夫婦の会話
部屋の中で聞く雨の音が好きだ。
途切れずに波打つカーテンのように優しく、穏やかで、自分は安全な場所にいるのだと感じさせてくれる。
私は、深夜の散らかったリビングで、小さくジャズを流しながら寝転がって文庫本を読んでいる。
夫は私の足元で、買ってきたジャンクフードを食べながら、だらだらしている。
まるで、こんな毎日がずっと続くのだと錯覚する瞬間。
この前、バーで日本酒を飲んでいるとき、夫が言った。
「僕の思考を日本語で完璧に表現できないことに、フラストレーションを感じる。
僕が日本語力だけじゃなく、知識も思考も足りないと決めつけている人たちに、悔しい思いをさせられないためにも、もっと勉強したい」
饒舌な夫の話にうなづきながら、私は手元の空になったグラスを眺めていた。
彼はそんな私にふと目を移すと、こう言った。
「でも、たとえ僕が頭の中を正確にヒトミに話せたとしても、きっと全部は理解できないと思う」
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