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呼ばれる(怪談)

最後にYouTube版を掲載しています。


これを読んでいる方にも空耳を体験した方は多数おられると思います。
 この話も空耳の類いかもしれませんが少し不思議なお話です。

 奈緒さんは自宅で起こる怪現象とは別に、物心ついた頃から不思議だなと思っていることがあった。それは所構わずに名前を呼ばれることだった。

 家に1人でいるとき、学校で授業を受けているとき。「なお..。」大体は周りが静かになっている時に呼ばれる。
 妙に響くような透き通った声だった。
 親でも友達でも無いのは断言できる。
 その声は毎回お祖父ちゃんの声だったからだ。

 心霊好きな方なら「亡くなったお祖父さんの声では?」と思われるとおもうが、ところがである。
 奈緒さんのお祖父さんは生きている。
 なんなら令和の今でも健在だ。
 奈緒さんは不思議だった、幻聴にしても何故いつもお祖父さんの声なのかなと。
 奈緒さんは中学生になり、そして高校を卒業した。
 この間もずっと、不規則にお祖父さんの声で名前を呼ばれ続けていた。

 その声の事は、小学生の時に一度母親に話したことがあるが、相手にされなかったためそれっきり誰にも話すことはなかった。
 奈緒さんが二十歳少し前に曽祖母が亡くなった。
 その頃は四人家族になっており、少し年の離れた妹もいた。

 今は葬祭場を借りたりするが、田舎の葬式は自宅で執り行われる事が多い。
 その葬式の準備の為、みんな実家に集まっていた。

 仏間と座敷二部屋を隔てる襖を全部取っ払い、葬儀屋は祭壇を組み、式場の準備していた。

 そんな中、妹が上を向いて何かを見ている。
 それは仏間に飾ってある先祖代々の遺影だった。
 それを一つ指さし。
「お姉ちゃん、なんでお祖父ちゃん、死んでないのに写真飾ってるの?」と尋ねてくる。
 奈緒さんは「違うよ。これは、ひいお祖父ちゃんだよ・・」
 と答えた。
 親子だから似ているのは当たり前だが確かにソックリだった。

 曾祖父は奈緒さんが幼稚園の頃に亡くなっていたが、いつも怒られた記憶しかない。
 怒られたと言っても、さほど怖くはない。
 その頃一緒に住んでいた高校生だった叔母ちゃんと一緒に怒られると
「怒られたーーーヒャッホー」
 みたいにケラケラ笑っている感じだったそうだ。
 逆に祖父はいつもニコニコして優しいので、イメージ的に似ているとは思った事が一度もなかったそうだ。

 妹は言った
「ずーっと死んでないのに飾られてるのが不思議だったんだよね~」
  こで気付いた。
『あ、もしかして今まで私の名前を呼んでたのって曾祖父だったのかも・・・』
 遠い昔のことを思い出してみると、確かに声も似ていたような気がする。

 不思議な事に、葬式を境にパタリと名前を呼ばれることが無くなったのだそうだ。
 それは奈緒さんが曾祖父だと気付いたからなのか。
 それとも連れ合いが亡くなり、自分の元に来たからなのか・・・。

 色々考えを巡らすと、曽祖父は曽祖母が亡くなるまでこの世に留まり続けていて、曽祖母と一緒に成仏したのではないのだろうかと。
 その留まっている間、少し霊感のある奈緒さんに、たまに暇つぶしに呼び掛けていたのかもしれないなとも思った。

 何時も奈緒さんを呼んでいた声は。
「おい何やってるんだ?」
 という感じの、機嫌が良い時に大人が子供に無駄にちょっかいを出すときのような声だったそうだ 。