見出し画像

帽子の男たち

「ボルサリーノ」って映画がある。1970年のフランスとイタリアの合作で、アラン・ドロンジャン・ポール・ベルモンドの大物スターコンビが、1930年代のマルセイユの暗黒街で伸し上がるギャング映画。私は情緒的なフランス映画は苦手なほうなんだが、この作品はわりとカラッとしていて面白かった。覚えやすいテーマ曲もお気に入りだ。

で、この映画のタイトルである「ボルサリーノ」ってどういう意味か知ってる?

フランス語の原題も「Borsalino」なんだが、原作小説のタイトルは『Bandits à Marseille(マルセイユの山賊)』 映画の内容からして、このタイトルのほうがピッタリな気がする。なのに、なんで「ボルサリーノ」なんてタイトルになったのか、映画を観てもこのタイトルの説明はでてこない。

公開当時のことを覚えている人ならご存じのとおり、ボルサリーノというのはイタリアの帽子メーカー。1857年にジュゼッペ・ボルサリーノによって創立され、160年余を経た現在でも職人の手作りによるソフト帽を製造販売している。もちろん日本でも買える。安くはないけど。

ドロンとベルモンドのご両人が被っているのが?

で、そのボルサリーノの帽子だが、はたして映画「ボルサリーノ」の主役二人が被っていたのが、このメーカーのものだったかは定かでない。なのにこのタイトルになったということは、タイアップでもあったのかな?

ちなみにこのボルサリーノの帽子、アニメ版「ルパン三世」では、ルパンの相棒・次元大介の帽子って設定になっているそうだ。

映画の登場人物で帽子が不可欠の人といえば、「エルム街の悪夢」(1984年)の殺人鬼フレディ・クルーガーであろう。

これは続編

ご覧のとおりで、右手のカギヅメと、赤と緑の横縞のセーター、そして茶色の中折れ帽がレギュラースタイル。最初の映画がヒットしたために数多くの続編やリブート版が作られ、またパロディや偽物、そして日本のリングには同名の怪奇派プロレスラーまで登場したが、そのいずれもがこのスタイルを踏襲している。このスタイルさえ決めていれば、誰でもフレディになれるっとことだ。

そういえば、同時期の「13日の金曜日」のジェイソン、「悪魔のいけにえ」のレザーフェイス、「ハロウィン」のブギーマン、「チャイルドプレイ」のチャッキーといったスラッシャー・ホラーの人気キャラたちも、同様に固定した衣装が売り物だった。こうしてアイコン化すれば、映画を作る側にも観る観客側にも簡単に認識できるってのが、便利なんだよな。

日本映画で帽子スタイルが定番になっていたといえば、名探偵・多羅尾伴内を演じた片岡千恵蔵のキャラクター作りが思い出されるところ。1946年の「七つの顔」から大映と東映で合計11作が作られた人気シリーズ。

多羅尾伴シリーズ第11作「七つの顔の男だぜ」(1960年)

変装の名人である多羅尾伴内が最後にすべての変装を解いて正体を明らかにする名シーンで(しかしてその実体は……正義と真実の使徒、藤村大造だ!)、必ずこの帽子スタイルなのがお約束。これはのちに小林旭が主演したリメイク版(1978年)でも踏襲されていた。そういえばこの変装解除シーンの出だしとしてあまりにも有名な「ある時は片目の運転手」の怪しげな運転手もよくハンチング帽(わかるかな?)をかぶっていたっけ。やはり多羅尾伴内には帽子は欠かせないようである。

片岡千恵蔵のもう一方の当たり役といえば、やはり金田一耕助だろう。1947年の東横映画「三本指の男」から7作が作られたが、そこでの金田一探偵も多羅尾伴内と同じく帽子スタイルだった。いうまでもなく横溝正史の原作小説の金田一耕助はそんなスタイルではないのだが、まぁそれはそれで構わないだろう。

