負の感情に向かい合うこと。

松戸市のVtuberとフェミニスト議員連盟の流れを見て、何でこうなるのだろうと色々考えていました。
個人的には自転車のルールをアピールしたい主対象が若い世代なら全然ありだと思いますし、あれを見ても全く性的な印象は受けません。嫌悪感を感じることもありません。
なので議員連盟のしたことは行き過ぎだと捉えて、反対の立場です。
人間の感情が入り混じる話だったので、そもそも感情についてよく分からないでいる方も少なくないのかなと思います。それぞれに正義や倫理観はあるのですが、それを惹起する感情はどのように繋がっているのでしょうか。


人間は感情を有する動物です。
ほぼ全ての哺乳類の動物には原始的な感情は備わっており、MacLean(1990)は感情を大きく情動(emotion)高等感情(feeling)に分類しています。福田(2008)は『感情の階層性と脳の進化』で感情についてを脳機能の点から述べています。

①情動
情動は原始情動基本情動に分類されます。
原始情動は身体の維持によって誘引され、多くは『快・不快』で説明される情動で、爬虫類から備わると言われます。
基本情動は個体の存続・遺伝子の存続に関わる情動で、個体の生存に必須な『喜び、恐怖、嫌悪』と、遺伝子の存続に伴った『愛・受容、怒り』があります。

基本情動が大きく2つに分かれる理由は対象の存在によります。個体の生存に必須な感情は対象が決まっていないのに対し、遺伝子の存続に伴う感情は基本的に同一種族に対象が向きます。
情動自体は身体や個体の維持と存続(生存)、遺伝子の存続(繁殖)に関わる感情であり、動物として必ず持っている感情と言えます。
生存に関わる感情は主に危険察知と回避(嫌悪、恐怖)、成功体験の学習に繋がる(喜び)感情です。
一方、繁殖に関わる感情は同一種族を対象としており、繁殖行動としての求愛を受け入れる(受容)、家族集団として愛し合う(愛)、侵入体験に対して拒絶する(怒り)感情になります。

性描写に対して嫌悪感を感じる女性が少なからずいるのは、性的な侵襲を連想させられ、危険として察知するからと考えることができます。


対して、社会生活を営む哺乳動物が持つ感情についてはさまざまな論議があります。文献を調べても何種類かあるのですが、今回は福田らのまとめた文献を元に考察します。

社会生活については人だけが営むものではありません。霊長類の動物は社会集団を形成することが多く、ヒトとは異なるものの、社会生活を営んでいます。
社会生活を形成する上で必要とされる感情を高等感情と呼びます。複数の対象から構成される集団内外で生じる感情という点が情動との大きな差です。

②高等感情
福田は高等感情を社会的感情知的感情に分類しました。

動物が群れ(社会的集団)を作るようになると、集団を維持しながら、その中で生きていくことが重要になりました。当然ですが、集団の規模が大きくなればなるほど、個体間での衝突や他の群れとの縄張り争いなど、たくさんの社会的問題が生じるようになります。
複雑な集団の中での社会的問題解決のために行う社会的操作を社会的知性と呼びます。この社会的知性を示す行動には欺き、裏切り、注意の操作、協同、同盟、連合、援助、支持、好ましさ、模倣、遊びとしてのふり、共感などがあります。これらは言葉がなくても(非言語)成立します。これらの知性が発生し、それに伴った感情が生まれたとParkinson(2006)らは述べています。

欺き、裏切り、注意の操作は効率的に罠などを用いて獲物を獲得することや、外敵から身を守るために生じた知性です。
協同、同盟、連合は集団を構成する行動であり、それを強化するために援助、支持、好ましさ、共感などの社会的知性が確立しました。
これら全ての行動は『集団』に関連するため、自分と相手以外の第三者が存在します。これを安定させるため、『顔』を認知する能力を獲得したといわれます。

これらの社会的知性は罰と報酬で強化されます。この罰と報酬に基づいて生じる感情が、愛情、嫉妬、罪、恥などの社会的感情です。
集団を構成する際に、同族への愛情は集団構成を強めます。罪や恥の感情は集団内での不適応行動を律することに役立ちます。
嫉妬については他の集団に対して働くと同族の結束を高めますが、同族内で発生すると集団を分離する方向に動くことは特徴と言えるでしょう。

文明が生じ、文字が作られ、『言葉』を残すことができるようになると、社会的感情を律したり、促したりする知恵が集積されるようになります。この集積が道徳や哲学を生み出し、知的感情が生じるようになります。
社会集団は大規模になり、小さな部落から国を形成するようになると、知らない人達が大勢で集まって生活するようになります。
支配と被支配の概念が生じ、ヒト同士の関係も同盟と裏切り、表面的な友情など、複雑な関係が増えるようになります。一方で積み重なった記録から因果関係を推測できるようになり、正しいと思われる存在を神として敬う宗教的な信仰心も生まれます。宗教の違いは知的感情の違いを作ることにもなります(キリスト教; 神への愛、仏教; 慈悲)。
さらにヒトは過去の記録を振り返り、未来を予測しようとするようにもなりました。ここから生じる感情は過去への後悔と未来への不安です。そもそも時間と言う概念は人間以外の動物は明確に持っていません。


◆負の感情のメカニズム
今回、感情についてをこれだけ細かく書いたのは理由があります。
それは、フェミニスト議員連盟の行動が、様々な負の感情をごちゃ混ぜにしているなと感じたからです。

Vtuberを見て、彼女達が最初に感じた感情は『嫌悪』であると思われます。
男性からの性的な視線に晒されることへの危険を極度に強く感じがちな彼女達からすると、危険回避のための感情である嫌悪が生じることは予想しやすいことです。
そして、直接体験ではないので非合理的ではあるのですが、嫌悪から性的な侵入体験を強くイメージし、『怒り』に変えたと考えることもできます。

そして知性的行動として、罰したいと考え、『』を与えようと抗議活動に至ったと言う流れになると思います。

これらの流れを本来律したり、コントロールしうるのは知的感情の部分になるのですが、知的感情は『正しいと思うもの(神)』の存在で大きくバイアスがかかります。フェミニストを自称する人々にとってフェミニズムはある意味、信仰対象に近しい存在なので、フェミニズムの理屈に則った因果関係を推測します。
ただ、フェミニズムそのものが一人一派のようになり、個人的な価値観に基づいて動くことが多いため、嫌悪と言う強い原始感情が惹起された場合は自分の原始感情に忠実な判断を『神』が与えたと錯覚して行動しやすいのではないでしょうか。

『カルトとは何か』の記事を書きましたが、自分の感情や思考を裏打ちする都合の良い情報を人は求めます。それらを満たしてくれる場所が宗教やフェミニズムであることが多いと考えることもできます。

同じ属性の人達のみに囲まれることは、感情に任せた行動を個々で律することなく、正常なことだと誤認する(正常化バイアス; 「赤信号はみんなで渡れば怖くない」のような誤認)、自分達の正しさの理念に従うよう圧力をかけたくなる(同調圧力)行動に繋がりがちです。

自分達の正しさ以外の正しさを知ろうとすることは、こういった危険を減らすためには必要な行動であり、知性の拡充だと思います。
信じるものに盲目的になりすぎることは危険を伴いますね。

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