未発売映画劇場「権力と陰謀」

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この「権力と陰謀」はテレビのミニ・シリーズで、アメリカでは1977年9月に全6話が6夜連続で集中放送された。

日本では翌年になってNHKがプライムタイムで6週にわたって放送。放送時には「権力と陰謀/大統領の密室」とサブタイトルがついていた、と思う(原題も「Washington: Behind Closed Doors」とサブタイトルつき)

ミニ・シリーズというのは、アーサー・ヘイリーのベストセラーのドラマ化「ルーツ」が先鞭を付けたもの……と思っていたが、「ルーツ」は「権力と陰謀」と同年の4月にアメリカで放送されていたんだね。日本では「ルーツ」が初めてアメリカと同じ連夜放送を行なってインパクトを残したので、「ルーツ」がミニ・シリーズのルーツだと思われていただけのようだ。実際には、アメリカでのミニ・シリーズは1970年代の初めごろから作られていたそうだ。

ミニ・シリーズの定義はいろいろあるが、要するに毎週1回、同じ曜日同じ時間に放送する従来のシリーズものとは違って、集中的に連日放送する長尺ものということになる。当然、製作予算も大きくなり、宣伝なども大がかりになるわけだ。

この「権力と陰謀」もそうしたモノだったわけで、ニクソン政権の大統領法律顧問や内政担当補佐官で、ウォーターゲート事件のキーパーソンだったジョン・アーリックマンが政権の内幕を暴露した『ザ・カンパニー』(1976年) を原作としている。まだホットだったニクソン政権の内幕をモデルにした、ポリティカル・フィクションなのだ。

アメリカ合衆国第37代大統領であるリチャード・ニクソンってのはいろいろ面白い話の多い人で、けっこう映画のネタになったりもしている。1995年にはオリバー・ストーン監督がそのものズバリの「ニクソン」という伝記映画を作り、アンソニー・ホプキンスがニクソンを演じた。

そのニクソンがウォーターゲート事件の責任を取って辞職したのが1974年8月。「権力と陰謀」の放送はそれからわずか3年後のことなので、まだ記憶に新しい事件だったわけだ。

そりゃあ話題になるであろうことは誰でも予想できるし、ミニ・シリーズという金のかかる製作にもゴーサインは出しやすかっただろうね。

現実のキューバ危機からウォーターゲート事件までを間近で見、それを小説に仕立てたアーリックマンの原作だけに、ポリティカル・サスペンスとしてのスキャンダラスな迫力は満点だった……ように思う。その後ソフト化もされてないので、昔見たときの印象しか残っていないもんでね。(アメリカではDVD発売がされている)

主人公のCIA長官がクリフ・ロバートソン、大統領にジェイソン・ロバーツ。この二人の確執と権力闘争が軸となり、ドラマは進む。首席補佐官にロバート・ヴォーンが扮し、ほかにもステファニー・パワーズジョン・ハウズマンといった劇場映画並みのキャストだ。

それにしても、ニクソンをモデルとした大統領(ニクソンじゃなくてモンクトン)をジェイソン・ロバーツに演じさせたのは、なかなかの皮肉だ。

というのは、ロバーツはこの前年の1976年に公開された劇場映画「大統領の陰謀」にも出演していたからだ。

こちらはウォーターゲート事件を報道してニクソンを辞職に追いこんだワシントン・ポスト紙の2人の記者の手記をもとに、その調査、追求の一部始終を描いた映画なのだが、そこでのロバーツの役は、2人の記者を叱咤激励して特ダネにこぎつけた鬼編集長。脅迫や圧力をうけたり、時に空回りする若い記者(ロバート・レッドフォードとダスティン・ホフマン)を、励ましたり庇ったりし、そして圧力は既然と跳ね返す。まさに「頼りになるボス」 この演技でアカデミー助演男優賞を得たのも、当然か。

つまりロバーツはウォーターゲート事件をあつかったふたつの作品で、追う側と追われる側の双方を相次いで演じたわけだ。さすが芸達者な名傍役だけのことはある。

そんなわけで見所も多そうだし、見たときの記憶も薄れつつあるので、国内発売希望……といいたいところだが、しかし、いまこの「権力と陰謀」をソフト化されても、総計750分につきあえるかは微妙だ。当時は生々しかった政権の裏側も、今やすっかり昔話だし。ああ懐かしいなぁ、だけで見るのはちとキツイかも。

ちなみに、このミニ・シリーズのテーマ曲だけは、いまだにクッキリと覚えている。マーチ調のスケールの大きな曲で、作曲はドミニク・フロンティア。私は、たまたま渋谷の「すみや」で見つけた30センチLPのサントラ盤を、今でも大事に持っている。聞けないけど。

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