マガジンのカバー画像

おすすめ映画のご紹介です

146
印象に残る映画には印象に残る音楽があります。 思い出の名場面に流れていた音楽、言葉を映画と共にご紹介していきます。
運営しているクリエイター

記事一覧

ラストの笠智衆の演技にもらい泣きする ~「秋刀魚の味」(小津安二郎)

小津安二郎監督の最後の作品。 おなじみの笠智衆に、岩下志麻(かわいい!)、そして佐田啓二が出演。 結婚適齢期を迎える娘の、結婚までの顛末をユーモアたっぷりに描いている。佐田啓二の兄貴っぷりもいいし、岩下志麻のはつらつとした演技もいい。 でも、一番胸を打つのは、父親役の笠智衆の演技。 娘をもった父親にはいずれ訪れるであろう宿命的な娘との別れ。そんな状況に遭遇する父親像を巧みに演じている。 この映画にもいいシーンがたくさんあって、加東大介や岸田今日子とともに、笠智衆が軍

チャップリンが全世界に向けてはなった問いかけ ~ 「チャップリンの独裁者」 (チャーリー・チャップリン)

第二次世界大戦は、全世界的に大きな被害をもたらした戦争でした。 原子爆弾、ファシスト、ナチズム・・・ 今となってはこんなことが本当にあったのか目を疑いたくなるようなことばかり。でも実際にあったこと。 でも一番怖いなあと思うのは、もしかするとこの時期は、人の尊厳というものがとてつもなく希薄だったのでは?と感じられること。 ユダヤ人の迫害や、原子爆弾の投下など通常の意識だったらできないようなこと、やらないようなことが当たり前の日常になっていたんですよね。 これが戦争の本

わすれていた笑顔を思い出すことができる作品 ~「彼岸花」(小津安二郎)🇯🇵

小津監督の映画は、その後、日本がどんなふうになっていくのかを提示してくれるかのようです。 古き良き昭和の崩壊。 かといって、それを悲劇的に描くのではなく、のんびりとした風景の中に、ユーモアたっぷりに描かれているから見ていて楽しむことができます。 この『彼岸花』という映画は、家長としての父親の威厳が、明治、大正、昭和初期と比較して弱くなりつつあるさま、父権の損失が描かれている。 娘の結婚に反対する父、その父をおもしろおかしく説得する友人・・・ この時代、都会でも、人の

いつの時代も根本的な人の心は変わらない 〜 「戸田家の姉妹」(小津安二郎)🇯🇵

この時代 太平洋戦争に突入する前なのですが・・・ こんな時代にも、こんな家族ドラマがあったんだなあと感慨深くなりました。 それは、都市部に住む子供たちをたずねて母親と末の娘がやってくるところから始まります。 この母親と娘を兄弟たちが露骨に嫌うんですね。 自分の生活に踏み入ってくるなと。 自分の生活を邪魔するなと。 肩身を狭くして居候していた母親と娘のところにやってくるのが、親思いの息子。 彼は満州かどこかから、戻ってくるんですね。 そして母親と末の娘の境遇を見て兄弟

レイチェル・ワイズの魅力 〜 アイ・ウォント・ユー~あなたが欲しい(イギリス映画)🇬🇧

陰のある女性を主軸に描いたサスペンス系の映画。 女性の性(サガ)がテーマですかね。 やや重たい内容なんですけど、映像の美しさには目を見張るものがあったなあ・・なんて思い出しております。 全体的に赤いトーンなんですよね。 断片的に挿入されるシーンとか、結構印象にのこるんですよね。 しかしまあ、レイチェル・ワイズのこの映画でかもし出される怪しげな魅力は、なんともいえない美しさ!! 彼女をみるためにこの映画をみても損はないでしょう。 映像とあいまって、この映画を特徴付

だれもが少年時代に過ごした日々の、大切な思い出が投影されている 〜 「麦秋」小津安二郎(日本映画)🇯🇵

小津安二郎の映画を初めてみたときに、思い起こしたもの。 それは、小さいとき自分が見ていた無限とも思えるような風景とそのときの父母、祖父母の顔だった。 現在、地元を離れて暮らす僕は、とっても、ものすごい郷愁を感じたのだ。 この映画は、古きよき時代の大家族が、結婚、転勤などで離れ離れになり、核家族化が進んでいく様を、これをメインテーマにすえながらも、結婚騒動が主軸となることで、ユーモアたっぷりに描いている。 映画のタイトルバックで流れる音楽も、妙に明るくて、小気味いい。

等身大の女性たちに大いに共感できる静かな名作 ~「ひかりのまち」イギリス映画🇬🇧

あたりまえの、とりわけ何か新しいことが起こるわけでもない。淡々としたフツーの日々を生きる女性たちのお話。 悩んだり、不安になったり。 でもなんでだろう、この映画からは、すごくやさしさを感じる。 特に出産のシーンの後、映し出される風景と音楽がそう。 まるで、町全体が静かに祝福しているかのようだった。 等身大の女性たちに大いに共感できる静かな名作です。 監督はマイケル・ウィンターボトム。個人的には一番の名作だと思います。

