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映画『Barbie』を観てきた その3 長いよ!

ケンがやばいよ

前回に引き続き、この作品に出てくるケンの話がメインになってしまうんですが…。
いや、だってさ。ケン面白すぎるよ。
ところでこの話エヴァじゃない?
マッドマックス 怒りのデスロード感もある。
ミッドサマー感もありましたね。
まあその話は後にしよう。

まず冒頭の超有名な映画のパロディでそれまでの「おままごと用の赤ちゃん人形」がバービー人形の登場によって「なりたい自分のごっこ遊び人形」に市場がシフトしたという説明から、急にめちゃくちゃ極彩色のピンク色の世界に移行して、バービーランドの説明シーンになるのですが。
ライアン・ゴズリング演じるケンのツルツルっぷりがヤバい。
マテル社のケンの写真を見たり、玩具売り場でケンを見た事があるならわかると思う。

こんな男居るか?

ってくらいツルツルスベスベお肌なんです。
それを、生身の人間が表現してるんですよ。
ヤバすぎるでしょ。
ボディビル大会でもこんな絶妙なツルツル感の男居ないよ。
あれは筋肉を美しく見せるためのツルツルというかテカテカだもんな。
役者ってすごいな…。
身体を絞りすぎると筋肉が出来上がるかわりに特に顔がシワッとするんだけどそんな事もなく。
すげえ!ケンじゃん!!という素直な驚き。

このツルツル(色んな意味でツルツル)なケン達が男らしさを求めて大暴走するところにこの作品の面白さがある。
今でこそ美肌に気を使い、エステに行き、脱毛したりメイクしたりする男性も居るけれども。
可愛い物が好きな男性は存在するし、可愛い格好をしている男性も存在するけど、ケンってなんていうか…違うんだよなあ。
それが世の女児たちからの不人気に繋がっている気がしなくもないし、そのお呼びでない感がバービーランドでのケンが感じる疎外感なのかも。

気付きを得たケン

ケンは、バービーにくっついて人間界に来てしまった事で、今までの自分はバービーに馴染むように服もお肌も”そうさせられていた”事に気付いてしまう。
これ映画の冒頭の、世の女児達がバービーを与えられた覚醒シーンの焼き直しだよね。

ところでケンは、多分バービーより先に…おそらくこの物語が始まる前から、バービーランドに疑問を持っていましたよね。
でも、ボーイフレンドという役柄しか与えられていなかったので、自分の力では変えられないと思っていた。
自分が”そうである”と思い込んでしまう環境にあると、何かしてみたくても何のサポートも無かったりして足掛かりすらないですよね。
自立させると面倒だからハシゴ外されてるパターンもあるし。

男あるある

ここからがケンの可笑しくも悲しみに溢れたシーンなんだけど…。
男として頑張ってみようとするものの、何も無いただのケンは、人間界で見てきた有害かつ滑稽な男らしさを演じる事しか出来ないのです。

バービーの運転するピンク色のコルベットのオープンカーに乗せてもらっていたんだけど、目覚めた後は黒いハマーとかの四角くてデカい、車高も高い車に乗り始めました。
なんか…へへ…思い出しちゃった。
デカい車ってカッコいいけど、どこに行くにも予告無しであれで来られると困っちゃうよね…。

気付いた後のケンの行動は、こういう感じの「男あるある」パートが続くので、ここで居心地が悪くなって不機嫌になる男性も居るのかもしれないですね。
ここまで露骨だと、逆に楽しくなっちゃう気がするけど。
字幕版を観に行った時は結構席が埋まっていて、カップルや男性一人のお客さんもいたけど、みんな笑ってましたよ。

ケンはイカつい格好をしてみたり、ビーチで筋肉を誇示したり…。
筋肉の誇示…ふふ…また思い出しちゃった。
いや、筋肉は悪くない。
悪くないけど、別に頼んでもないのに見せてこなくて良いからね。

さらにギターで弾き語りを始め、バービーに聴かせるケン。
しかも4時間。
歌を聴かせられる、好きなラブソングの歌詞を引用される、延々ギターを聴かされる。
全部やられた事あるぜ。
しかも歌を聴かせてきたのとギター(弾き語り含む)聴かせてきたの、別の奴。
なんか頭痛くなってきた…大事をとって寝ても良いですか。

メガネをかけているバービーのメガネを外し、
「かけていない方が綺麗だよ」
というケン…。
これ、フィクションだと思っていたんだけど面と向かって言われた事ある。
私はメガネかけてる時の自分の顔が好きなんだよ。

ダメだ!これ以上あげると脳に負担がかかって死ぬ!

笑えば良いと思うよ

この4つが特に印象的だったけど、世界的にあるあるなんだろうか。
あるあるだからこのシーンが生まれたんだよね?
なんかそういう、男のための教科書でもあるの?
他にも色々…本当に色々あって本当に笑えるのでお友達と一緒に観に行ってゲラゲラ笑ったら良いと思う!
女性は「うわこれやられたことあるわ!」
男性は「これやってたわ!」「さすがにねーよ!」
ってみんなで恥ずかしくなってみよう。

ケンの話ばかりになってしまったけど、人間界の男性でもあるあるはしっかり描かれていて、
サラッと紹介すると

  • 体の線が出るレオタードのバービーの胸や尻を褒めつつ揶揄う

  • ちゃんとした服を着たら着たで「服を着ててもそれはそれでそそられる」的発言

  • 自分は女性の社会進出に賛成!どんどん活躍してほしい、だから女性に理解がある。と言いつつ、会議に参加できる立場に女性が居ない。

こんな感じです。
社会的には、今そういう感じなんでしょ?と、やってる感を出しておいて、個人になると女めんどくせーって、黙ってろよって人居るよね。
「これセクハラかな?」
って予防線はってからセクハラする奴とかも!

