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未発売映画劇場「笑いの世界」

今回の映画は、ほとんど謎だ。まずは、現時点ではっきりしている点を挙げよう。

1)公開時期は、1970年も3月15日から同年9月13日までの183日間のみ。それ以降は上映された痕跡がない。

2)公開館数は、1館のみ。他の劇場等でかかったことはない。

以上である。

そしてもう1点、私は間違いなくこの映画を見た

公開時期を見てピンときた人もあるだろう。

そう、1970年に大阪で開催された日本万国博のパビリオンで上映された映画なのである。

前に「1970年のこんにちは」に書いたように、万博小僧だった私はそこでいろいろな映像展示を見た。そのなかでもいちばん面白かったのが、この映画「笑いの世界」なのである。

といっても、内容の細かいところはまったく記憶にない。いやそもそも、あの映画がほんとうに「笑いの世界」というタイトルだったかすら、アイマイなのである。

間違いないのは、万博のガスパビリオンで上映されていたこと。

ガスパビリオンとは、その名の通り、日本ガス協会が提供した展示館。日本中のガス会社と関連企業が参加したこの展示館が、なぜ「笑い」をテーマにしたかは知らない(笑) つぶれた豚のような形のユニークな展示館は、たしかに見ただけで笑いを誘ったが。

ガスパビリオンの雄姿(笑)

展示の目玉は、抽象画の世界的巨匠であるホアン・ミロの壁画「無垢の笑い」で、この壁画の完成のために、ミロ本人が開幕前の会場を訪れ、自ら仕上げをしたという話題もあった。

そのほかにどんな展示があったかはよく覚えていないが、映画はその展示のクライマックスだった。

巨大な多面スクリーンで、笑いをテーマにしたコメディっぽい映画が上映されたのだ。

映画の内容もまたよく覚えていないが、たぶん上映時間は10分くらい。当時人気のクレージーキャッツが出演していた。

テレビの「ゲバゲバ90分」で人気が出て流行語にもなっていた一発ギャグ「あっと驚く為五郎!」が使われていたのも、印象に残っている(ただし音声だけで、後半の「為五郎」もカットされていたと思う)

よく覚えているのは最後のシーン。

この部分はクレージーキャッツは出ていなかった。真っ白なセットの中央に美女(だったんだろう)、左右に二人の男が立っている。中央の女性の前には赤ん坊。登場人物はこの4人。

男二人は美女をめぐる恋敵同士。で、何をしようとしたのか知らないが、二人の男は美女へと近寄っていく。

そのとたん、向かって左側の男が、スッテンとぶざまに転ぶのである。

思わず笑いだす二人の男。

そこでナレーション。

転んだ男は、美女の前で醜態をさらした悔しさをゴマかすために笑った。

恋敵のほうは、自分が優位に立ったこともあって、恋敵の男を嘲笑した。

それと同時に、二人の顔が、歌舞伎の隈取りのようなメイクに変貌する。

二人の笑いは、純粋な笑いではなかったのだ。

それに対して、この騒動を見ていた赤ん坊の笑顔はどうだ。赤ん坊は、利害も優劣もなく、ただ純粋な笑みを浮かべている。

これこそが「無垢の笑い」だ。

「そしてその笑みを描いたのがこれだ」というナレーションとともにスクリーンが動き、巨大な壁画「無垢の笑い」がドーンと出現するのだ。

当時小学6年生の私にも、強いインパクトを残したショーだった。

壁画「無垢の笑い」は、現在も大阪の国立国際美術館できちんと展示されているそうだ。

ところが、その壁画とセットで展示のメインを飾っていたはずの映画「笑いの世界」については、いまやほとんど記録も残っていないようなのである。ネット検索してみたが、カチッとした記録がないのだ。だから、正確な上映時間もキャストやスタッフも記録もない。

調べた限りでは、監督は木下亮だったというネット記事があったくらい。原節子を叔母にもつという監督さんで、劇場映画では後年、1982年の「飛鳥へ そしてまだ見ぬ子へ」や1986年の「子象物語」などを監督していて、主にテレビで活躍した人のようだ。記事によればクレージーキャッツの映画で助監督をつとめた経歴もあるそうだ。同じ記事に、東宝の喜劇シリーズで多くの製作をした金原文雄が製作したともあるが、どちらもソースが不明で、真偽の確かめようもない。

ただ、当時ガスパビリオンで配布していたらしきパンフレットを掲載したサイトがあって、そのパンフレットに貴重な記載があった。

企画協力者のなかに渡辺晋の名があったのだ。

当時の芸能界に君臨していた最強帝国「渡辺プロダクション」通称「ナベプロ」の総帥だ。他にもナベプロ関連の名がちらほら。そう、クレージーキャッツも、ナベプロ所属。

なるほど、展示の企画自体にナベプロが一枚噛んでいたのなら、人気者クレージーを映画に登場させることも可能だったわけだ。なんか腑に落ちたぞ。

とはいえ、はっきりしたのはここまで。

最大の謎は、現在、この映画がどこにあるのかないのか、わからないことだ。

70ミリ作品だったそうだが、なにしろ50年近くも前のこと。プリントは今も残っているのだろうか。あるとしたら、勧進元のガス協会が死蔵しているのか、あるいはナベプロが押さえているのか。

わずか10分ほどのフィルムだが、それなりのクオリティはあったと思うし、何よりも万博という文化史上の大イベントの証拠品でもあり、また今も人気のあるクレージーキャッツが出演している「幻の作品」なのだ。

どこかで、上映会なりソフト化なり、できないものだろうか。なによりも、私が一度再見してみたいぞ。

「探偵ナイトスクープ」にでも頼んでみるか(笑)

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