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大人になっても、数字が苦手。

家の中を行進しながら、リズムに合わせて大きな声で九九を覚えていた、あの頃。

「数のおけいこ」の中にはたしかに、色とりどりの磁石棒やおはじきが、たのしい世界を描いていたのに。

いつからか、数字を見ると頭が灰色に染まるようになった。

貯金箱の中身を数えているときは楽しいけれど、どうしてそれがみるみる減っていくのか、私には計算できないみたい。

それなのに、大人になるにつれて、数字はどんどん世界を侵食していく。

大学生のころ、働いていたバーでは、「お客さんはお金」だった。

毎日の売り上げを店長に報告するので、今日はやばそうだ、と思うと、「客単価」を上げるためにお客さんにお酒を勧める。

お金を使うお客さんには優しく、そうでないお客さんにはやんわりと「もう来なくていいですよ」。

まるで、人間のおでこに数字が書いてるみたい。

そのあと働いた、消費者金融のコールセンターでは、「お金はいのち」だった。

事業が成功してるときにたくさん借りて、そのあと返せなくなった人たちの、電話番号の山。

淡々と、毎日毎日、電話をかけていく。

「お期日を3日過ぎております」「利子を計算致します」「利子だけでも、けっこうです。何日までにお支払い可能でしょうか?」

となりの席の先輩は、日本野鳥の会でおなじみの、あの銀色のカチカチを指ではじきながら、

「今日は230件、新記録やわ~~」

と言った。

顧客データに「震災後、仕事が激減」と書かれている人のところに電話をかけて「返してください」と言うだけの、簡単なお仕事。

いいです。返さなくて、いいです。
こんなの、ただの数字じゃないですか。誰か今すぐ書き換えて。

数字をただの数字ととらえることができなくて、その仕事は半年で辞めた。

でももう、気づいていた。

社会は、数字でできている。
会社とは、数字を管理し、あやつる場所である。

「お客はお金」と教わったバー時代から、どこに行っても変わらない法則。

「人間は数字でわかる」

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