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令和6年・初場所雑記

ここ数年続いていた「戦国乱世」もようやく治まってきたようである。

この初場所、前半は朝乃山、中盤からは大の里といった平幕力士に優勝争いのリードを許してはいたが、終盤は横綱・照ノ富士、大関・霧島豊昇龍、関脇・琴ノ若と、番付上位の4人による競り合いとなり、非常に締まった場所になった。そしてその争いを制したのが横綱なのだから、文句のつけようはない。いい場所だった。

優勝した照ノ富士は、とくに前半戦では不安定さを感じさせ、じっさい平幕相手に2つの金星を配給しているが、中日あたりからギアを上げた感じでぐんぐん相撲内容が安定してきた。ことに、横綱昇進をめざした霧島、大関盗り中の琴ノ若、新入幕で横綱挑戦を実現した大の里らを相手に圧倒的な相撲を見せた、終盤戦の強さは特筆ものだった。

ここだけを見れば「横綱完全復活」といいたくなるが、まだそこまでの信用は置けない。特に14日目、優勝を争っていた豊昇龍が休場し(これは残念だった)、照ノ富士自身初の不戦勝があったのは見落とせない。とかくスタミナ不足を不安視される横綱にとって、胸突き八丁での不戦勝は非常にラッキーだったのではないか。前半戦の不安定さと、このラッキーをあわせてみると、まだ隙があるように見える。

次の春場所でこの不安を払拭できてこその「完全復活」といえよう。そうすれば横綱自身が目標として口にする、優勝10回に達する。優勝10回は歴代11位タイの大記録であり、優勝回数ベストテンにあと一歩となるわけだから、その時にこその「完全復活」だろう。

その横綱と最後まで競り合い、優勝決定戦まで競り合った関脇・琴ノ若にも文句のつけようがない。大関昇進おめでとう。今後の課題はただひとつ、照ノ富士に勝つことだろう。13日目の本割、そして優勝決定戦と、見せ場を作れずに連敗したのはいただけなかった。春場所にこの「壁」を突破するのが目標になるし、そうすれば初優勝も手にできるだろう。

逆に、場所前から話題になっていた綱盗りに失敗した形になったのが大関・霧島。千秋楽まで優勝の可能性を残していたのだから、惜しいところではあった。じっさい、もし千秋楽の横綱戦に勝って12勝を挙げていれば横綱昇進を諮問するはずだったと審判部長がコメントしていた。

審判部は今場所の成績で綱盗りは「白紙」だとしているが、場所後の横綱審議委員会では春場所次第とのこと。もちろん、非常にレベルの高い優勝が求められるだろうし、そのためには琴ノ若同様に打倒・照ノ富士が必要(まだ一度も勝ったことがない) まだ終わっていないぞ。

同じ大関の豊昇龍は、負傷による休場がなんとも惜しかった、それに尽きる。終盤を迎えた時点で、場所前に注目が薄かった男の意地が炸裂するのではと期待していたのだが、まさかそこで負傷するとは。

じつは場所前から負傷を抱えていたという報道もあった。もしそれが事実だとしたら、よくここまで頑張ったと思う。春場所までにきっちり治しもらいたい。

残る一人の大関・貴景勝。先場所は綱盗りに失敗し、今場所は早々と4日目から休場してしまった。この大関はもう負傷との闘いがすべてになってしまいそうだ。万全の体調で場所をつとめあげれば、まだまだ若いし、優勝も綱盗りも望めると思うが……

昨年の霧島と豊昇龍、そして琴ノ若にも大関盗りの先を越された形となってしまった関脇・大栄翔。昨年は年間60勝を挙げて、初の年間最多勝を獲得したのに、今場所はまたしても9勝止まり。抜群の安定感はあるものの、それだけの感もある。このままいくと「万年大関候補」になりかねない。

気がつけば、春場所には4大関が番付に揃うことになる。いつのまにやら大関の座は「満席」になってきつつある。ここらでドカンと大勝ちしておかないと「大関候補」の座から抜け出せないぞ。

同じことは若元春にもいえる。今場所は10勝を挙げて、一見すると先場所の負け越しの失地を回復したようにも見えるが、こと大関盗りに関してはまだゼロ。たった一度の負け越しで振り出しに戻ってしまうのが、大関盗りの怖ろしいところなのだ。とはいえ、前頭筆頭の位置での10勝は、並の力で出来ることではない。今年中に大願成就するつもりで励んでもらいたい。

という具合にこの初場所は上位陣に注目せざるを得ないのだが、いっぽうで下からは若い力がぐんぐんと押し上げてきている。来場所からは大関に並ぶことになる豊昇龍(24歳)、琴ノ若(26歳)を追って、彼らよりさらに若い力士がのし上がりつつあるのだ。

初場所の番付順でいえば、熱海富士(21歳)、豪ノ山(25歳)、金峰山(26歳)、湘南乃海(25歳)、北青鵬(22歳)、平戸海(23歳)、王鵬(23歳)、琴勝峰(24歳)、大の里(23歳) 十両でも、白熊(24歳)、天照鵬(21歳)、北の若(23歳)、十両優勝の尊富士(24歳)、そして復帰してきた伯桜鵬(20歳)【年齢はいずれも初場所番付時】

大卒、高卒、社会人経由、そして中卒とスタート時期が違うので同年代に見えにくいところもあるが、20代半ばまでの若い力士が台頭してきつつあるのは間違いない。長く続いた白鵬時代をオーバーするのは、白鵬と対戦していない世代なのか?

大相撲では不思議と、若い勢力がまとまって昇進してくる時期が生じることがしばしばある。

私が大相撲に興味を持ちはじめた昭和40年代の半ば、柏鵬時代の末期にあたるこの時期にも、若い力士が台頭してきたことがある。貴ノ花(初代)、輪島、三重ノ海、黒姫山、錦洋、旭国、吉王山、金剛、双ツ竜、大受、増位山(2代)、天龍、富士桜、そして北の湖。当時やはり20代前半くらいの彼らは「ヤングパワー」などと呼ばれ、次々と上位に進出してきて覇を競ったのである。

ご覧のとおり錚々たる顔ぶれだ。優勝24回の大横綱・北の湖、14回優勝の横綱・輪島、同じく横綱となった三重ノ海をはじめ、大関に昇進した貴ノ花旭国大受増位山、ほかにも人気力士が多い。ちなみに貴ノ花は平成の大横綱・貴乃花の父、黒姫山は現在の黒姫山(幕下)の祖父、天龍はのちのミスター・プロレスその人であり、また当時彼らの突き上げを喰らっていたのが大関から横綱になった琴櫻が、いうまでもなく琴ノ若の祖父である。

現在の「ヤングパワー」が彼らに迫る実績を残せるのか。ぜひとも注目したい。もっとも、その結果が出るのは少なくとも10年後くらいだろうから、それまで生き延びて見届けなければね。

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