きりしまの中に深い澱を残していた。不沈艦なんて夢物語じゃないか、乾いた唇できりしまはこんごうへ言う。 「私たちが居なくなっても、きっと此処にいるわ」 不機嫌そうな声色で、彼女が続ける。何かあったのだろうか、きりしまは分からなかった。 「ずっと変わらずに、来ないひとを待ち続けるに決まってるじゃない」 そこまで聞いて、きりしまは漸くこんごうの不機嫌な理由が何となく分かった。心配しているのだろう。記念艦に肩入れしている自分の事を。

          崇拝にも似て

          お客様は人間です

           平日はなかなか来られないのですが、私が働いているお店には、色々な人が来ます。  大人しい人、威張っている人、泣きそうな人、嬉しそうな人。  でも、時折人ではない人が来ます。  真っ黒のカオナシみたいな人の形をした何か。  ずるりとお店の中に入ってきて、必要な物を買われていきます。  お会計が終わる時、私は魔法の呪文を唱えます。 「ありがとうございました」  そういうと、何かも「どうも」と返してくれます。  その瞬間、何かは人間の姿になります。そうして、真っ黒かった何か

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          テラリウムの子供たち

           遥か遠い世界に、石で出来た生物が地球を統治していた。  石で出来た彼らは、暗い色の固い物質で覆われていた。  体を叩いて出る音でのみコミュニケーションを取る、不思議な生物だった。  そんな彼らの楽しみは、テラリウムの子供たちの観賞だった。  テラリウムの子供たちは、石の彼らとは全く違う見た目をしていた。  透き通る白色や、吸い込まれる黒色の柔らかい肌を持ち、真っ青な空色の瞳や光の加減で金色に見える薄茶色の瞳。にこりと良く動く顔の表情。  愛玩用としてはこの上ない至上なモ

          テラリウムの子供たち

          新しい生活

           読むという事は、自身の中で情報を再構築するという行為であり、それらの情報を目で読み取るか耳で聞き入れるか果ては別の行動で摂取するかのどれかである。だからこそ、僕は読む本ではなく、飲む本を描く事が出来た。  情報さえ入手できれば、その方法はなんだっていいのだから。    君は僕を読み、僕を書き、僕を知り、僕を語る。    君は僕を読む。  僕の作品を読み、理解しようとする。僕を担う僕の思考の全てをその内部に取り入れ、分解し、君の自論を持って僕を再構築する。まさに、食物

          新しい生活

          創作

          「どうして頭が二つあって混乱しないの?」 「貴方だって、手がふたつあってバラバラに動くじゃない」 「そういう事なの?」 「そういう事よ」

          消費される名前

           スマホのゲームをよくやります。  色々な名前のキャラクタが沢山出てきます。  最近だと昔の偉人とか伝説の人とかそういう実在の人物が寓話的な感じで出てきます。幕末ぐらいの名前も出てくるので、今世間をにぎわせている方々も、あと百年ぐらいで娯楽の消費対象になっていくのでしょうか。  (鬼子とか思うと、既に消費対象な気もしますが)  艦これとかそういうのも出てきているので、まぁ、そうなんだろうなと。忠臣蔵とかが舞台化しているのも似た世界の繰り返しなんだろう。結局の所の根本は変わらな

          消費される名前

          NCISのある話

           アメリカのドラマで、「NCIS ネイビー犯罪捜査班」というのがある。CSIの海軍に特化している版というのか。海軍がらみの事件を捜査するドラマです。これがまぁ、結構好きでして、DVDを買ったりしています。  (配給元が変わったりで声優とか変わっているのであまり2以降は見て居ないんですが)  シリーズ2のDISC2に入っている「硫黄島の記憶」というお話が個人的に気に行っています。  第二次世界大戦の硫黄島での戦いに於いて、名誉勲章をもらった男性が其の時人を殺したとある日告げて

          NCISのある話

          双子の肩

          さゆらとそよごは双子。  姿形も似ていて、性格は異なる双子。  街を歩けば皆が二人を見下ろして、笑っていた。  成長の遅い二人は、本当は今年の秋でもう十六歳なのに、見た目は小さな小さな十歳。  秋はまだ遠い。    さゆらはそんな笑う人人に怒りをぶつけ、そよごは笑われる自分達を悲しんだ。  双子は、そんな双子だった。  二人が生まれる年まで、この街は戦争で汚れていた。人人は大量に死に、街の塵捨て場や裏路地や大広場にたくさんの死体が溢れた。街で有名だ

          双子の肩

          敷島

           三笠が突然爆発して沈没した―――。その連絡を聞いた時、真っ先に顔色を変えたのは敷島であった。勿論、彼の脳裏には初瀬の事が浮かんでは消えた。日露戦争も終結し、やっと落ち着いた日々を送れると思った矢先の出来事だった。  敷島は、朝日と巡洋艦の日進をつれて佐世保へと向かった。向かう間の息苦しいまでの重い空気に、日進は何度も泣きそうになったと言う。日進が縋る思いで横を見ると、朝日は何時もと変わらない様子だった。  三笠が居る部屋の前で、敷島は足を止める。暫しの沈黙が続き敷島は落ち着