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未発売映画劇場「ビリー・ザ・キッド対吸血鬼ドラキュラ」

すっかり暑くなって夏真っ盛り。こういう季節は怪奇映画でしょ、オバケ映画でしょということで、こんな映画を見てみましょう。はい、タイトルがすべてを表わしていますね。原題も「BILLY THE KID VS. DRACULA」 1966年の作品。

なぜか駅馬車に乗って大西部を旅行中のドラキュラ伯爵。乗り合わせた乗客から姪の写真を見せられ、その娘に目をつける。駅馬車はインディアンの襲撃を受けて乗客は全滅。そこで娘の叔父に成りすました伯爵は彼女を狙う。娘の恋人が、若きガンマンのビリー・ザ・キッド。やがて彼女の周囲で次々に怪事件が起きる。ビリーはドラキュラの正体を見破って彼女を救えるか?

なんて「あらすじ」を説明する必要もないほど、タイトルそのまんまの展開。安直といえば安直だが、その思いつきをこうして作品にまで定着させた実行力は褒めてやってもいいかも(いや褒め過ぎか)。そして、下手なパロディに走るのではなく、まともにホラー映画にしようとしているのは評価してやってもいいのか(いや、ダメだろう

ドラキュラ(作中でははっきり名前が出ないが、タイトルにそうあるからね)を演じたのは、ベテラン傍役のジョン・キャラダイン。デビッド・キャラダインをはじめとする4人の息子ばかりか、孫たちまでが俳優というキャラダイン一家の総帥。

古くはジョン・フォードの名作「駅馬車」(1939年)の賭博師役あたりからフォード一家のメンバーであるが、その一方で1988年に亡くなる直前まで、この映画のようなB級C級作品にまで出まくり、かといってそんなに有名でもないのがいいところ。

このキャラダイン親父、じつはドラキュラ役は持ちネタのひとつで、元祖ユニバーサル映画の怪物映画「House of Frankenstein」(1944年)あたりを皮切りに、何度も演じている。

そのわりには、この映画で見せるドラキュラぶりは、お寒いかぎり。クソ真面目な顔で凄み、超能力を発揮する際にはぎょろ眼を向くという演技プランで、完全にワンパターン。コメディやパロディならともかく、大まじめにやるような演技じゃないよ。

まあ映画全体が、たとえば、どう見ても糸で吊ってます的なツクリモノ感たっぷりのこうもりとか、ドラキュラがパッと消える素人くさいトリック撮影とか、まともなホラー映画を撮ろうという気概がまったく感じられない出来ばえなので、バランスは取れているのか。

大雑把なのはドラキュラものとしてのディティールもそうで、鏡に写らないとか、心臓に杭を打たないと倒せないとかの「お約束」を踏襲しているのに、十字架やニンニクは恐れる様子もなく、何よりも昼間に平気でひょこひょこ出歩いているのはいかがなものか。そういえば定番中の定番、昼間眠るのに使うはずの棺桶も、出てこなかったぞ。

対するビリー・ザ・キッドの側も同じで、左利きのイメージが定着しているビリーなのに平気で右手で拳銃撃つし(演じたのはチャック・コートニーという無名俳優)、ならず者じゃなくて村の好青年みたいになってるし。

このへんは、監督をつとめたウィリアム・ボーダインのせいだろう。なにしろ無声映画の昔から、早撮りが得意なことで有名な監督さんだそうだからね。

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ま、そんな映画なんで許してやってほしいのですが、ここで、野暮を承知のツッコミをひとつ。

この映画の舞台がいつの設定かはハッキリ語られないが、少なくとも史実のビリー・ザ・キッドは、1881年に没している(1859年生まれ。実在の人物なんですよ)

で、映画のラストでは彼がドラキュラを倒すのだが、そのドラキュラが登場するブラム・ストーカーの原作小説『吸血鬼ドラキュラ』の年代設定は1885年。あれれ、どう考えても設定が合わないじゃないか(小説の発表は1897年。つまり実際のビリー・ザ・キッドはドラキュラなんて知らなかったんだね)

どう辻褄を合わせようもないので、このへんは豪快に無視したんだろう。まあそれもいいか。ウィリアム・ボーダイン監督って、ヤスモノ映画大将軍ジム・ウィノースキーの大先輩なんだろうな、たぶん。

じつは、この監督さんがもう一本見逃せない映画を残しているので、それは次回にでも。

まあこんな映画で、しかもアメリカ製のDVDは最悪の画質だが、それでも見ることが出来るとは、いい時代になったもんだ。

で、最後に、いくらなんでもそれはダメだろうというラストのオチをネタバレですが披露しちゃいましょう。あまりいないとは思うが、これからこの映画を見ようって奇特な人は、この先は読まないでください(笑)

さて、ラストの対決シーン。

なにしろドラキュラだから、ビリーをはじめ西部のガンマンたちがいくら拳銃をぶっ放しても、鉛の弾にはビクともしない。そりゃそうだよね。

で、いったいどうやってこの強敵を倒すのかと思っていたら……

ドラキュラを前に弾丸を撃ち尽くすビリー。

勝ち誇るドラキュラ。

追いつめられたビリーは、苦しまぎれに空の拳銃をドラキュラに投げつける!

その拳銃がドラキュラの顔に命中すると、伯爵はばったりと昏倒!

そこへ襲いかかったビリーが心臓に杭をグサリ。

これでドラキュラ伯爵、一巻の終わりなのだ。

今までに数多くのドラキュラ映画を見てきたが、これほど情けない倒され方は初めて見たぞ(笑)

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