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#100. 『夜に駆ける (Into The Night) 』(by YOASOBI) 和訳


7 月 2 日、YOASOBI のデビュー曲にして代表曲でもある『夜に駆ける』の、本人による英語カバー("Into The Night")がリリースされた。

歌っているのは原曲と同じくボーカルの ikura さんだが、英語の歌詞はコニー青木という方が書かれたそうだ。


(まずこちらが原曲)

(そしてこちらが英語バージョン)


歌っている本人がこう言うとおり、原曲を聞いたことがある人ならば、聴いて 1 秒でわかる「言葉遊び」。その後も聴けば聴くほど、「ああ、この音も仕組まれているのか」と新たな発見があり、音楽体験としてシンプルにおもしろい。

また、当ブログでもたびたび取り上げているように、邦楽を英訳したときには、オリジナルの歌詞を過不足なく「完全コピー」することは(言葉が違う以上)不可能なので、必ずどこかに「原曲とは異なる歌詞」が登場する。

音の面での仕掛けだけでなく、そういった「意味」の部分にも注目すると、またこの英訳を聴く楽しみが増すことと思うので、今回は『夜に駆ける』の訳詞を日本語に再翻訳して、歌詞の変化にも注目してみたい。

(※なお、訳の中で「*」のついている箇所は、「英訳の際に『意味が通ること』よりも『原曲と音をそろえること』を優先して書かれた部分」だろうと考えられるため、訳すのではなく(訳してもあまり意味がないので)、そのまま原曲の歌詞を添えている)


■ 歌詞と和訳


Seize a move, you're on me,
falling, and we were dissolving

(*沈むように、溶けてゆくように)
You and me, skies above and wide,
it brings on the true night on me

(二人の空が、真実の夜を連れてくるように)

All I could feel was a "goodbye"
(感じられたのは「さよなら」だけだった)
Those only words you wrote,
it's plenty to understand ya

(それだけでも、君を分かるには十分だった)
The sun is going down, the sky behind
and visions of you would stand

(日が沈み、背景となった空と、君の姿が)
Overlapping with you and the fence beyond
(フェンス越しに重なっていた)

Remember the night that we met up
(初めて会った夜に君は)
Broke into me and
taken everything left in my heart

(僕の心に忍び込んで全てを奪った)
So fragile is that air,
it always keeps on revolving near and wide

(どこか君の周りに漂っている、儚い空気が)
Loneliness envelops deep in your eyes
(寂しさが、君の目にはあるみたいだった)

It's stuck in “tick-and-tocking” mode
(いつだってチックタックと)
Never refraining shamble, block of sound
(鳴り止むことのない、雑多な音が)
Too many terrible noises around 
(触れるあまりのノイズや)
And the voice ringing in me gets louder
(内側で鳴り響く声に涙が)
With tears about to fall
(零れそうでも)
I need to find me an average happy tiptoe
(ありきたりな幸せ見つけないと)
Locating, never tough when I'm with you
(君とならきっとできる)

Saw what got seen hid beneath,
and louder nights keep beating

(*騒がしい日々に、鳴り響く夜に)
I'm going to you,
and giving brighter shiny tomorrows

(君の元へ届けよう、眩しい明日を)
What can "night" for you mean,
infinite? You could run with me

(君にとって「夜」は何?行こう僕と一緒に)
Place your hand in mine,
you gotta stay, hold up

(さあその手をぼくに重ねて、ほら)
Want to leave it behind, dark cruel days,
in deep, you may have hid before

(忘れたいほど苦しくて、閉じ込めた日々も)
I'm embracing you
until more heat dissolve what is caught up

(抱きしめて、温もりで溶かすから)
Sun will soon rise up
into a day you're no more too afraid

(日はまた昇るよ、君の不安がなくなるまで)
Keep all of me in you
(二人でいさせてよ)

Only perceiving through your eyes
(君の目を通してしか見えない)
I see nothing, I'll soon hate you,
keep me out, I'm crying out

(何かが僕には見えない君を嫌いになりそうだ)
You're falling into deeper fascination,
giving away your love 

(見惚れているかのような、恋するような)
That expression has got me crying out
(そんな顔を見ると悲しくなるんだ)

She's gonna try to me, she's gonna lie
Got to force a belief and trust to keep on

(君は噓をついたりして、
僕が信じていられるか試しているんだろう)
Every time it happens, heap of attack,
and now I'm back in, I got to cry,
then who knows?