金田一耕助が原作どおりのスタイル(シワだらけの単衣の着物と羽織によれよれの袴、形の崩れた帽子)で映像化されるようになったのは、1976年の「犬神家の一族」が大ヒットし、石坂浩二が演じた金田一耕助のスタイルが定着して以降のことだ。

石坂版金田一耕助

この金田一氏が愛用していると思しき帽子は、原作では、お釜帽、パナマ帽、中折れ帽などと書かれていることが多いが、はじめてこの映画を観た時は、当時ちょっと流行っていたチューリップハットだと思っていた。まあそう変わらないものだがね。

登場人物のほとんどが帽子を着用している映画ジャンルがある。

「荒野の七人」(1960年)

そう、西部劇(ウェスタン映画)である。この写真は私がもっとも愛する西部劇である「荒野の七人」だが、7人全員がきちんと帽子をかぶっている。開拓時代の西部では当たり前のことだったんだろう。「荒野の七人」では主役のクリスを演じたユル・ブリンナーは、映画全編で、まったく帽子を脱がないくらいだ。スキンヘッドが売り物のブリンナーだったからなのだろう(本当はワンカットだけ脱いでいる。さてどのシーンでしょう?)

彼らがかぶっている帽子は、もちろんウェスタンハットで、カウボーイハットなどと呼ばれることもあるが、どうやらテンガロンハット(ten-gallon hat)というのが一般的なようだ。水が10ガロン入るからそう呼ぶのだとよく聞くが、10ガロンは37.85リットルにもなるので、実際には無理。この呼称の語源には諸説あるらしい。

西部劇好きな私は、少年時代にはテンガロンハットが欲しかったものだが、狭い日本の現代社会ではあの広いツバは邪魔にしかならないだろう。マガイモノは買ったことがあるが、そもそも似合わなかったこともあって、実際にはほとんどかぶらなかった。もちろん本物のテンガロンハットはとても高くて買えなかったもんだよ。

そんな私がぜひとも欲しかったのが、この帽子。

なんてカッコイイんだ

「007/ゴールドフィンガー」(1964年)に登場した、ゴールドフィンガーの用心棒オッドジョブが着用していた山高帽だ。

この帽子、ツバに鋼鉄の刃が仕込まれていて、投げつけると相手の首を吹っ飛ばすという物騒な殺人ハット。石の彫像の首も切断するんだから、相当の破壊力だ。いかにも映画的なこのギミックだが、じつは映画オリジナルではなく、イアン・フレミングの原作小説にもちゃんと出てくる。

小説版でのゴールドフィンガー氏の説明によれば、この殺人ハットはどうやらオッドジョブの手作りだそうで、使用後のメンテナンスも彼がやっているらしい。じつは意外に器用で、針と糸できちんと直せるとか。しかし、あの巨体のオッドジョブが太い指でちまちまと裁縫してる姿を想像すると、なんかほほえましい。

こうした隠し武器みたいなのは男の子は大好きなものなんで、私もひとつ欲しいと思うのだが、しかしあの鋼鉄のツバの重量を考えると躊躇する。やはりあれを支えるには、オッドジョブのような鍛え上げた太い首がなければ無理だな(いうまでもなく映画でオッドジョブを演じたハロルド坂田はホンモノのプロレスラーだ)

そういえば、この時代(1960年代の前半)には、ショーン・コネリー演じるジェイムズ・ボンド氏も帽子着用だった。おもに中折れ帽だったと思うが。ほらあのオープニングの「銃口に向かってドカン」も「ゴールドフィンガー」までは帽子姿だったし、Mのオフィスに来ると帽子掛けに向かって帽子を投げるのが定番だったね。

ガンバレル・シークエンス

令和の日本、もはや帽子は日常のファッションアイテムではなくなった感もあるが、じつは私は普段からけっこう帽子をかぶっている。アポロキャップだけど。ハ✕隠しだろうって?…………正解(笑) 

映画つれづれ 目次


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?