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奪いどころ:2023 J1 第30節 アルビレックス新潟×サガン鳥栖

前回対戦時には鳥栖の強烈な新潟シフト守備に沈黙してしまったが、今回は初見ではないのできちんと対策してくるだろうと思っていた試合前。試合としては双方の類似したビルドアップとそれぞれの特徴が良く出た守備戦術のぶつかり合いという内容になった。

それでは確認していこう。まずはボール奪取位置のプロット。一般的に何をもってして奪取成功となるのかよくわかっていないのでセカンドボール回収ではない対人またはインターセプトという定義でプロットしてみた。

右サイドタッチライン際で奪う新潟、ハーフスペースで奪う鳥栖

両チーム綺麗に傾向が分かれていて、右サイドタッチライン際の自陣側で奪う新潟とハーフスペースの高い位置で奪う鳥栖という状況となっている。

新潟のハンターは藤原(25番)で、鳥栖のハンターは特定の誰かということはないのだが高い位置では小野(10番)が目立っている。

鳥栖に関してはもうひとつ、ハーフウェイラインを飛び越して奪いに行くファンソッコというものがあり、これは前回対戦時においては田代の役割でもあった。田代個人のスタイルなのかと思ったら鳥栖というチームのスタイルだった。

シーズン終盤での対戦でも双方の守備の特徴が良く現れていて、これは一戦のみのシフトではなくチームとして洗練させてきた守備戦術と言っていいだろうし、確固たるスタイルになる。鳥栖も本当に素晴らしいチームである。

マリノス戦で効果抜群だった新潟の442ゾーンプレス。
前回対戦時に新潟を完封した鳥栖のマンツーマン。

このように確固たるスタイルを持っている双方の守備戦術、この試合ではどうだったのかということを見ていくと、それぞれが攻撃のストロングを貫き、そのストロングを潰そうとした結果、お互いの持つ守備戦術が最適解だったということになる。

新潟の攻撃はとにかく中央突破である。

いかにしてボランチに差し込むか、いかにして偽9番として落ちてくる孝司や高木にボールを預けるかということを狙いつつ、ゴールに向かえると判断したら縦に速く!という攻撃が基本となる。

この縦に速いボールを中央やハーフスペースで奪うことに注力しているのが鳥栖の守備戦術となり、ブロックではなくマンツーマンのような形が基本となる。マンツーマンでない時は河原をアンカーに残した4132や433のブロックを敷く感じだが、明確なブロックを組むよりもマンツーマンで人を埋めるという形が色濃く出ていた。

なぜにマンツーマンなのか?という話をするならば、モダンサッカーにおけるポジショナルプレー、いわゆる位置的優位と呼ばれるプレーに対してゾーンやブロックで対応しようとすると守備の陣形を壊されてしまうというか守備の陣形を壊して位置的優位を作り出すのがポジショナルプレーになるので、そういう仕組みを上書きで破壊するためのマンツーマンとなる。

サッカーは11人対11人で行うゲームなので各人が相手の誰か1人にベッタリ付いてしまえば、理屈としてはボールの出しどころがなくなってしまう。やれることと言えば(現実にはそんなプレイは発生しないが)スペースにボールを出すかレシーバーがマークを外してボールを受けるくらいになる。

このマークを外してボールを受けるということをする際、攻撃側のボールキープよりも守備側の奪取能力が高ければあらゆる状況でタイマンに勝利することができるので試合を優位に運べるという仕組みで、孝司や高木や太田がマークを外しながら降りてきて後ろ向きでボールを受ける瞬間を左サイドバックの菊地とセンターバックのファンソッコが常に狙っていた。

このように、鳥栖はタイマンに負けないという強い自信があったのだろう。河原の近くにパスを出すとのは怖くてできない雰囲気(プロットを確認しても河原に奪われるようなパスは避けていたのではないだろうか)はあったし、ファンソッコの飛び出しや小野の高い位置でのタックルも絶対に潰せるという自信に満ち溢れたプレイだった。

鳥栖の守備の素晴らしさは個人個人が「絶対にタイマンに勝てる!」というマインドだと思うし、そのマインドを叩き込んで実践できるように仕込んだ川井健太監督の手腕ではないだろうか。鳥栖は本当に素晴らしいチームでリスペクトするしかない。

一方、鳥栖の攻撃は新潟との共通項が多く、全てはボランチの河原から始まると言っても過言ではない。河原がダメならもう一方の手塚と変わって河原が半列上がってマークを外すということをする。新潟におけるヤン島田とかヤン秋山コンビのそれであるが、鳥栖の場合は河原がセンターバックの位置までボールを受けにいく頻度が多く、キーパーとのパス交換で守備を剥がそうとする。河原を3人で囲む守備で対応する新潟という時間帯もあった。そのくらいビルドアップの要となっている河原である。