(そのたんび傷ついてまた泣いてって、
いやこんなのどうしたらいいんだよ)
So we gotta keep on
If you gotta keep on
Then we're gonna keep on

(それでもずっと、君が望めばずっと、
ぼくらは二人でいるよ)
One day, we will understand,
I'm believing in you

(わかりあえるさ、信じてるよ)

"No, wanna stop it,
you got me tired of walking"

(「もう嫌だ、疲れたよ」なんて)
As I show my needs, I reach to get back on,
still not fit in, you free my hand, then leave it

(引き戻そうと差し伸べた僕の手を振り払う君)
"No, wanna stop it,
you got me tired of walking"

(「もう嫌だ、疲れたよ」なんて)
Never told you the truth,
I'm feeling that inside

(言えはしないけれど、僕も感じてはいるんだ)

Back for another "tick-and-tocking" mode 
( Ah ほらまたチックタックと)
Never refraining shamble, block of sound
(鳴り止むことのない、雑多な音が)
Killing, oh, too many words
that I gathered around
Won't let me go to your mind

(君の為に用意した言葉、
揉み消すから、君に届かない)
"I want it to be done" is what went out
It found a way to finally leak out of me

(「終わりにしたい」だなんてさ、
釣られて言葉にした時)
And for once,
I could make you let out a smile

(僕は初めて君の笑顔を引き出すことができた)

Saw what got seen hid beneath,
and louder nights are keeping me down

(*騒がしい日々に、鳴り響く夜に)
My new images of you, now,
appear heavenly now

(僕の目にいま映る君は綺麗だ)
What can "night" for you mean
when fallen seas of tears are gone

(君にとって「夜」は何?溢れた涙が今はもう)
They dissolve into the peace inside of you
(君の笑顔に溶けていく)

Calling to life, hit beneath,
crying days in the eternal

(*変わらない日々に泣いていた僕を)
Give me what I saw in you,
oh, what an end to stop all

(*君は優しく終わりへと誘う)
Seize a move, you're on me, falling,
and we were dissolving

(*沈むように、溶けてゆくように)
See me to it, fog is leaving, bright air move 
(*染み付いた霧が晴れる)

Want to leave it behind, tucked all days
away, forget, and hid beneath

(*忘れてしまいたくて閉じ込めた日々に)
Hand in hand, extend to me,
that let me know beyond falls

(手と手を取り合って、二人で落ちていこう)
Through the seas of beyond,
so loud and blows you afloat in the sky

(*涼しい風が空を泳ぐように今)
New wind moving into you
(*吹き抜けていく)
Tonight,
don't ever lose sight of me and let go

(今夜は僕から目を逸らさないでよ)
You and me are running through the night
in dark, I'll take you

(夜にいま僕は君を連れ出していく)


■ 註釈


1. 音の類似

この曲の驚くべきところは、まずなんといっても「韻」である。つまり原曲と英語バージョンで、両方ともが同じ母音で終わっているのである。

さよならだけだった
その一言で全てが分かった
日が沈みかけた空と君の姿
フェンス越しに重なっていた

たとえば、原曲のこの箇所では、4 行すべてで最後が母音の「あ」の音で終わっているが、これが英訳された歌詞でも:

—All I could feel was a "goodbye"
—Those only words you wrote,
it's plenty to understand ya

—The sun is going down, the sky behind
and visions of you would stand

—Overlapping with you and the fence beyond

4 行がそれぞれ "goodbye,"(グッバイ) "ya,"(ヤ) "stand,"(スタン) "beyond"(ビヤン)と、(完璧にではないが)ゆるやかに「あ」に近い音で踏んでいる。

"ya" というのは you のよりくだけた形( "See you" を親しい間柄では "See ya" と言ったりする)で、ほかの部分では「君」が you と訳されているのに、ここだけが “ya” となっているので、これは訳者が原曲と韻を揃えようとしてやったのは明らかである。

