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クリームソーダとおばあちゃんの話

 千葉県我孫子市に住んでいる母方の祖母のことを、「我孫子(あびこ)に住んでいる」「ばーば」で、「あびば」と読んでいる。あびばは、とっても、さばさばした人だ。

 久しぶりに会ってハグをしようとすると、「あー気持ち悪い」と言って嫌そうな顔をするし、電話で話をした後、「またね、元気でね」などと別れを惜しんでいると途中でプチっと切ってしまう。小学生の時、ソフトクリームを一口あげるといって渡したら、私が舐めた部分を丁寧にスプーンで削りとってから、「綺麗に」なった面をほじって食べていた。

 一方で、私たちが遊びに行くと必ず大好きなグラタンを用意しておいてくれる。中学受験の時、私と双子の兄弟が志望校すべてに落ち、ギリギリで願書を出した学校の合格発表の日には、母と一緒に教会でお祈りをしてくれた。一見冷たく見えるけれど、私たちにたくさんの愛情を注いでくれている人だ。
  
 そんなあびばは、メロンクリームソーダが好きだ。小学生の時、家族でファミレスに行った際、自分で頼むのは恥ずかしいからと孫の私たちに注文させていた。季節を問わずいつでも、スーパーカープのバニラと三ツ矢サイダー、かき氷のメロンシロップが家に常備されていて、遊びにいくと必ず「メロンソーダあるよ」とすすめてくれる。

 先日、久々にあびこばーばに会いに行った。急な訪問だったけど、焼きめしを作ってくれて、私がお土産に持って行った今半のコロッケと一緒に食べた。

 今年、92歳になるあびばは、食が細く、びっくりするくらい痩せている。けど、この日は「おさむ(同居している息子)がイオンで買ってきたコロッケよりもたくさん肉がはいいてる。ほんとおさむは変なもんばっかり買ってくる」などとブツブツ文句を言いながら、げんこつくらいの大きさがあるすき焼き入りコロッケを二分の1個とコーンクリームコロッケを一口平らげた。私もお手製の焼きめしがおいしくて、山盛り2杯おかわりした。2人ともお腹がいっぱいになって、苦しい、苦しいと言いながらテレビドラマの「相棒」を見つつ昼寝した。

 目をさますと、あびばが「メロンソーダ飲む?」と聞いてくれた。実はこの日、家についてから4回目のオファーである。1年程前からダイエットをしている私は、甘い飲み物をあまり飲まないようにしている。甘いものは大好きだけど、「せっかく同じカロリーを取るなら、ケーキとかパフェとかを食べたい」という食い意地から、飲むものは基本、水かコーヒーだ。昼ご飯を食べ過ぎたこともあり、お腹は未だに張り裂けそうだし、砂糖の塊である三ツ矢サイダーに、さらにアイスとシロップを入れると考えると恐ろしい。でも、私は、理性を無視して「わーい!飲みたい」と返事をした。

 見慣れたコップに、メロンシロップと、すこし気の抜けた三ツ矢サイダーが注がれる。そこに、スプーン1杯分のバニラアイスをそっと落とす。あびばの料理は、いつもゆっくりで、じれったいほど丁寧だ。

 アイスが入り、あふれそうになった泡をすすりながら「おいしい!」と言うと、すこし満足げな顔で「そりゃーよかった」とあびばが笑った。

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