その河原がボールを握ったらワントップの小野が降りてきてボールを受けて抜群のキープ力で運びながらラインを上げてゴール前に人数を掛けるというのが基本になる。小野は新潟における孝司の役割となるがボールを持った推進力が本当に凄い。新潟がパス交換で前進するところを単騎でモリモリ運んでしまう。

このように、鳥栖に中央から運ばれるとヤバいということになるので中央はなんとしてでも塞ぎたいが新潟には中央に防波堤を張れるほどの守備力はないし、鳥栖ほど自信に満ちた対人守備があるわけでもない。

そういう状況で何が効果的かと言えば幅68mと限られているピッチサイズを最大限に活かしたゾーンプレスとなる。鳥栖のようにタイマンで勝負するのではなく、全員が連動してタッチラインまで追い込んで動けるスペースを消してから奪うというものになる。

鳥栖攻撃のストロングである岩崎サイドに誘導して奪う新潟。

新潟のゾーンプレス、プロットからも明らかなようにとにかく鳥栖の左サイドに追い込んで藤原神が奪い切るということをやりまくっていた。

ここまで藤原サイドに偏っているということは新潟は左サイドで推進力を出してくるであろう岩崎に敢えて誘導して藤原神に潰してもらおうという狙いがあったに違いない。岩崎とタイマンで勝つか岩崎に入るボールを狩るという守備である。この日の岩崎は目立った活躍ができなかったのではないだろうか。もしも岩崎に加えて樺山が逆サイドでスタメンだったらまた違った試合になったのかもしれない。とにかく藤原神が奪いまくっていた。

新潟と鳥栖、攻守共に同じ志向でサッカーをやっている両チームは今後ライバルとして何度も名勝負を繰り広げてくれるに違いない。超リスペクト!

試合雑感

ダニーロの躍動が見たい。

前回鳥栖との対戦は鳥栖の完全新潟シフト守備の前に沈黙してしまったが、今の新潟は川崎を上回ったという事実と自信を持っている。

何事にも動じず己の信念を貫き通しての勝利に期待していたが、両者双方ボールの奪いどころに特徴のある試合となった。

新潟は442でタッチラインに追い込んでサイドで奪うが、鳥栖は433や4132やマンツーやらでレーンを埋めてハーフスペースを通そうとする新潟の縦パスを奪うという守備だった。これは結構特徴的だったように思う。

試合終了後における小野裕二インタビューは新潟へのリスペクトが凄い。選手からしても新潟のサッカーは魅力的なのかもしれない。

鳥栖はとにかく河原が凄すぎた。新潟にはヤンがいて鳥栖には河原がいるという感じ。ビルドアップ時の心臓として、ボールの狩人としてハイパフォーマンスを披露してくれた。熊本時代も飛び抜けていた河原だが、鳥栖のサッカーにピッタリはまるピースで更に凄くなってる。24歳と若いのでこれからも伸び続けるに違いない。来ないとは思うが間違いなく新潟のサッカーに最適なボランチだろう。

あまりにも河原が鳥栖の心臓すぎるので新潟は途中から鳥栖ビルドアップ時に河原を3人で囲んでいたりもした。そのくらいしないとヤバイ選手ということになる。これはJ2時代にヤンが良くやられていたやつだが、河原はJ1でこの対策を他のクラブにもやられてるんじゃないかと思う。ヤンはJ1じゃそこまで嫌がらせされてない。

ヤンとモロ被りだし新潟は既にヤンの後継は用意できているはずなので河原が新潟に来ることは無いと思うが、間違いなく新潟のサッカーを体現できるボランチ。凄い。

今日の新潟は普通かな?という印象だったがマイケルのボールキープがなんか安定してた。失点シーンのプレイをどう評価するのかはプレイヤー経験がないと難易度が判断できない。うまくギリギリ頭が届かないところに蹴った原田が凄かったんだろう。その前の河原のフィードも凄すぎた

今日の試合では出場機会を得られないダニーロ谷口も出場できたので彼らには残り試合可能な限り出場機会を得てほしい。

スタメン松田は前回よりも機能していた。ジョーカー松田のパフォーマンスとはいかないが、松田も残り試合で更なる進化を見せてくれるだろうか。

一桁順位は十分に達成可能なので残り4試合を大事に扱ってもらいたい。


「これでわかった!サッカーのしくみ」をコンセプトにアルビレックス新潟の試合雑感を中心に書いています。