見出し画像

夫婦の会話

部屋の中で聞く雨の音が好きだ。

途切れずに波打つカーテンのように優しく、穏やかで、自分は安全な場所にいるのだと感じさせてくれる。

私は、深夜の散らかったリビングで、小さくジャズを流しながら寝転がって文庫本を読んでいる。

夫は私の足元で、買ってきたジャンクフードを食べながら、だらだらしている。

まるで、こんな毎日がずっと続くのだと錯覚する瞬間。


この前、バーで日本酒を飲んでいるとき、夫が言った。

「僕の思考を日本語で完璧に表現できないことに、フラストレーションを感じる。

僕が日本語力だけじゃなく、知識も思考も足りないと決めつけている人たちに、悔しい思いをさせられないためにも、もっと勉強したい」

饒舌な夫の話にうなづきながら、私は手元の空になったグラスを眺めていた。

彼はそんな私にふと目を移すと、こう言った。

「でも、たとえ僕が頭の中を正確にヒトミに話せたとしても、きっと全部は理解できないと思う」

ここから先は

857字
この記事のみ ¥ 100

応援していただけると嬉しいです。