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ビフォアミッドナイト

コメントでビフォアシリーズのこと書いてくださった方がいて、そういえばギンレイで観てよかったのよねーって思い出した。ギンレイは飯田橋のギンレイホール、今はめっきり少なくなった愛しの名画座でございます。

この作品をいいと思ったのは、自分も同じように歳を重ねたから。だから、若い方が見てよいと思うのかは分からない。舞台がギリシャの保養地からまったく動かず、そこだけで淡々と繰り広げられる夫婦の振り返りでストーリーと言えるようなものはない。若かったらつまらないね(笑)。でも前作を観てる方なら、それなりの感慨を持って観ることができるかも。

まず、主役の2人がしっかり老けてる。劣化してる。若い頃はあんなに透明感のあったジュリー・デルピーが、体も弛んでるしちゃんとおばさん。由美かおるみたいな時間止めてる?っていうお化けじゃリアリティないけど、ちゃんと40年以上生きてきた人の顔してる。わりかし若い頃からダメ男っぽい感じのイーサン・ホークも、これまた普通に歳とってて、ああ、こういう人ってこうなるのねって感じ。

しかし自分もアラフォー。同じ思いをしているわけです。若干、彼らより若いんだけど、まあでも似た様な世代。大体普通の人は、30過ぎた辺りからあれ?って思うよね。何か今までと違くね?って。で、35過ぎるとさらにえ?って思うことが増えて、40になったらもう、お金とかもかかりだす。今まで必要なかった、白髪染めとか、歯のメンテとか。で、今までと同じように食べてたらまず太る。それも、二の腕とか背中とか、果ては胃とか、今まで考えもしなかったようなところに頑固な脂肪がつくよね。すごい頑張って気をつけると落ちてくるんだけど、ちょっと気を抜くとすぐぶよぶよくる。その辺がめっちゃリアルにそのまま。ああ、あんたもそうなっちまったのね!と。

これは夫婦の物語だけど、夫婦関係もこれだけ一緒にいたら、まあ普通は色々あるよね。ずっと仲良しでしたーって人達なんているのかな?ましてや子どもがいたら、お互い相手に期待する事も増えるし、期待すると裏切られた感たっぷりになって喧嘩も増えるし。喧嘩続けてると、もう相手に気遣いとか優しさとかあんま持てなくなってきて、それが普通になっちゃうと優しさとか見せるのすら気恥ずかしくなってくるし。

正直、飽きたりもする。ずっと同じ人だし、もう色々全部わかって知って、まあ信頼はしてるけど新鮮さは皆無と、そうなると他に目がいったりもするし、実際眼だけじゃなくて手が出ちゃう人もいるだろうし。で、映画の中のイーサン・ホークも「あの時どうだったのよ?」と過去の関係を蒸し返されて、結局「はい、してました」と白状しちゃうっていう。この辺も、もうすでに終わった過去のもので、今は一旦落ち着いてるんだし…ってところだけど、女性としては白だったのか黒だったのか、まあ聞きたい気持ちは分かる。黒でしたって言われたら腹立つんだけど。

この映画、少し「2人の5つの分かれ路」と被る。そっちの方が凝ってて、離婚するところから2人が出会った頃までを逆回しで見せていくのもので、それだけで完結してるし、映画として面白いんだけど、ある夫婦の一定のスパンを見せるって意味で重なる。残念ながらそちらは、破局の部分からスタートするのでハッピーエンドにならないことが最初から分かってるし、それだけに出会いの頃の初々しい感じが見ててどんどん切なくなると言う、ちょっとずるい。まんまと乗っかって「あらー…」とか思っちゃうんだけど。

日常の中にある、相手への不満や猜疑心、裏切りの気持ち、そういうのはひとつだけなら耐えられるかもしれない。でも起こったことは決してなくならないし、長い時間の中で積もり続けていく。たった1人の人との関係でも、完璧に良い関係を築くなんて無理で、落ち着いた状態を保つだけだって本当に難しいと思う。人は常に変っていくし。日々揺れ動く心のヒダに触れながら、相手を気遣っていかれればよいのだろうけど、毎日は忙しく、生活は大変で、丁寧に心を見つめるなんて自分のことすらできない。

とまあ、そんなことを思う、アラフォーの私には共感部分が多い映画でした。