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未発売映画劇場「サント対女吸血鬼軍団」

メキシコ・ファンタスティック映画の底なし沼を行く企画、いよいよ大物の登場です。サント映画第4弾。日本ではやはり完全未公開。

1962年10月11日にメキシコ・シティで封切られた「Santo contra las mujeres vampiro」 もうタイトルそのまんまの内容。ですが、大ヒットしてサント映画の市場価値を定めた作品なんだとか。

メキシコの、とある古城の地下で、女吸血鬼の一団が200年の眠りから目覚めます。復活した吸血鬼の女王は、生贄のために、200年前に取り逃がした女性の子孫を狙います。その子孫とはオルロフ教授の娘ダイアナ。危機を察した教授は警察に助けを求めますが、もちろん警察は無力。そこで教授は、英雄・サントに出馬を依頼します。

これまでの3作は、いずれもサントと戦うのは人間でした。ギャングであり、密輸組織であり、ゾンビをあやつる悪の博士。ところが今回は、まったく超自然の存在である吸血鬼(と、その手下たち) 当然、サント先生もこれまでとは戦い方を変える……わけがないでしょ

無線テレビ電話で呼び出されたサント、マスクにタイツ、上半身裸のリングコスチュームに、たなびくマント着用で、オープンカーを飛ばして駆けつけると、相手が吸血鬼でもおかまいなしに、殴る蹴る締めるのプロレス技で蹴散らします。強いぞサント、凄いぞサント。

さらっと「無線テレビ電話」とか書いたけど、これ1962年ですからね。当時そんなものが実用化されてるわけがない。でも教授の自宅の書斎には壁にドーンと作りつけのスクリーンがあって、室内アンテナがくるくる回ると、あら不思議、サントの基地に直結。あいにくとサントは留守だけど(試合です) でもご安心、自動的にテープレコーダーが回りだして教授のメッセージを録音。おお、留守番電話だ。これもこの時代にはまだなかったはず。そしてこの電話システム、なんたるスグレモノか、映画後半にはオープンカーで敵を追跡中のサントにも通じるのであります。時代を先取りした自動車電話なのです。

さて、お楽しみのサントの試合シーンは、映画開始から20分以上待たされて、ようやく始まります。なんと90分の映画の中で、タッグマッチ3本勝負をノーカットで完全収録。サントの相棒はブラック・エンジェル(本物のレスラー)、そして相手方に、なんとあのレイ・メンドーサが入っているという豪華版!

伝説の名レスラー、レイ・メンドーサは、メキシコ人として初めてNWA世界ライトヘビー級王座を奪取するなど、この時代はまさに全盛期。来日は一度だけでしたが、メキシコで藤波辰爾と対戦したことも。5人の息子も全員レスラーで、ビジャノ1号から5号のロス・ビジャノスとして活躍し、日本のリングにも何度も上がっています。そんな伝説の強豪のファイトぶりを観戦できるのだから、なんともありがたい。プロレスファンは必見

話を吸血鬼に戻すと、こちらはなんとも不思議で微妙な感じ。

古城の地下で棺桶から目覚めるときは、あのアステカ・ミイラもかくやと思うような、お肌カピカピのグロテスクな風貌。でも人血を一口飲めば、あっという間に絶世の美女に大変身

なぜか古城から出られるのは女王の側近の女吸血鬼ただひとりらしく、彼女が3人の怪力大男を引き連れて、ダイアナに迫るのですが、もちろん、コウモリに変身して飛び回れるのはお約束(タクシーにも乗るけど)

ダイアナの家にやってくると、いつも窓の外から不気味ににらみつけ、念力だか超能力だかで催眠状態に誘いこむ。そうか、吸血鬼のルールとして「招かれないと部屋に入れない」ってのがあったな。ちゃんと踏襲してるのか、えらいぞ。

と思ったが、「鏡には映らない」という吸血鬼ルールは無視。かと思えば十字架を見ただけで自ら発火して炎上するとか、日光を浴びると死んじゃうんだけど月光だと元気になるとか、どうもルール遵守が中途半端ですね。

後半の見せ場として、手下の怪力大男の一人が、黒覆面のレスラーに化けてサントと試合するシーンが用意されている。この怪人を演じるのはフェルナンド・オセス。はい、もともとはレスラーだったのが俳優に転向した人物で、サントを映画界に誘いこんだ張本人ですね。サントの盟友なのか。そういえば第1作の「サント対悪の頭脳でも黒覆面だったっけ。

道理でけっこう強く、3本勝負の1本目を奪取してサントをピンチに追い込む黒覆面のオセス選手ですが、その後サントがリンピオ(善玉)にあるまじきマスク剥ぎの暴挙に出て黒覆面を奪うと、なんとその正体は! これはけっこうビックリ。てっきり吸血鬼かと思っていたら、別種類のモンスターだったんですね(試合はノーコンテストになった模様)

狙われる娘ダイアナを演じるのはマリア・デュヴァル(María Duval)清潔感あり、それでいて色気もあるなかなかの美形。余談ですが、女吸血鬼軍団も女王(ロリーナ・ベラスケスLorena Velázquez)や側近(オフェリア・モンテスコOfelia Montesco)をはじめ、本格的な美女ぞろい。ラテン系美女に弱い私が、本作に限らずメキシコ映画に惹かれるのはこれも一因なんでしょうかね。

さて、今回入手したDVDはアメリカ製。英語吹き替えなので、スペイン語版よりはだいぶわかりやすかったのだけど、吹き替え音声のクオリティが悪くて、聞き取りはけっこう困難でした。

ご覧のとおりで、英語タイトルは「Samson vs. the Vampire Women」 サント(SANTO)がなぜかサムソンに変えられている。劇中でも吹替は「サムソン」と呼んでいるけど、プロレス会場の観客のコールは「サント」 どっちだよ(笑)

それにしても、なぜ「サムソン」に変えたんだろう(アメリカでの劇場公開時からそうだったらしい) やはり「聖人」はキリスト教的にはまずいのか、いやいやメキシコだってキリスト教国だよな

東宝の怪獣「ラドン」が「ロダン」に変えられたようなものか、いや違うような気もするし、謎だな

いろいろ書きましたが、映画自体はけっこうテンポが緩く、見ていてじれったくなるような出来栄えではあります。まあこれがメキシコ風味なのかもしれんが。

とはいえ、サント+ファンタの典型を作った歴史的作品として、一度は見ておくべき映画だった(私にとっては)と思っておきましょう。

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