心の浄化 ~ 「北京バイオリン」(中国映画)

この映画の主題は「心」です。 本当に信頼をおいて人と付き合う経験の無い女性 腕前はすばらしいが音に心をこめられない女性 あまりにも官僚的なのに嫌気をさして心を閉ざしている先生 そんな人たちが、あまりにも無垢な主人公とその父親と出会うことで心が浄化され、心を取り戻していきます。 人との心の通い合わない恋愛の空しさに気づき、音に心をこめることの本当の意味を理解し、そしえ、教えることへの情熱を取り戻していきます。 心の浄化 それはもちろん、この映画を見ている僕たちも。

大いなる救いは、大いなる混沌の果てに来る。 〜 「マグノリア」アメリカ映画🇺🇸

転々と変わり、淡々と進む話に何の意味があるのかよくわからないまま最後の最後のほうまできてしまい、あと少しでラストという瞬間。 このラストですべてが変わった。 あれだけのために、前置きとして2時間半があるんでしょう。 あのラストは、映画の中の人にとって、ちょっとした、ほんとうにちょっとの救いになったのでしょう。 偶然のような必然。 偶然のように見える出来事は、すべては必然性の元になりたっているんですよね。 ちょっとした隙にそれまで絡み合うことのなかった糸が絡み合いだ

爽やかな風が駆け抜ける 〜 「明日に向かって撃て」(アメリカ映画)🇺🇸

主人公たちは、フツーに悪人です。でも、そこには陰惨さとか、激しさなんてまったくないんです。 もう、一陣の突風が駆け抜けて行ったような、爽快さすら感じます。まさに人生をたのしんで、たのしんで、たのしみながら、逝ってしまったような。 繰り返しになりますけど、さわやかな味わいを残して、突風のように去っていった男たちの生き様を、見せてくれます。 エアロスミスのスティーブン・タイラーは、老いて死ぬより、ステージの上で熱狂と共に生を終えたいなんていってました。 この映画の二人は、

ヴィンセント・ギャロの描きたい世界と音楽をぴったりマッチさせた映画 ~「バッファロー'66」(アメリカ映画)🇺🇸

まず、、この作品を見て、ヴィンセント・ギャロってプログレ好きなのか! と思った人も少なくないのではないでしょうか? プログレの使い方が本当にうまくて、キングクリムゾンのムーンチャイルドに、YESのハート・オブ・サンライズを、あのシーンで使うセンスに脱帽でした。 改めて考えると、これらの音楽は主人公(ギャロ本人が演じた)の心の中に迷いこんだかのような色調&トーンで彩られていて。 殺風景であり、寂しくもあり、たんたんとした日常を映し出しているようでもある。 こんなイメー

彼の映像はそれ自体が生き物のような気がする ~「忘れられた人々」(スペイン映画)🇪🇸ルイス・ブニュエル監督

ルイス・ブニュエルといえば、スペインを代表するシュールレアリストであり、映画監督でもあります。 この映画は、メキシコスラム街の少年を描いたものです。 タイトルにあるように、まさに世間から”忘れられた人々”に焦点を当てています。 そのスラムで暮らす少年の生々しい日常 そして背徳すら感じさせる風景をときおり挿入されるブニュエル特有の映像でもって効果的に表現している。 彼の映画の特徴は夢でしょうか。 夢の中の白い鳩・・ なぜそこに鳩がいるのか不自然なのだし、違和感を感

金曜ロードショーがあった日

その昔、テレビで映画を放映する番組があった。全部で3つ。 金曜ロードショー ゴールデン洋画劇場 日曜洋画劇場 週3回、テレビで映画が見れるという状況は、映画館すらなかった田舎町の少年や家族には大変ありがたかった。 映画館のある街にはバスで三時間かかるし、かつて存在した街の映画館はいつのまにか消えていた。 映画は身近な存在ではなかったのだ。 だからテレビから映画が流れる日常は、より映画を身近にさせた。 少年たちはテレビ映画の影響を多いに受けた。 ある日、ある男は雨の

いつかどこかで感じたような匂い 〜「バグダッド・カフェ」アメリカ映画🇺🇸

この映画を語るには作品の中身よりも、作品に接して感じたことを書いた方がわかりやすいかも知れません。 いつかどこかで感じたような匂い。 これは、そんな匂いを思い出してしまう映画なんです。 映画の舞台となった、こういう荒涼とした風景は日本ではあまり見かける事がないのに、どこかで感じたような匂いを感じてしまうのはすごく不思議です。 この映画は、その現場に漂っているであろう 匂いを画面を通して感じさせてくれる映画なんですね。 僕はある日の夏の数ヶ月、真夏のスペインなど南ヨーロ