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すべての始まりはリゾートバイトだった。 #3『203号室』

バスの窓は真っ白に曇っている。
外はかなり寒いみたいで、窓の横からでもその冷たさを感じた。

バスが駅に到着し外に出ると、雪だらけの銀世界。

たばこを吸ったときのように吐息が真っ白になる。

気持ちの集中が、自分の中から外にぼわーっと出ていった気がした。

「本当にあるんだなぁ、こんな景色が。。」

テレビや雑誌、ネットでしか観たことがない雪国を、
今初めて、自分の力で来れたことになんだか達成感がある。

数分雪に見惚れていると、
遠くからころっとした形の車がこちらに近づいてきた。

今回お世話になるリゾバ先の車みたいだ。

私は少しだけ会釈すると、
運転手さんが私に声をかけてきた。

「安藤さんですか?」

「はい、そうです。」

「バスだとここまでしか来てくれないから、バス停まで迎えに来ました。
 どうぞこちらに乗ってください!荷物は後ろに乗せちゃいますね。」


バスから小さい車に乗り換えて、
視野が一気に狭まったけれど

小さな窓から見える世界には、
外国のような可愛らいい建物をしたペンションがたくさんあって

海外旅行に来たような気分になっていた。


勤務先の大きなホテルに着いて、
総務課で説明を聞いてから
さっそく従業員寮に案内されることになった。


今回はどうやら4人の相部屋らしい。
相部屋って言葉にあまり慣れていなかったけれど、

学生時代の修学旅行みたいな感じかな?とイメージした。

学生の頃は、部活の仲間とか、
いつもいる同じクラスの子と一緒だったから

そこまで緊張はしないではっちゃけていたけれど、
見ず知らずの初対面の人たちと、同じ部屋だなんて
人目を気にしすぎて目も合わせられない私は大丈夫だろうか・・・

来て早々、自分の短所が浮き上がってきて、
「にもかかわらず、なんで来たんだーーー」
とツッコミたかった。

総務課の方と一緒に辿り着いた小さなアパート。
ここの2階の203号室に向かっていた。


「部屋には2段ベッドが二つあって、4人住むことができるんですよね。
もうすでに3人、女の子が入居しているから
どこかのベッドが空いていると思うんだけど。

多分そろそろ勤務が終わって
一度部屋に帰ってくる子もいるかもしれないね。

それまで部屋でゆっくりしててくださいね。」


そう言って、203号室のドアをノックし不在なのを確認したあと、
総務課の人は鍵を開けて、ゆっくり扉を引いた。


12畳ほどのワンルームに
2段ベッドが左右に二台。

突き当たりには雪景色が広がる大きめの窓。
真ん中に小さなちゃぶ台。

女の子たちのウェアやアウトドアブランドのアウター、
洗濯物、カゴにたくさん入った化粧品や鏡、
ピンチハンガーに吊るされた靴下やスノーボードゴーグル。

キッチンには調味料やインスタントがたくさん置いてあったけれど
綺麗に使われていたシンク。
小さなユニットバスの前には
みんなのシャンプーやトリートメントの入ったカゴがあった。

ものはたくさんあって生活感に溢れていたけれど、
どこか落ち着く女の子たちの部屋。

「3人のうち2人は、去年や一昨年も来てくれた2人だから、
もう色々知ってると思います!細かなところはその子たちにいろいろ教えて貰えば大丈夫!」

「わかりました。そしたら部屋で荷物の整理しながら待っていますね!
ありがとうございました。」

総務課の人はゆっくりドアを閉めると、
私はさっそく自分のベッドはどこか見渡した。

右上の2段目は、荷物が何も置いていなくて
他の3つはもう携帯の充電ケーブルや洗濯物などがあったので
私は右上の2段ベッドに登ってみた。


小さい頃は2段ベッドの上が自分の城になることに憧れていたけれど
23歳になった今、まさかのここで叶った。


そこで正座しながら、上から部屋をぼーっと見渡していた。


そうか、2人リピーターさんがいるんだなぁ。
慣れている人がいてくれるのは心強いな。
でも、その人たちがお局さん的な意地悪な人だったらどうしよう・・・

これから3ヶ月この部屋で過ごす仲間は、
いったいどんな人たちなんだろう。


すると、ドアの向こうから話し声と足音が近づいてきた。

楽しそうに話す2人の声。

足音がドアの前で止まり、203号室の鍵をガチャガチャっと開け始める。

帰ってきた。

緊張しすぎて心臓がバクバクした。

ベッドから今すぐ降りるか?
いやでももう扉が開く。

最初なんて言ったらいいんだ?
最初はまず挨拶か。

ほんの1秒くらいの時間が
ものすごいスローモーションに感じるほど
頭の中がフル回転した。

ドアが開き、ビーニーをかぶった二人の女の子が
入ってきた時、

私はベッドの上から勇気を出して

「は、、はじめまして!!」

私が声を出した瞬間、

「ぅわぁ!!!!!!!!!」
と2人の女の子が飛び上がった。

目が合ったのは、ロングヘアーで茶髪の
綺麗な人だった。

「びっっっくりしたーーーーー!!!!!!!!

電気もついてなくて人がいるとは思ってなかったよーーー!!!笑」


あまりにもびっくりしたのが面白かったのか、
二人は大笑いしてて、それにつられて私も笑ってしまった。

今までの緊張が、一瞬で飛んでいったよ。

「ごめん!部屋汚くて!笑
総務課の人も事前に今日来るって教えてくれれば、
ちゃんと掃除したのにー!!」

思いっきり笑う顔が素敵で、こっちまで元気をもらうような二人。

お局さんみたいな意地悪な空気なんて1ミリもなかった
おかしくて笑っちゃう優しい時間。


この203号室で過ごした時間は、
たくさん笑った。今でも忘れられないよ。


リゾバ生活がこんなにも人生の宝物になったのは、
この部屋でみんなと過ごせた時間が
一人で進んできた私を大きく支えてくれたから。


そんなスタートで、今日からこの部屋でのリゾバ共同生活が始まった。

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