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未発売映画劇場「強盗プロフェッショナル」

ずっと以前にも書いたけど【→こちら】ミステリ小説の巨匠ドナルド・E・ウェストレイクが生み出したシリーズ・キャラクターである「不運な天才大泥棒」ジョン・ドートマンダ―は、私のもっとも好きなキャラクターの一人である。

もちろん、そのデビュー作の「ホット・ロック」は、小説、映画ともに超お気に入りの作品なのだが、小説のシリーズ第2作『強盗プロフェッショナル』も大好きだ。

銀行を丸ごと盗んでしまおうというダイナミックな強盗計画も魅力だし、そのための綿密な準備、作戦進行中のさまざまな予想外の障害、そして犯行後の皮肉な展開と、じつは屈指の傑作ミステリじゃないかと思うんだが。

で、『ホット・ロック』が非常に魅力的な映画になったように、この『強盗プロフェッショナル』も映画化され、魅力のある映画になっていると、かねがね思っていた。

ご存知のように映画「ホット・ロック」は日本でも公開され、何度もテレビ放送され、またVHSやDVDソフト化されて、いまでも比較的容易に観ることができる。ところが、『強盗プロフェッショナル』のほうの映画版は、そうはいかないのだ。

タイトルは原作と同じ「BANK SHOT」 1974年7月31日にアメリカ公開されているものの日本では劇場未公開。それでもテレビ放送はされ、そのときには「悪の天才たち/銀行略奪大作戦」という邦題がついている。

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テレビでは数回放送されたようだが、その後なぜか国内でソフト化されることはなく、なかなか観るのが難しい映画になってしまった。なぜそんなことになったのか、そのへんの事情は不明だ。

映画のストーリーラインはほぼ原作どおり。改装工事中なのでトレーラーハウスで仮営業している銀行を丸ごと盗んでしまおうという強盗計画を遂行する天才犯罪プランナーのドートマンダ―とその一味を描くクライム・コメディ。

原作小説を脚色したのは、ウェンデル・メイズ(Wendell Mayes) 1950年代に「眼下の敵」(1957年)、「縛り首の木」(1959年)といった作品で台頭し、「危険な道」(1965年)や「脱走特急」(1965年)などの大作戦争映画を手がけている。超一流ではないがそこそこ以上の腕前で、この「強盗プロフェッショナル」の前後には「ポセイドン・アドベンチャー」(1972年)や「狼よさらば」(1974年)がある。いやいやどうしてどうして。

資料によると、そもそもメイズはこの原作小説の大ファンで、自ら脚色して売り込んだ企画だともいう。

道理でツボを心得た脚色がされている。

原作では「ホット・ロック」事件の後で娑婆にいるドートマンダ―のもとに相棒のケルプが強盗計画を持ちこむのだが、映画版ではムショに入っている彼に計画が持ちかけられ、そこでムショを脱獄して計画をスタートさせるという一幕が加えられている。正直いって水際だったとはとてもいえない脱獄だが、大掛かりなアクションが盛り込まれていて、映画冒頭の掴みとしてなかなか上等だと思う。

強奪した銀行の中にいる警備員たちを追い払う仕掛けも、これは映画版のほうがよくできている。

さすがは(超一流ではないが)一流脚本家だ。

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その彼も嘆いているのだが、この脚本がまったく活かされていない。演出が残念レベルなのだ。

俳優たちに余計としかいいようのないドタバタ演技をさせる一方で、肝心のトレーラーハウスの仮設銀行(ある意味これが主役なのに)をきちんと写さない。おかげで最高の見せ場になるはずだった銀行強奪シーンがまったく盛り上がらない。後半の金庫破りのシーンも迫力も面白みもほとんどない。

こんなポンコツ演出をしてくれた監督は、ガワー・チャンピオン(Gower Champion)だが、知らないでしょ?

俳優もやっていた御仁だが、監督としてはTVシリーズのエピソードを数本手がけている。だが劇場映画は「ちびっこ天使」(1962年)くらいしかないのだ。なんでこんな男に演出させたのかは謎だが、やはり失敗だったと見えて、これが彼の最後の監督作品になっている。

好素材(原作)を、下ごしらえの助手が上手にさばいたのに(脚本)、最後のシェフがぼんくらで調理も味付けもダメダメにしてしまったってところか。

ただそれ以前にも、そもそもニューヨーク派のウェストレイクがニューヨーク近郊を舞台にした作品なのに、じつに無造作にロスアンジェルスを舞台にし、なぜかドートマンダ―の名前もウォルター・バレンタインに変えてある(なぜだ?) そもそもプロトタイプ段階から、原作を活かそうとしていないようなのだ。

そんなわけで、けっきょくは残念映画になってしまっている。批評も興行もよくなかったようだ、首尾よく「ホット・ロック」につづいていれば、その後にドートマンダ―・シリーズが続々映画化されて人気者になったかもしれなかったのに。

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そんな映画だったのでミスキャストに見えてしまったのは気の毒だが、ドートマンダ―ならぬバレンタインを演じたジョージ・C・スコットは悪くない。考えてみれば原作のドートマンダ―は中年男なんだから、「ホット・ロック」のロバート・レッドフォードよりはイメージ的には近いのかもしれない。

映画版でオリジナルに加えられた、ムショから追いかけてくる刑務所長を演じたのがクリフトン・ジェームズ。「死ぬのは奴らだ」「黄金銃を持つ男」で007シリーズに連続出演した時期だから、それなり以上の扱いなのだが、ポンコツ演出のせいで、ドタバタしているだけに見えるのも残念。

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自分の好きな小説(とか)の映画化作品には、どうしても点が辛くなるね。まあそれも映画の楽しみ方のひとつだと思ってご勘弁願いましょう。

でも念のために二度押ししておくと、原作の『強盗プロフェッショナル』は読んで損なしのおすすめミステリ小説ですからね。

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