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オーストラリアの職に応募する

今回は、私がどうやってオーストラリアの国立研究所(CSIRO)の職をゲットしたのか、応募のプロセス、面接、そして最終的にオファーをもらうまでの経緯を振り返りたいと思います。


1.書類の作成

「オーストラリアへの移住」のページで、私がオーストラリアでの短期滞在から日本に戻った2008年の1月、私の専門分野の研究員をオーストラリアの国の研究所が募集していたことは書きました。私に与えられた書類を用意する時間はたったの1週間しかありませんでした。それまで海外の職には1度だけ応募したことがありましたが、失敗しています。

まずはオーストラリアにいる、自分を指導してくれた先生に相談しました。私がその時得たアドバイスは、まずは募集要項とポジションの内容(job description)、選考基準(selection criteria)をよく読むこと。前にも書きましたが、オーストラリアの仕事は、基本的にはジョブ型です。いくら有能な人でも、そのポジションと専門が違っていると採用はされません。先生には、「自分が本当にその職に適切であるかどうかをよく考えること。」とアドバイスをもらいましたし、実際に先生にもjob descriptionを見てもらって「これは君にはとても良いポジションだね。」とのお墨付きをもらいました。

そして書類を作成。私のような研究職の場合は、過去の研究業績(論文や研究資金等)を含めた履歴書(CV)、と自分がいかにその職に適しているか及び選考基準を満たしているかを書いたもの(statement against selection criteriaといいます)が必要となります。(大げさに言うと、いかに自分が世界で1番この職に適しているか位書いても良いと思います。というのは、この採用はinternational、つまり世界中から募集していたからです。)また、CSIROについてもどんな組織なのかよく調べました。そうでないと、自分がいかにその職に適しているかを説明できないからです。

Statement against selection criteriaは、どんなスキルや技術を持っている人を求めているか、をよく読んで例を交えながら作成する必要があります。この書類は非常に重要です。選考委員は、この書類を見て応募者を絞り(shortlistするといいます)、面接をするかどうかを決めるからです。このステートメントは、長すぎてもいけないし短すぎてもいけません。選考委員にあなたがどんな人であるかということを効果的に知らせる役目を果たさなければいけません。目安としては、1項目、A4で1ページ位にまとめられれば読むほうにもそれほど負荷がかかりません(選考委員はたくさんの応募書類に目を通さないといけませんので、長すぎると疲れてしまいますし、結局印象に残りません。この書類で、「ふるいにかけ」ているのですから、適度な長さで、「この人に面接をしてみたい」と思わせるものを作成する必要があります。)そのためには、主観的な目ではなかなかチェックが及ばない事もありますから、是非、他者の目から見てもらって、意見をもらってください。私は自分のドラフトを何回も練り直してその後にオーストラリアの先生に送ってコメントをもらい、さらに直しました。そして不備がないかを2度、3度確認し全書類を提出しました。

2.面接

書類を提出してわりとすぐに面接日程に関する連絡がありました。第1関門突破です。書類提出から2週間後ぐらいだったと思います。面接は、私が日本にいますので、オーストラリアと日本をつないでテレビ電話で行うということでした。しかしその1日前になって、テレビ電話のシステムに不具合が生じたのでテレビは使わず電話だけの面接になると通知が来ました。この面接に際しても、準備をしっかりとやりました。まず何を聞かれるかは、selection criteriaに沿ったものであることは間違いないので、自分が提出した内容をしっかりと頭に入れて、想定質問リストを作り(先生にもアドバイスをもらいました)、その回答を作りました。そして英語できちんと伝えるという練習をしました。テレビ電話なら、私の表情が相手に見えますので、微妙なニュアンスが伝わりますが、電話面接は声だけです。とにかく発声、発音もやれるだけ練習しました。

そして面接当日。その日は2月の半ばで日本は休日だったのですが、私は誰も見ていないのにも関わらず、スーツを着込んで自分の研究室で面接に臨みました。そのほうが気が引き締まるからです。面接は、各面接官がシドニー、メルボルン、キャンベラにいてその3者と私とをつないで行われました。予想通りselection criteriaに沿って質問がなされました。面接は約1時間で終わりました(当たり前ですが、通訳なしの英語です)。面接は終始穏やかな雰囲気で行われ、特に厳しい質問はありませんでした。オーストラリアに住む準備はあるかとか、いつから働けるかなども聞かれました。

