未発売映画劇場「カジノ・ロワイヤル」

イアン・フレミングのベストセラー小説「007」シリーズの最初の映像化が、イオン・プロによる正統シリーズ第1作で1962年の「007/ドクター・ノオ(007は殺しの番号)」ではないことは、以前にこちらで紹介したね。

  007記念週間 初代ボンド秘話

アメリカのTVシリーズ「クライマックス!(Climax!)」の1エピソードとして製作された、この「カジノ・ロワイヤル」は1954年の放送で、正統シリーズの8年も前に実現しているのだ。

「初代ボンド秘話」にも書いたように、この作品、日本ではソフト発売すらない完全未公開。アメリカでも結構レアもので、今回調べてみたらVHSソフトはとうに廃盤、DVDも入手困難で、ともにプレミアがついている模様。

だが、蛇の道はヘビ、なぜかフランスでDVDが発売されていたのでさっそく入手した。いや、米版VHSは持ってるはずなんだけど、わが家のどっかに埋もれてる(笑)

フランス版DVDは、日本での再生にリージョンフリーの機器が必要。画面サイズはトリミングされているし、画質は最悪に近いが、見られることに価値があると我慢しよう。

私フランス語は全然ダメなんですが、これは英語音声にフランス語字幕なので、その点は支障なく見られた。

主人公がアメリカ情報部のジェイムズ・ボンドに変更されているが、大雑把なストーリーは原作と同じ。もちろん、これは1時間番組だったので、かなりダイジェストされている(実質50分弱)が、非常に要領のいい脚色だ。

脚色の巧さは、たとえばボンドが、現場での相棒となるライターと打ち合わせする際に、周囲の目を気にして、バカラ競技のルール説明にかこつけて語るあたり。原作にはモチロンないシーンだが、なるほど、当時(1954年)のアメリカのテレビ視聴者には、バカラはポピュラーでなかったんだな。あ、今でもそうかな。(ちなみに、私はこの小説でバカラのルールを熟知した)

ここに登場するライターは英国情報部員らしいが、原作やのちの正統シリーズの「フェリックス・ライター」が、ここでは「クラレンス・ライター」に改められている。意味あるのか、それ? ボンド氏のほうも、ところどころで「ジミー」と愛称で呼ばれているから、いいのか。

要領のいい脚色とはいえ、やはり時間不足は否めず、肝心のバカラの大勝負が中盤であっさり終わってしまうのは、やむを得ないか。トランプ勝負のシーンは、ひょっとしたら1967年のコロムビア映画版で大パロディの「カジノロワイヤル」よりも短いかも

そして注目したいのは、この作品中に、かの有名なコードネーム「007」が一度も出てこないこと。

まだ原作発表の翌年だし、このころはこの「殺しの番号」は、まったく無名だったんだ。時代を感じるね。

昔どこかに「このドラマは生放送だった」とか書いてあったのをうっすらと覚えているが、今回見直してみて、確かにそうかなと思わせられた。

舞台は、カジノ内部とホテルの部屋、エレベーターホールのほぼ3カ所に絞られていて、スタジオのセットを俳優たちが駆け回れば、充分に可能だっただろう。途中の構成を見ても、全面的でこそないだろうが、たしかに生放送だったらしいことは見て取れる。

いやスゴイ時代だよね、007を生ドラマで撮るなんて

そういえばこのフランス版DVD、途中に放送当時のコマーシャルまで収録されている。察するに、テレビ放送を丸ごと録画したもんなんだろう。このころだから、コマーシャルもナマCM。おかげで番組スポンサーが家電メーカーのウェスティングハウス社だったことまで分かってしまって、なかなか楽しかった。マニアックな楽しみではあるが。

なにはともあれ、この「史上唯一のモノクロ版007」が、貴重品であることは間違いない。で、国内盤の発売は、ないんだろうか?

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