12月23日。葉室麟「体調管理を万全にして、なすべき仕事をなしとげなければならない」

葉室 麟(はむろ りん、1951年1月25日2017年12月23日)は、日本の小説家。福岡県北九州市小倉生まれ。

地方紙記者、ラジオニュースデスク等を経て、50歳から創作活動を開始する。2005年に江戸時代元禄期の絵師尾形光琳と陶工尾形乾山の兄弟を描いた「乾山晩愁」で第29回歴史文学賞を受賞した。2007年 、「銀漢の賦」で第14回松本清張賞受賞。2009年 、「いのちなりけり」で第140回直木賞候補。2009年 、「秋月記」で第22回山本周五郎賞候補、第141回直木賞候補。2010年 、「花や散るらん」で第142回直木賞候補。2011年 、「恋しぐれ」で第145回直木賞候補。2012年 、「蜩ノ記」で第146回直木賞受賞。2016年 、「鬼神の如く 黒田叛臣伝」で第20回司馬遼太郎賞受賞。

葉室は友人に愛読者多い。私も直木賞を獲得した「蜩ノ記」を読んで、すっかりファンになった。今回、葉室の書いたエッセイを読んだ。エッセイは本音が出るからよく読むが、この作家の歴史小説家としての原点や、目指すところがよくわかる。

高校生のころ司馬遼太郎の「竜馬がゆく」を読み、こういう小説を描きたいと思い、50歳を過ぎてから書き始めた。また、ほとんどの人は勝利者の経験がない、何らかの意味で敗者だとした上で、自分は小藩の軽格武士の末裔なので生まじめ過ぎて損をする人は描けると考える。それで歴史の中にそんな人物をさがし、ようやく歴史小説が書けるようになったのである。

葉室に寄れば、彼等歴史小説家が書くものは、正史ではなく、民間の歴史である、はい史である。

清麿正行という刀工は「刀は、、わたしそのものでございます。これが俺だ。古今どこにもないおれの刀だ」(山本兼一「おれは清麿」より)。朝井まかて「眩」では、主人公のお栄は、「わたしはわたしになりたいんだ。そのわたしに、まだ手が届かない」。これらの逸話を紹介してしていることから分かるように、葉室は歴史小説を書くことを通じて、自分にしか書けない小説を書くことを通じて、自分を作りあげようとしたのであろう。

2017年7月10日の65歳の時点で、これからなそうとする仕事のために自分自身のメンテナンスをしっかりしなければ、人生の最終コーナーをまわることはできない、と決意しているのだが、その年の12月23日に亡くなってしまう。代表作、ライフワークは時間が足りなくて完成しなかったのであろう。ファンは皆、脂の乗り切った葉室の書く作品を読み続けたいと言って、惜しんだ。

77才の小林秀雄と河上徹太郎が、それぞれ代表作をすでに仕上げていることにも言及している。そして北重利と山本兼一という二人の先達が仕事に意欲を燃やす中で、病でその歩みを断たれてしまったことの無念さに同情している。しかしこの葉室本人も同じ無念さを味わうことになってしまった。

「代表作、ライフワークを遺したか」という問いは、自分自身にも問いかけたい切実な言葉だ。


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