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誰も教えてくれない、実力も運のうち~前編

「実力も運のうち 能力主義は正義か?」の本を読んだ感想文です。
少し論文調の本で難しい部分もありますが、社会構造を理解するのにとても考えさせられる本でした。

特に格差の問題に関心がある方は、読んでおくべき本だと思います。



結論

私たちは、

・自分の力だけで頑張って生きているわけではないこと
・才能を認めてくれる社会に生まれていることは幸運であり、自分の手柄ではないこと
を認めるべきである
・謙虚さが、私たちを分断する冷酷な成功の倫理から引き返すきっかけとなる

現実社会では、分断が生まれており、能力主義を重視する人々の考え方には矛盾が生じる

約330ページで分厚い内容の本ですが、内容を早く知りたい方は著者が登壇しているYoutubeのTED動画をおすすめします。


能力主義を考える1つの事例


アメリカの、不正入学事件

↓詳細は、こちらのドキュメンタリーをご覧になると事件とその過程の詳細が分かります。


それだけ、有名大学に入ることが、価値あるものとして認められているのです。


能力主義(勝者)の考え方

著者が中国の大学で講義をしたときの大学生の回答
iPhoneとiPadが欲しいために、腎臓を売った10代の若い中国人の話
→10代の若者が、自由意思で腎臓を売ることに同意したのであれば、彼にそうする権利がある
vs. 富ある者が貧しい者から腎臓を奪い、命を長らえるのは公正でない
→裕福な人々は自分で富を築いたのだから、報酬を受ける資格があり、したがって長生きするに値する。

こうした発言は、ハーバード大学の教え子と同じく、競争的な市場社会を背景にした競争的な入学試験の勝者。自分の成功は何らかの恩恵のおかげだ、という考え方に反発し、社会のシステムが努力と才能に与えるあらゆる報償は自力で勝ち取るものであり、自分は勝者だからそれに値するという考え方

過去40年、能力主義への転換の特徴は、能力主義の過酷な側面を示す。

過酷な側面とは、個人の責任(社会保証制度も企業や政府から個人へ転換)、上昇志向(懸命に努力し、ルールに従って行動する人は出世に値する)。

賢い(smart) VS 愚か(stupid)

ブッシュJr.大統領の時代頃から、この2つの単語が演説で使われる頻度が高くなった。
特にオバマ政権では、オバマが外交や政策について触れるときはこの言葉を使う頻度が高い

エリートたちは、賢いと愚かをめぐる執拗な語りに現れる傲慢な態度に気づかずにいた
人種差別や性差別は嫌われているが、学歴偏重主義は容認されている差別

とある研究結果

大学教育をうけた回答者は、差別の被害者になりやすい人々(イスラム教徒、西欧に住むトルコ系住民、貧しい、太っている、障害をもつ、低学歴…)にどんな態度をとるか調べると、教育水準の低い人々がとりわけ嫌われている

・高学歴のエリートは学歴の低い人々よりも道徳的に啓発されており、したがってより寛容である、という考え方に異論を唱えている=高学歴のエリートも偏見にとらわれている
・こうした偏見に対して、非を認めようとしない
・非を認める恥の感覚が欠如する理由は、能力主義に基づく自己責任の強調にある
→前述した中国の大学生の発言と似たような考え方
・学歴の低い人々に不利な評価は、エリートのものだけではない。学歴の低い回答者自身が、それを共有している。=「学歴の低い人々は学歴の低い人々自身でさえ、自らの状況に責任があり、非難に値すると見なされている」
筆者注) 日本の「Fラン大学」という考え方も似ているのではないか
・大学へ行く重要性を執拗に強調すれば、大学の学位を持たない人々の汚名を強めることになる

能力主義vs 封建主義

江戸時代の士農工商時代(本の中では、貴族の封建制度を例えとしている)
→身分は決まっていて職業選択の自由はない。が、
今の能力重要視される時代。従属的な地位にあるのは自分の責任だと考えて苦しむ必要はなくなる。反対に身分の高い家に生まれたら、自分の特権は自分の手柄ではないことが分かる。
→貧しいことは自信の喪失につながる。成功すれば自力で達成したという自信につながる

能力主義の社会が実現したとき

・能力主義の理想にとって重要なことは流動性であり、平等ではないこと(金持ちと貧乏人の格差は問題視しない)
・能力主義社会では、成功のはしごを上る平等な機会を誰しもが持っていること。踏み板の間隔がどれくらいあるか?については、何も言わない
・能力主義において努力と勤勉が強調されるのは、適切な条件下であれば、私たちは自分の成功に責任を負っており、だからこそ自由

能力主義の治療法

社会的・経済的経歴に関わらず、才能ある生徒が平等に入学できるようになればいいという徹底的な能力主義

勝者の傷

戦闘に勝ち続ける勝者は、常に傷を負っている=ひそかに蔓延する完璧主義
→能力主義社会に飲み込まれている若者たちの、精神的病を抱える割合の多さが、各研究によって明らかになっている
→若者たちが絶えず、学校、大学、職場によって選別され、ふるいわけられ、格付けされる時代にある

※筆者注) 燃え尽き症候群(バーンアウト)、Tiktokで一時期流行った 「quietquitting」 )で、その事例が見られるだろう

社会を分断させている

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Quiet quittingについて


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