自分も相手も楽な介護ができた日

最近嬉しかったこと。それは訪問介護でのこと。重度の障害を持つご利用者さんを一人担当しているのだけど、最初は苦労していたその介助が、だんだん上手にできるようになってきたのだ。

その方には、朝デイサービスに出かける際の準備をお手伝いしている。排泄ケアをして、着替えて、歯磨きをして、髪を整える。それから車いすに乗せて、玄関先まで移動する。それをデイサービスの送迎時刻に間に合うよう、約30分で済ませないといけない。最初は焦ってしまって失敗ばかりだった。

この間など、肌着のシャツを後ろ前に着せてしまって、「あらら、すみません!」と言ってやり直し、その上に着るプルオーバーは注意して着せたつもりなのに、何とふたたび後ろ前…。落ち着いてやればできることが、焦るとできなくなるのだった。

一番の難所が、ズボンをはかせること。ご利用者さんがポータブルトイレに座っているところを、私が抱えて立ち上がらせる。立位をキープしている間に、ご家族がズボンを腰までたくし上げ、それからポータブルトイレを片付けて、車椅子を持ってきて座らせる。

その間、1分くらいだろうか。自力で立てないご利用者さんの立位を、私がキープしている時間は。その人は小柄な方だけれど、自分で力を入れられないので、私としては重く感じる。そして抱えているうちにズルズルと下に落ちて行ってしまうので、ついつい抱える腕に力が入ってしまう。でも、そういう抱え方では相手も身体を圧迫されて痛いし、自分も疲れてしまう。

こういうときこそ、長年やってきたアレクサンダーテクニークが役に立つ。そう思って、そこへ行くたびに自分の身体の使い方に工夫をしてきた。また、ずっと通い続けている石井ゆりこさんの個人レッスンでも、相手を抱えて立ち上がらせる際の無理のない身体の使い方を、何回も練習をしてきた。でも、何となく上手くいかないことが続いていた。

そこで先日、アレクサンダーテクニークの教師仲間を誘って、ゆりこさんのペアレッスンを受けた。練習相手がいて良かったのは、「このように動かされると、された方はこう感じる」ということを、とても繊細な身体感覚をもって言語化してくれたことだった。

立ち上がる際に、相手を力づくで〈上に〉持ち上げようとすると、本人としては地面に足がきちんとついていないような感じがするので、怖くて緊張してしまう。だから介助者は相手を〈真っすぐ持ち上げる〉のではなく、かかんだ姿勢のままでいいから、まず相手の身体を〈前方に〉重心移動させる。そして本人の足の上に胴体がしっかり乗ったところで、そのバランスを保つように支えてみた。イメージとしては、トランプを組んでピラミッドを作るみたいに、互いにもたれ合う形だ。すると、される側はずっと立っていても「寄りかかっているだけでいいんだな」と思えて安心感があったとのこと。私もほとんど力がいらなくて、楽でいられた。

介護って力仕事のイメージがあるけど、身体の使い方を工夫することで、そんなに力を使わなくても済む。そして介護する人が楽に動けると、介護される人にとっても楽になる。知識として理解していたそのことが、身体でもようやく体験として理解できたのだった。

それから数日後、実際の現場で試してみたら、今までで一番上手くできた。二人の重心がバランスする場所は、頭で考えるよりも身体が知っていた。しっかりしているけれど、それは筋肉に力を入れているのではなく、地球の重力をうまく利用して身体を支えているような感覚だ。今までがんばって抱えていてもズルズルと落ちて行ってしまったのは、バランスがはずれたところで立たせようとしていたからだろう。

ひとつ上手くできると自信がつくもので、その次の訪問のときは着替えも落ち着いてできた。車椅子で玄関の段差を降りる操作も苦手だったけど、その日はわれながら上手くできて、思わず「おっ、上手い!」と声が出て、心の中でガッツポーズ。それを見守っていたご家族が、しみじみとした口調で「慣れましたね」と言った。「はい、最初は危なっかしかったですからね…」。そう言いながら、照れ笑いをした朝だった。





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