3.推薦者

日本でもそうだと思いますが、職や昇任試験に応募する時は自分の推薦者(referee)をノミネートしなくてはいけません。自分の上司だったり、恩師だったり、同僚だったり、その時によって適切な人は変わってくるでしょう。大抵の場合、選考委員は面接が終わった後、有力な応募者の推薦者に連絡をして、その応募者が確かな人物であるかどうか、その人となりなどを聞きます。私の場合は応募時点では推薦者を2人ノミネートするように指示があり、オーストラリア人を2名出していましたが、後から追加で、「英語が話せなくてもいいので(こちらに日本語が話せるスタッフがいるから)、日本人の推薦者を出してほしい。」と言われました。そこで日本人の方に推薦者になって頂き、最終的に全推薦者には2月の末までに連絡が入っていたようでした。

4.待機

私の推薦者からも、CSIROから連絡があったよーときかされていたので、ではそろそろ結果が出るかなと思っていました。しかし日本の年度末を過ぎてもなかなか連絡が来ません。1学期は、担当講義もありましたので、もし採用されたらオーストラリアに移住するタイミングはどうなるものかと心配をしていましたが、どうしようもないので待つしかありませんでした。

5.ついに、採用の通知が。

そして、「だめだったかな・・・」と半ば諦めモードに入っていた4月。ついに待っていた採用の通知が来ました。このときのメールの写しはまだ大事に保管しています。嬉しくて何回も読み直しました。

'The Urban Systems Program would like to offer you the role of Research Scientist Transport & Accessibility within our team - we would be delighted to have you join our team - and we think you would bring a very highly valued skill set and research agenda to our broader research portfolio'.
(メールの1部を抜粋、原文のママ)

面接を終えてから最終的に採用が決定するまで時間がかかったのは、CSIRO側の内部事情によるものだったということも説明され、連絡が遅くなって申し訳ないということでした。採用の通知をもらってからの雇用契約や、ビザ取得等はとても速いスピードで進みました。具体的にどのビザを申請してくださいとか具体的なアドバイスをすぐに送ってくれたのでそれに従って移住の準備を進めました。そして海外引越しのサポートもありました。

6.気になる競争率

では、いったいこの国際的なリクルートメント(世界中から募集する職、研究職の場合)はどれぐらい競争的なのか。私は働き始めてしばらくしてから自分のスーパーバイザー(面接官の1人)に実のところ何人応募したのですか、と聞きました。そして帰ってきた答えは複数の国から23 人ということでした。後に私が今の大学で、採用に関わる際にも大抵1つのポジションに20人前後の応募があることが分かったので、この数字はこの種類の職においては平均的なのかなと思います。また、「どうして私を選んだのですか。」とも聞きました。「あなたが1番分野の専門性が合っていたし、それと業績、面接のときの印象で総合的に決めた。」という事でした。

やはり「ポジションへの適合性」は重要です。私も実際今の大学で採用する時に、「まず募集しているスキルに合っているか」を1番重視します。時々関連分野ではあるけれども、「ぴったり」ではない人が応募してきますが、やはり余程の場合でない限り、採用には至りません。ジョブ型採用は、「職場で色々な部署で経験を積んでから徐々に組織内で上に上がっていく」、というプロセスを前提としていないからです。まず募集されている分野の専門性とその高さが決め手になります。もちろん、コミュニケーション能力や、一緒に働いて心地よいかや人柄も重要ですが、それはショートリストされてから、面接や推薦者から提供される情報で判断される事がほとんどです。

7.まとめ:これからオーストラリアで職に応募する人へ

採用する側にとっても、応募する側にとっても効率の良いプロセスになるために、以下のポイントを重視すれば良いのかと思います。

1.本当に自分のスキルや経験が応募する職に合っているか。
2.その組織に自分が成長できる場があるか。入ってからでないと分からない事もありますが、その組織に関する事前のリサーチは必要です。その上で、自分が適切かどうかを判断し、応募書類にも盛り込みます。採用する側も、採用した人が組織内で成長して欲しいと思っていますから。
3.第三者に書類を見てもらう。客観的な目で指摘をもらうことは重要です。
4.できるだけの準備はする。もし採用されなくても、次の機会にこの経験は必ず生きると思います。





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