バービーが元々人形であるという事を強調するシーンの1つで、マテル社の会議室で飲み物を勧められて盛大にこぼしてしまうのですが、そこで男性達は一斉にバービーを笑うのです。
これ、何か目標があって社会に出てきた女性の失敗を、それみたことかと大勢で笑うやつですよね。
しかもこの後、特にフォローも無く
「箱(バービーが店頭に並ぶ時の化粧箱)に早く入れクソアマ」
って言いますからね。
バービーはその後、また別な人に飲み物を勧められるんですが、失敗を恐れて中々口をつけられない上に音を立てて飲んでしまい、
「慣れてなくて」
というような事を言います。
この時の相手は笑うわけでもなく、特に何か大袈裟に励ましたりもせず見守り、逃げ道を教えます。男社会からの脱却です。

ミュージカル的な演出

バービーに合わせてピンクやサックス、白、時にものすごい配色のスポーツウェアを着ていたケンが、人間界に来て、色々吸収するにつれて黒の配分が多くなってくる所も上手い。

人間界はあんなにキラキラしていません。
そして、偽物の海、プール、壁が無い家などでバービーランドを表現していますが、これはミュージカルでも度々登場する手法。
色の変化と舞台装置で、バービーランドが虚構の世界、空想であるという事が強調されています。
虚構だからバービーは何でもできる女性で完璧だったのです。
人間界から帰ったケンと、同じくブラックスーツと黒のローラーブレードで追ってきたマテル社の男達は、現実の象徴です。

主役に特化したバービーランド

数多く存在するケンの他に、アランという唯一違う名前を持つ男性の人形が出てきます。
ちらっと調べただけなので間違っていたら申し訳ないのだけど、ケンのお友達として作られたお人形らしい。
アランはケンの輪には入れず、かといってバービー側かというと、反乱軍の時もピンクを着て溶け込もうとしたりはしているんだけど…。
よく見ると、どちらからも常に浮いているので注目してみて下さい!

アランはケンダム(KENDOM、キングダムとケンを合わせた造語、ケン王国)に居るくらいなら!と、人間界へ行こうと人間の親子にくっついていきます。でも、自分一人では行けないので結局戻ってきてしまう。
なんだかんだでアランもバービーランドの男性なので、なかなか単独行動は難しいんでしょうね。
頼りなさそうなアランだけど、腕っ節が強いのが面白かった。ほぼ無双です。バービーシリーズに詳しくないけど何かそういうネタがあるんでしょうか。

透明化される人達

さらにバービーランドには妊婦を模した廃盤人形のミッジが。
画面にミッジが映るとカメラが避けるという、存在している事をあまり語りたくないような扱いを受けるミッジ。
ミッジはバービーのお友達として発売されましたが、後に廃盤、さらに後からアランとの子供ができたという設定で大きなお腹と赤ちゃん(取り外し可!)とのセット販売で復活、物議を醸し、また廃盤という経緯があるみたい。

ミッジの隣にもう一人女の子が居たけど、さらに説明不足なのでキャスト一覧やエンドロールの情報を目を皿のようにして見たところ、スキッパーという、バービー達より歳下の人形が居て、ベビーシッター体験用のキットが発売されたらしい。

ミッジとスキッパーだけ紫色の、中の見えない小さなツリーハウスに住んでるんですよ…。
後半で、人間のお母さんグロリアが
「昔お小遣いで買った!」
とか言っていたので、気になって少し調べたら、正規価格なのかはわからないけれど、バービーが住んでいるプール付きのドリームハウスのほうが10倍くらいしますね…。
ツリーハウスは目についた物で大体4,000円以内。
ふーん、なるほどね…。
……ふーん……。

こういう、あえて説明不足にして、気になる人だけ気になってしまう、良い意味での意地悪な仕掛けが沢山ありそうですねこの作品。

他にもマテル社がおそらくあまり触れたくない廃盤バービーと、人間界で乱暴な遊び方をされてカビ臭くなったり髪の毛がザクザクになったりといった、扱いに困るヘンテコバービーは、バービーランドの端っこの方でひっそり暮らしていたり。

ちなみに、シュガーダディ・ケンとイヤリングマジック・ケンもヘンテコバービー達と一緒に暮らしていて、
あ、そうなんだ…ふーん…ってなる。

マテル社は否定しているというか説明しているけど、シュガーダディはシュガーという名前の犬を飼っている、ダディのケンだからシュガーダディだそうですが、一般的にパトロンをするような社会的地位のある男性を、シュガーダディと言います。
ピンとこない人は、ダディの別の言い方とパトロンの頭文字で察してね。

シュガーダディ・ケンの事は何かで見たのか知っていたけど、イヤリングマジック・ケンは知らなかったので調べました。
なんか含みを持った言い方をしていたのでね。
要するに偏見に満ちたゲイっぽさ(多分実際のゲイのトレンドとはかけ離れてる)を詰め込んだ容姿と批判されて、廃盤に追い込まれたケンのようですね。
紫色の服も綺麗だし、ピアスつけてて可愛いし私は好きだけど、批判があって廃盤になったという経緯がある以上、うかつに話題にできない感じが、あそこに追いやられている理由なんでしょう。

フェミ映画と称されている事が多い今作ですが、さまざまな社会問題の風刺が詰め込まれています。

バービー自身が
「イケてる私最高!」
って所から文字通り突き落とされて、可能性の一つとして色んなものを見て、それでも人間になるか?と問いかけられるお話なんじゃないかな。

次回で最後です。

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