この原曲と同じような韻が、この英語カバーのほとんど全ての行に施されているので、聴く際に注目してみるとおもしろいだろう。

また場合によっては、固まりでそっくりな音が聞こえてくることもある。

Seize a move, you’re on me
(原曲は「沈むように」)
It's stuck in "tick-and-tocking" mode
(「いつだってチックタックと」)
Saw what got seen hid beneath
(「騒がしい日々に」)
What can "night" for you mean?
(「明けない夜に」)
So we gotta keep on
(「それでもきっと」)
Back for another "tick-and-tocking" mode
(「 Ah ほらまたチックタックと」)
Killing, oh, too many ...
(「君の為に ... 」)
Calling to life, hit beneath
(「変わらない日々に」)
See me to it ...
(「染み付いた ... 」)
Want to leave it behind, tucked all days
(「忘れてしまいたくて」)
Through the seas ...
(「涼しい ... 」)

(なおここに挙げたのも一部なので、探していけば似せた音はもっと見つかる)

これらの部分では、意味的な面で原曲の歌詞をある程度犠牲にしてまで、音としての再現が図られている。

こういった飽くなき「音」へのこだわりによって、「英語で聞いているはずなのに日本語の原曲が頭にチラつく」という独特の音楽ができあがっている。


2. 原曲の歌詞との違い

しかし、音がそろえられている一方で、その結果として歌詞の意味やストーリーといった点では、いくつか原曲と異なる箇所が出てきている。

細かく見れば変わった部分はたくさんあるが、中でもおもしろいなと感じた部分を 3 つに絞り、ここで取り上げてみよう。


2-1. 番サビ終わり

(原曲)
怖くないよいつか日が昇るまで
二人でいよう
(英訳)
—Sun will soon rise up
into a day you're no more too afraid
—Keep all of me in you

微妙な違いだが、文の順番が変わっているので、「いつか日が昇るまで(二人でいよう)」というメッセージが、英訳版では「君の不安がなくなるまで(二人でいよう)」と、「君」に対してより直接的なメッセージを投げかけているように聞こえる。

また、原曲の「~いよう」の音を留めようとして "in you" を最後に置きたかったからか、「二人でいよう」の部分が "Keep all of me in you"(僕の全てを君の中に留めておいて)と変わっているのもおもしろい。英訳版の方が、語り手の切実な想いが伝わるようになっている。


2-2. 番サビ前

終わりにしたいだなんてさ
釣られて言葉にした時
君は初めて笑った
—"I want it to be done" is what went out
—It found a way to finally leak out of me

—And for once,
I could make you let out a smile

ただの「君が初めて笑った」という描写だけでなく、「僕はとうとう君から笑顔を引き出せたんだ」という調子になっているため、語り手の喜びがいっそう伝わり、ここからいよいよ二人で夜に駆けていく場面に向けて盛り上がりが感じられる。


2-3. ラスト

繋いだ手を離さないでよ
二人いま夜に駆け出していく
—Tonight,
don't ever lose sight of me and let go

—You and me are running through the night in dark, I'll take you

まず、「繋いだ手」と音をそろえるために "Tonight, don't ever ..." を使ったためか、英訳版からは「手」に関する描写は完全に消えており、代わりに "don't ever lose sight of me and let go"(決して僕から目を逸らさないでよ)という風に変わっている。

そして最後の最後、「二人いま夜に駆け出していく」のところが、なんと "I'll take you"(僕が君を連れ出していく)となっているのは、(「~てく」と "take you" で合わせるためにこうなったのだろうが、それでも)驚きの変化である。

さきほどの「決して僕から目を逸らさないでよ」の部分と相まって、英訳版の「僕」の方が、積極的に彼女の手を引っ張って夜に駆け出していく感じが出ている。


■ 最後に


邦楽を英訳する際になにを良しとするかは、歌詞を実際に翻訳する人によって千差万別だろうが、数ある英語カバーの中でも、ここまで原曲の「音」を再現しようとしたものには正直初めて出遭った。

とくに、曲の冒頭とサビの頭は、原曲を知る人にとって最も印象に残っているであろう部分だからこそ、訳者はここの音だけは(多少言葉の上で強引なものになっても)外せないと考えたのかもしれない。

いずれにしても、邦楽の英語カバーを聴く際は、歌詞の違いに注目してみると、思いもよらない発見があるので、オススメである。今回ここで紹介したようなものが、だれかの "Into The Night" における音楽体験を、より豊かなものにしてくれれば幸いである。


※ YouTube のチャンネルをつくってみました。今後こちらでも曲の和訳を動画形式であげていこうと思います。


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