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未発売映画劇場「アステカ・ミイラの恐怖」

かの有名なメキシコ・ホラー映画の名作「La momia azteca(the Aztec Mummy)」であります。日本では完全に未公開で、テレビにもかかったことはないようです(なので邦題はオレ製)

いや、有名なのは、そうとうのスキモノのあいだ限定ですが。私は昔読んだホラー映画の資料本で見かけて知ってました(「アズテックマミーなる人気シリーズがある」と書かれていたのは、さて何の本だったかな?) でもその後にも、なかなかちゃんと見る機会がなく、最近になってやっとどこの国製かも怪しいリージョンフリーのDVDで鑑賞しました。

1957年の作品ですから、すでに60年近く前の映画ですね。今見るとさすがに古臭いのでしょうが、このくらいになるともはやクラシックなので、さほど気にしなくて済みます。おまけにスペイン語(字幕なし)なので、セリフに突っ込みようもなく、ストーリーもおぼろに見えているだけなので、気楽に楽しめてよろしい。

この手の映画では定番の、何考えてるんだかわからない科学者が、催眠術による記憶退行で、前世の記憶を呼び覚ますという、なんの役にも立たない気がする実験を企てます。「教授」と呼ばれていたようなので、どこぞの大学の先生なんでしょうが、そんな姿勢でいいんでしょうか。

その教授の実験計画、学会では総スカンだったので(当たり前だ)、妻(だと思うが)を実験台にして、個人的に実験決行(乱暴な)。

驚いたことに実験は成功し、妻の前世が、じつはアステカ帝国の王女(だかなんだか)だった記憶が再現されます。リインカネーションの定番ですね。

ところが彼女は不倫か何かの罪で生贄にされ恋人の男もミイラの呪いをかけられていたことが判明します。悲惨な死を再体験した妻はパニックに(すぐ立ち直るけど)

で、その記憶をもとに古代ピラミッドの遺跡におもむいて秘密通路を発見すると、そこには(たぶん)莫大な財宝が。

あとはご察しの通り、その財宝を狙うギャングみたいなのが襲ってきて、さらには財宝の守り神となっていたミイラ男がよみがえって、追ってきます。

はい、気楽に見ましょうね。

スペイン語がサッパリでも、ここまでストーリーがわかるんだから、さすがによく出来た映画です。1957年の本作に続いて2本の続編も作られ、さらに後年リメイクまでされたというのも、うなずけます。

なんといっても、モノクロ画面に浮かび上がる「アステカ・ミイラ」の容姿が秀逸。CGどころか特殊素材もロクになかった時代に大変だっただろうとは思いますが、このメイクは一見の価値があります。世界映画史上、数々登場してきたモンスターたちのうちでも、上位にランクできる不気味さです。子どものころに見ていたら、人生で怖かったトラウマ的体験が、確実にひとつは増えるでしょう。

見ていてどうにも納得がいかないのは、アステカの財宝を狙うギャング団の存在。映画冒頭で警察と派手な銃撃戦を繰り広げているのが、のちにこのギャング団だったとわかるのですが、この部分、ストーリーとまったく関係ないぞ。

このギャング団のボスが、最大のマイナス点。ボスのくせに一人で教授の家に忍び込んだりするのですが、なぜか真っ黒な覆面をしているのです。これを「プロレスの覆面レスラーみたい」と形容することは、プロレスファンとして許しません。デザインも質感も、はるかにそれより下等なシロモノだからですね。

まあ、いくらギャングのボスだからって、なんで覆面を? という疑問は、いちおう最後にその意外な正体があばかれることで若干やわらぎましたが、それにしても街中であんな覆面してたら、かえって目立つだろうに。いくらプロレス大国のメキシコとはいえ

そのへんを踏まえると、どうやらこの「アステカ・ミイラ」は、本来子ども向けだったようです。というか、子どもも見るファミリー映画。低年齢層をも観客として意識しているせいか、刺激は少なめで、怖いことは怖いけど、流血シーンはなく、グロやエロもなし。そういえば、深い意味もなく、教授の息子らしき少年がちょろちょろしてました。

ノリや雰囲気が、私が子どものころ(昭和40年代くらいまで)の日本のテレビ特撮ドラマになんとなく通じるものがあるのも道理ですね。そういえば、前に見たミル・マスカラスをはじめとするプロレス映画(ルチャ映画)も、日本の戦隊ものっぽいムードを滲ませていましたっけ。

1957年といえば、日本でも、たぶんメキシコでも、テレビジョンの普及前でしょう。子どもたちはまだテレビに夢中という時代ではなかったので、映画館でこういうのを見てキャーキャー言ってたんでしょうね。なるほどなるほど。

この映画が1957年当時に日本に輸入されなかったのは当然ですが、その後のビデオ時代にいたってもソフト化されなかったのは、モノクロだったせいもあるのでしょうが、こうした内容的な事情もあってのことですかね。

今回これを見て、さらに興味がわいてきました。さいわい、メキシコのこの手の怪しいホラー映画は、あちらではけっこうDVDになっています。シリーズの続編も、見ておこうかな(悪いクセ)

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